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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
草原の国へ帰ろう!ドワーフの国旅行編
21/363

7月29日 山人の国 獣人が異物であるという会話

 おそらく平成26年7月29日

 剣暦××年6月29日


 ドワーフの国バーンスタイン

 領地上 無風の荒野

 借り上げた馬車にて移動中


 滅茶苦茶暑い。

 夏と言っても程があるだろうに。


 正直、僕が迷い込んだ異界ラドゥバレトフが地球と同じ丸い大地なのかも定かではないけれど、経度とか緯度って話をするとどれくらいの位置にあるのだろうか。

 草原の国なんかは、僕の実家と同じような気候をしてたから、緯度的に日本くらいになるのだろうか。

 そこから一週間馬車で北上した当たりなら、どちらかというと寒冷な気候だと思うのに。


 汗がひどくて、シャツを幌の端にひっかけて荷台で大の字。


 最初は乗り合わせの公用馬車(公営バスみたいなもの)で帰るつもりだったのだが、身長190の大人間と犬頭の獣人がドワーフの馬車を利用するのは、目立って仕方ないからやめておこうということになった。


 正直助かった。

 レストランとか飲み屋で人と相席するのは楽しくて好きなのだけれど、乗り物は人と相席するのがストレス溜まるから、心の中では安堵していた。


 しかしジンさんが言うには「もし、道中で襲われたら、一般人に迷惑をかけられないからな」だそうで。


 やっぱり、狙われるんだろうか。


「お前に救われて、協力を惜しまない者は俺を筆頭に星の数ほどいる。しかし、お前を危険視して命を奪いたい輩も桝で量るほどにいる」


 とのこと。僕は、人当たりがよくて嫌われにくい性格してると思ってたのだけれどなあ。



 ※※




「そもそも、文明人は獣人と仲良くしない。ふつうは距離を空ける」

 馬の手綱を握り、異変がないか目を配りながら、荷台の上で寝転がっている僕に『高町観照のどこが怪しく見えるのか』の結論としてそう締めくくった。


「なんで獣人と仲良くしちゃいけないのさ」


 ぶーたれると、ジンさんはひどく深いため息をついて解説を始める。


人間ヒューマン小人ホビット麗鬼えるふ山人ドワーフ大鬼オーク。この世界で『人』として定義される彼らは、自分たちの国を持っているだろう。そして、他国とは交わらないことを正しいこととしている。同じ剣祖を信仰しているもの同士でも見た目も生活様式も倫理も違う。だから、お互いに干渉しないことが平和の道だと、古い時代の人々は考えた」


 うん、知ってる。分断主義の教義第一条だもんね。


「だったら、必要とは言え、諸国を練り歩く獣人は、異物だ。そんなものと懇意にしている人間が、信用されると思うか?」


 ああ、なるほど。


「……そもそも、俺達は化物だ。動物の顔をしながら人の言葉を喋る。その一点だけでも、人から忌避される」


 少し、驚いた。ジンさんがそんな自虐を口にしたのは、初めてだったから。


「地球人の僕からしてみたら、小人も獣人も大して差がないし、どっちも好きなんだけどなあ」


 しかし、それにしても暑い。


「しかし、それにしても暑い。ねージンさん、幌の外のが涼しいんでない? そっち行っていい?」

「駄目だ。お前のでかい図体は目立つ。それに傷も完治してないんだ、そこで休んでろ」

「汗すごいんですけど」

「痩せるいい機会だ」

「おっふ」


 そこで会話が終わる。


 やばい、暑い。これ衛生的にもよくないっすよ。

 

 暑さで思考がやられていると、ふと、一番大事なことに気づいて、飛び起きた。


「でもさ、ジンさん。それを言ったら異世界からやってきた僕なんて究極の異物じゃん」


「そうだよ?」


 そうだよって言っちゃったよこの人。じゃ、なんだ、そもそも僕はこの世界から排除されるべき存在なわけね。


「すでに、怪しいとか怪しくない以前の話なのかぁ」

 天井の染みを数えながら、顔中から噴き出る汗に我慢できないでいたが、ふと、『そういや犬は汗をかかないと言うけれどジンさんはどうなのだろう』なんてくだらないことに思い至る。

 話題を変えるために思いジンさんの背中に声をかけようとして

「ただまあ、あれだ」

 頬を掻きながら

「それでも、他者に好かれるものを、お前は持っているからな。剣祖文明人も、俺達人でない者も、周りに集まる。だからこそ、凡人にはお前が度し難い物に見えるのかもしれない」


 褒められてんのかなあ。



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