8月10日 オークの国 僕から見たオークの生態と小説家キログラム氏との密談
おそらく平成26年8月10日
剣暦××年7月10日
オークの国オーバーラブ
王都グレーテルオーバーラブ
大鬼は、大体僕らがゲームとかで持つイメージそのままの形態生態を採っている。
豚に似た顔、巨大な体躯、灰色や緑がかった体色、腰ミノ。
あと、棍棒。国民ひとり当たり、1.7本の棍棒を所持している計算になる。
怪力で、怒ると普段から大きい声がアホみたいな怒声になる。
人間なんて、彼らの雄たけびを聞いただけですくみあがるだろう。
しかも怒りのスイッチがどこで入るかわからない。
オークだけの戒律である『経典』とやらがあるらしく、それに外れることをするとブチ切れるのだとか。しかし、分断主義が最も強いオークでは、『経典』を他国の人間に見せることを、非常に嫌う。
おそらくは、他国からの偏見と侵略を受け続けたことからの自衛策としての秘密主義だと思われるが、それが逆に彼らへの偏見を増長させている。
八進法を使う。雑食だが、農作物の生産を得意とする。
しかし、オーク自体が大食漢の集まりなため、常に食料が不足している。
欲望に忠実で、正直に生きることを、『美しい』生き方であると考えている(のではないだろうか? 想像だが)
悪い心を持つ者は、ファンタジーに出てくるモンスターそのものに暴れまわり奪い尽くすが、一部の悪人が罪を犯すのはどの種族でも同じである。
むしろ、今まで出会ったオークを思い出すと、ずいぶんと理知的な人たちだったように思う。彼らは、我慢強く思慮深いのだが、前述した『経典』にかかわることになった途端、戦闘生物になるから困る。
昔、年鑑をジンさんに読んでもらったが、最も戦争をしている期間の長い国は人間の国だし、再犯の多い国はドワーフの国で、放火件数が多いのはエルフの国だった。オークの国は犯罪件数が桁違いに多かったが、それはオークの国の警察が優秀で犯人の検挙率が一番高いからだ、というのが僕とジンさんの間での結論となる。
ただし、衝動的な傷害致死が非常に多いのも、オークである。
彼らは、自分たちに対しての体罰を未だに捨てていない。
最も戦闘に長けた造形をしながら、自ら戦いをしかけることはほとんどない。
ただし、そうするに足る理由があると信じれば、誰であろうと棍棒を振う。
オークとは、つまり、ものすごく気難しい生き物なのである。
僕が今日、こっそり密会したオークの小説家のキログラムさんは、そんなオークの生態のサンプルとしてぴったりだった。
初代王様の名前を冠する大鬼の首都の、裏路地。
国王からの信任を得て、外交の相談役になることもあるというキログラムさんに、王様との謁見をとりなしてもらおうと、小説家の隠れ家で、僕とジンさんは、腰にトゲ付き棍棒をつるした身長3mのオーク相手になんとか、王様との交渉を取り付けることに成功した。
※※
『ときどきお前たち人間のことがわからなくなる。我々オーバーラブと友誼を結びたいと言いながら、私たちを怒らせにかかる。私とて国や集団というものはわかっているつもりだが、少なくとも国使を出す段階になって意思統一ができていないというのは、どうなんだ? そんな国と我々が盟を結ぶと思うのか? わかっていると思うが、我々は常に偏見にさらされ、約束を反故にされ続けてきた。数百年に渡ってだ。それでもお前たちの国に攻め込まなかったのも、盟約の申し出を拒まなかったのも、常に両国の未来を案じ続けてきた王族の慈悲だ。そして、カンテラよ、大鬼のために、お前がしてくれたことを私も陛下も忘れていない。リーヨン様を連れ帰ってくれたこと心より感謝している、だから、私も国王陛下に推薦することができた。なのに、草原の国はお前に反逆罪の嫌疑をかけ、刺客まで放ったと言うではないか。さらに、代わりに来たフレイムロードとかいう小僧はなんだ。我々を最初から見くびり、高圧的な態度で振る舞い、ちょっと大きな声を出しただけで怖気付きおって。あんな者を、寄越すというだけで、我々には対等な条約を結ぼうという意志を感じさせない。陛下は、それでも国のことを思い、可能な限り譲歩しようとするだろう。だが、臣下は全員反対するし、私もお諫めするつもりだ。道義的にも、個人的にも、陛下に草原の国の特使として、お前を推挙することはできない』
勢いもあってか、反論できない。
3分くらいに渡って言いたいことを言いきったキログラムさんは、ふんぞり返って腕組ながら、こちらを見下ろしてる。
さすがの通訳のジンさんは一言一句通訳してくれたらしく、上記のようになったわけだが。
本当は心の底から謝罪して、誠心誠意気持ちを伝えるのが一番なのだろう。
オークという生き物に対しては、それが一番の近道であることを、僕は十分知っている。
けれど、時間はないし、『いや、僕は国の都合で振り回されただけで、お腹まで刺されてむしろ被害者なんだけど、そんな責められましても』という気持ちもあったので、さっさと切り札を使うことにした。
「ジンさん、今から言う言葉を、キログラムさんに伝えて」
獣頭人は、嫌な予感がするのだろう、苦い顔をした。自分が何を言わされるのか、それ如何ではついカッとなって腰にぶら下げた棍棒は通訳のジンさんに飛んでくるかもしれないのだ。だが、覚悟を決めたのか、相手のオークを見据えたまま、僕に訊く。
「嫌な予感しかしないが、言ってみろ」
「推挙してくれたら、リーヨンちゃんにオーバーラブ姓を名乗るように説得することを約束する」
「……おい、お前何を言っている?」
「先王妾腹リーヨン・オーバーラブに、国王陛下と会うように、僕の口から頼んで、承諾させる」
自分でも、正直ひどいこと言うよなあとは思ってるけれど、ほかに方法が見つからない。
「お前、わかってるんだよな。イリス殿下を救うために、リーヨンの人生を、無茶苦茶にするかもしれないんだ」
「それでも、だ」
僕がマジなのを確認すると、二回躊躇った後に、ジンさんは僕の提案をキログラムさんに伝えた。
キロさんの緑がかった肌が激昂で真っ赤になり、右手が棍棒に伸びかけ、怒鳴りそうな口元を左手で隠して我慢している様子を30秒ほど眺める。
落ち着いた口調を取り戻すと、静かに、問われる。
『リーヨン様が、お前の説得を確実に聞く保証があるか?』
「リーヨンちゃんは、僕と小指の誓いを果たしている。大鬼の国まで来たが、結局家族、この場合は王族と会えなくても、未だにこの国から出ないのは、僕との約束があるからだ」
『なっ?!』
「僕はオークにとっての小指の誓いがどれほど重いものかしっているつもりだ。彼女も、それがどれだけ大事かもしっている。だから」
『わかった。明日、陛下とお前を会わせてやる』
「できれば急いでいるから今夜中に会いたいんだけれど」
『わがままを言うな!!!!』
我慢しきれずに飛び出た怒声は、王都中に響いたという。




