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第1話 束の間の幸せは塵のごとく  6

 確かに今日も月は綺麗に闇夜を照らしてくれていたが、

 月の変わりにお仕置きというフレーズはあんまりよくない。


「何がまずいの?」


 アラミさんは僕の言葉に疑問を投げかけてくるが、絶対に伝わらない。


「いや、こう、あんまり変な弄り方すると怒られる可能性が――」


 伝わらないと思いつつ僕がアラミさんにそんなことを言っていると、突如として室内から剣やナイフなど危ない物が一斉にこちらに飛んできていた。


「うわぁ!?」


 僕が驚くよりも早く、アラミさんは目にも止まらぬ速さで僕を抱えると2階のベランダから飛び出し庭に降りた。


 アラミさんは地面に華麗に着地すると、アラミさんは流れる様に僕の足を地に降ろした。


「あ、ありがとうございます……」

「どういたしまして」


 アラミさんは余裕層に微笑みかけてきた。……カッコよ。


 騒ぎが聞こえてきたのか、部下達が銃を持って家から出てくる。


「なんだてめぇら!」


 輩みたいな言動を履きながら銃をこちらに突き付けてくる。


 アラミさんは前と同じ黒剣を出現させ笑って答える。


「正義を愛し、悪を滅するものよ~」


 なんでさっきからセリフが厨二全開なの? アラミさんの言葉に返すかのように輩達が一斉に発砲してくる。


「うわぁああああ!」


 僕は怯えてアラミさんの背後に隠れるが、アラミさんはいともたやすく剣で何発も飛んでくる銃弾を弾いた。どっかの侍かよ。


「雑魚は寝てなさ~い」


 銃撃が鳴りやんだ隙に、アラミさんは剣を構え敵に向かって横に薙ぐ。するととんでもない範囲の斬撃が飛び、斬撃が家の一階を通り抜けると、斬撃が通った所から綺麗にスパっと切れ、家は大きな音を立てて崩れる。


「うわあああああ!?」


 部下は崩れた家の下敷きになりった。うわぁ……むごい。


 ……てか、


「家斬れましたけど!? 家崩れましたけど!? リリアンさんまだ中にいましたよ!?」


 僕は大事なことに慌ててアラミさんに尋ねた。


「大丈夫よ。さっき対策しておいたから」


 アラミさんは慌てた様子なくそう言って答えた。


「対策って……」


 無敵になる魔法でもかけたの……?


「それより、ルド、あなたは大丈夫?」


 今更そんな心配をしてくる。ああ、さっきの銃弾のことかな。


「だ、大丈夫ですけど……だ、だから道中言ったじゃないですか! 僕連れてきても足手まといにしかならないって!」


 それはここに来る前の事だ。どうにも怪しさ満点のリリアンさんの跡を追うことにしたのだが、どうやらアラミさんは元々この街の怪しい噂を聞いていたらしい。


 なんでも、資産家の男がお金を貸しつつ、綺麗な娘のいる家の人達を窃盗犯に仕立て上げ食いものにしているという。


 けれど証拠も証言も曖昧にされ、事件として立証されにくい状態で今まで好きかってやってきていたらしい。


 それで、今回リリアンさんがその罠にはまっている所をたまたま見つけ、今まさにその現場を抑えたという経緯だ。


「でも、あなたにしか出来ないことは達成出来たのでしょう?」


 アラミさんが僕にそう聞いてくる。


「まぁそうですけど……」


 そういって、僕はポケットから徐にスマホを取り出し、さっきの男がリリアンさんを襲おうとしてる所の写真を見せた。


 特に必要ないから言わなかったけど、ずっとポケットにスマホだけは入ってたんだよね。もちろん防水。まぁ写真とるぐらいしかできないけど。


「上出来よ。これ便利ね」

「まぁホントはもっと色々使い道ありますけどね」

「あとは彼女を助けてこの事実をカイルに伝えれば———」


 目標達成。アラミさんがそう言おうとした時、崩れた家の方から、

 ドガガガガガガガッ!!!

 とガトリングのような銃声が響いた。


「うわあああああああ!!?」


 耳をつんざく轟音に僕は思わず屈みこんで目を閉じ耳を抑えた。


 突然のことに心臓はドキドキだが体に痛みはなく、恐る恐る目を開く。


 ゆっくりと音のした方を見ると、アラミさんが今度は剣と反対の手に黒い盾を持ち、僕を守る様に立っていた。

 その向こうでは落ちて歪んだベランダに40代ぐらいのダンディな男がゆらりと立っていた。


「せっかくこれから上玉を味わえる所だったってのに……興覚めする女だ」


 気怠そうに、しかし殺気を纏わせた男がこちらを見てくる。


 男の周辺には、なんだか強そうな銃が複数個ふよふよと浮いていた。


 しかしアラミさんは臆することなく、凛とした態度で言葉を返す。


「興覚めはこっちのセリフよ。せっかく今からおいしく晩御飯を食べようとしていたのに、あなたの我欲のせいで台無しだわ」

「死ね」


 アラミさんの態度に男は欠片も怯むことなく返すと、僕達の全方位を囲むように数多の銃が現れる。


「えっ」


 その事実に驚く間もなく、すべての銃が弾幕のように発砲を始めた。


 鳴り響く銃弾の音に鼓膜は破れそうで、耳を塞いでその場にしゃがみ込むのに必死だった。目を閉じても発砲する光で視界は強い光を当てられているように眩しい。


 普通ならあっと言う間にハチの巣だが、体にはひとつも痛みがない事だけはわかるが、恐怖だけが思考を支配する。


 何秒だったか、何分だったか、辺りが静かになる。

 耳にはキーンという大きな音が残り周りの音がうまく聞こえない。


 恐る恐る目を開けると、自分が傷一つ着いていないことを確認した。

 僕は自分が無事だと理解すると、慌ててアラミさんの方を見た。


 アラミさんは、ケロっとした様子で立っていて、男に言葉を放つ。


「もうおしまい? 女を満足させる前にへばるなんて……甲斐性のない男ね~」


 アラミさんは変わらず無傷で余裕そうな表情で笑いながら男を煽った。なんて煽り性能高いんだ……。


 男にとって最上級の魔法を防がれたのか、さすがの男も慌てた様子でベランダの手すりに両手をついてアラミさんを睨んで言う。


「どうやってあの銃弾の嵐を防いだ! 最強の魔障壁すらも打ち破る弾幕だぞ!?」

「私が強かっただけよ」


 短くアラミさんは男の言葉を切り捨てた。


「ぐっ……く、くそがぁああああああ!!」


 あまりにも余裕なアラミさんに男はキレた。


「俺は資産家だ! この街では俺がいなきゃ政府も街も回らねぇんだよ! 俺の機嫌を損ねたらどうなるかわかってんのか!?」

「そういうセリフは、真っ当な生き方をしてから言って欲しいわね。人を食い物にして己の性欲を貪る頭の悪い猿が何を言っても戯言にしか聞こえないわ……あら、これじゃ猿に失礼ね」

「……死ねぇえええええ! クソアマああああああああ!!」


 男は完全プッツンし、理性を失った。よっぽど今まで馬鹿にされたことなかったのだろうか。キレるのがお早いことで。


 男が叫ぶと、男の頭上に大きな大砲が出現した。多分、海賊船とかに着いてるような大きな大砲を何倍にもしたやつだ。多分、当たったら爆発しちゃう感じのやつ。


「あ、アラミさん! ど、どうするんですか!?」


 僕は思わずアラミさんに声を掛けた。


「これ、持ってなさい」


 アラミさんはそういうと、背後の僕を見ることもなく、左手に持っていた黒い盾を僕の方へと投げてきた。


「え…うをっ!」


 僕は慌てて受け取る。持ってみると盾はめっちゃ軽かった。鉱石みたいな見た目だけどカーボンみたいな軽さだ。


「しねええええええええええええ!」


 そして、男は叫び声と共に大砲を放った。

 巨大な砲弾がアラミさんめがけて飛んでくる。


「死ぬのはあなたよ」


 アラミさんは黒い剣を両手で持つと、僕らの世界の野球でボールを打つバッターみたいに剣を構えた。


「……せい」


 余裕そうに飛んできた砲弾を…切るのではなく切っ先を寝かせて剣の側面で捕らえるとフルスイングで打ち返した。


 打ち返した砲弾は発射した速度よりも早く放ったガレスの方へと飛んで行った。


「…………は?」


 男はあり得ない事に驚き身動きが取れず、跳ね返ってきた砲弾は男に直撃して爆発した。


 爆発は家全体を包むほど大きくなり、強烈な爆風に少し距離のあった僕達ですら吹き飛ばされそうな威力だった。


 僕は爆風に耐えながら、家が吹き飛ぶ様子をただ呆然と夢のように眺めていた。


 爆風が収まると、少しは形の残っていた家は瓦礫の山と化していた。

 瓦礫の上には真っ黒になったガレスが倒れていた。


「…………」


 唖然として言葉を失い、一瞬の静寂が流れる。しかし、大事なことを思い出す。


「ちょ……あ、アラミさん!? あそこにはまだリリアンさんがいるんですよ!?」

「…………あ」


 あ、じゃないよ。


「あ、じゃないですよ! どうするんですか!?」


 この状況で人が生きてるとは思えないんですけど。


「だ、大丈夫よ。さっきも言ったけど、ちゃんと対策はしておいたから……」


 少し声震えてますけど?


「えぇ……ホントに大丈夫なんですか?」


「……コホン。ルド、あなたはリリアンの安否を確認してちょうだい。私はガレスの様子を見てくるから」


 アラミさんは僕の返事を待たずして、壊れた瓦礫と共に伸びているガレスの元へと駆け寄った。


「あ~もうまったく……」


 僕は好き勝手に動くアラミさんに少し呆れながら、回り込むように先ほどまでリリアンさんがいたであろう部屋があった場所に向かった。


 内心、真っ黒に焼けたリリアンさんを見つけてしまったらどうしようと思いながら辺りを見渡すと、少しだけ瓦礫が盛り上がった所を見つける。


 試しにどかせる瓦礫をどかしてみるとそこには、無傷で焼けた様子もない綺麗なままのリリアンさんが気を失って倒れていた。


 ……なんであんな爆風で無事なんだ?


 しかし、体は無事みたいだけど、さっき男に服を乱されてなのか、この惨劇の途中なのか、肌が露わになっている部分がある。


 …………む、胸が……。


「…………はっ!」


 ついジーっと見てしまった。バカ、見るな僕。彼女は怖い目にあわされた被害者なんだ。失礼だ。


 頭を横にぶんぶんと振り余計な考えを振り払うと、僕は着ていた制服の上着を脱いでリリアンさんに掛けた。


 固く結ばれていた縄をなんとか解き、軽く肩を揺すりながら呼びかけてみる。


「リリアンさん……リリアンさん……聞こえますか?」


 するとリリアンさんは僕の声に反応を見せた。


「う……うぅん……」


 少し唸り声を出してゆっくり目を開く。意識が朦朧としているのか、呆然とした目で僕と目が合う。


「……ルドくん?」


 僕のことを認識していた。意識はしっかりしているようだ。


「……大丈夫ですか?」


 優しい口調を意識して問いかける。するとリリアンさんはゆっくりと辺りを見渡し、荒れ果てた場所にいる事に不思議がっていた。


 そして、気を失う前の事を徐々に思い出したのか、段々と怯えた顔になって僕の方を見る。


「あの男は!? 私は……どうなったんですか!?」


 周囲の状況と、自分の状況に少し錯乱している感じだった。


 訳が分からない状況にリリアンさんは脅えたように確認してきた。


「だ、大丈夫ですよ。あぶない男はやっつけましたから!」

「ほ、ほんと……ですか?」

「はい。まぁやっつけたのはアラミさんですけどね」

「……そうですか……よかった……」


 僕がそういうと、リリアンさんは安堵したのか、徐々に目に涙を溜め、相当怖かったのか、


「怖かった…怖かったです~!」


 泣きながら僕に抱きついてきた。


 唐突な事に驚きつつ、僕はいけないと思いつつ、リリアンさんの柔らかい胸が体に触れたりすることに対して、どうしたってそちらに意識がいってしまう。思春期なので。

「こ、怖かったですよね。お、落ち着いて下さい…」


 僕はどうしたらいいのかわからず抱き返すわけにもいかずアワアワしていた。


 役得と思いながらも、この人婚約者いるんだよなぁなどと女性の体の感触と人の女性であることに葛藤していると、突然男の叫び声が聞こえてくる。


「うわあああああああ! や、やめろおおおおおおお!」


 叫び声というより悲鳴に近い声に、僕とリリアンさんはビクッと驚きながら声のする方を見た。


 そこには……ある意味でとんでもなく恐ろしい光景が広がっていた。


 男は生きていたのかいつの間にか起き上がって、アラミさんと何か話をしていたのか、今は男の周りに、大小様々な鳥が群がっていた。


 鳥は男を啄んだり足で蹴ったりと攻撃を繰り返している。


「なんなんだてめぇら! やめろ! ……クソがぁあああ!」


 沢山の鳥に男が抵抗をしていると、どこからか一匹の、人間よりも大きいな鳥がやってくる。


 大きな鳥は男の両肩を太い足で鷲掴みにすると、男を持ったまま空へと浮き上がり、他のたくさんの鳥にもみくちゃにされながら叫び、この国の象徴でもあるおおきな山の方へと運ばれていった。


「じゃあね~」


 優しい口調でアラミさんは鳥が去っていくのを見送っていた。


「…………」

「…………」


 その光景を、僕とリリアンさんは抱き合ったまま唖然とした表情で見ていた。


 ……ホントに、この人はわけがわからない。鳥使いなの?


 僕とリリアンさんは唖然としていたが我に返り、アラミさんの側にいくと、僕は間髪入れずアラミさんに尋ねた。


「……い、今の鳥はなんですか!?」

「何って、鳥葬よ」


「鳥葬って……あの死体を鳥に食べさせるやつですか!?」


「違うわよ。こんな街の近くで殺すのも後味悪いし、反省しないからあの火口に彼を落として上げようと思って、運ぶのを鳥さん達に任せたのよ」


「な、何言ってんすか!? 結局殺すってことじゃないですか! 違わないよ!」


「言ったでしょ? 悪党はどうせ同じことを繰り返すの。慈悲は無用よ」


「…………まぁそうですけど……」


 普段のやさしい言動とは裏腹に、アラミさんのこういう時の強かさには背筋をぞっとさせる物がある。


 僕がアラミさんの行動に呆れていると、リリアンさんは深々と頭を下げてお礼を言う。


「助けて頂いてありがとうございました!」

「いいのよ。あなたが無事ならそれで」


 アラミさんはなんでもなかったかのように、それでも助かってよかったといった様子で微笑みながら言っていた。


「けど、あいつがいなくなったら資金援助はどうするんですか? 他の人も色々困るんじゃないですか……?」


 僕は無粋な事と思いつつ、気になったことを思わず聞いていた。


「大丈夫よ。それに関しては——」


 アラミさんが何かを説明しようとした所で、突如煌々と光る眩しい光が突如僕達に向けられ、怒号のような叫び声が聞こえた。


「動くなあああああああああ!!!」


 その叫び声には聞き覚えがあった。


 眩しさに薄目で光の方を見ると、光の横には……城でみたカイルさんの姿があった。

 その背後には、たくさんの兵が待機していた。……大事じゃん。


「両手を頭の後ろに回しその場に伏せろ!!」


 カイルさんのその声は、城で聞いた時の優しい好青年といった様子ではなかった。


「……さすがにこの騒ぎじゃ見つかるわね」


 アラミさんはため息交じりにそういうと、抵抗する様子もなく手を頭の後ろに置いていた。


「て、抵抗しないんですか?」

「国を敵に回しちゃ商売しにくいものね」


 あっけからんと答えるアラミさん。

 僕達は抵抗など出来るはずもなく、あっさりと捕まってしまった。

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