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なんで僕がこんなところに!?  作者: 対子落とし
【第 1章】目覚めた先
20/22

1 ― 18 ピクニック2

ぶっちゃけ説明回です

 僕の決意が固まったところで、椅子に座る。


「冷めてしまいましたね」


 淹れたての紅茶がすっかり冷えてしまっていた。僕としてはこのくらいの温度が一番飲みやすいのだけれど。


「頂きますか」


 テーブルの上に並べた紅茶とかサンドイッチが、結構時間が経ってしまっていたせいか冷めていたり、湿気を吸っていたりしてふやけていた。サンドイッチは鮮度が 勝負の品だけど、それでも捨てるのはもったいないから食べることにする。


「捨てるのはもったいないから、いただきます」


 テーブルに乗せられたお皿の上に並ばれたサンドイッチを目の前に、手と手を合わせて、いつものように声を出す。


「サキ。今の”モッタイナイ”と”イタダキマス”の意味はあるの?」


 サンドイッチを食べようとしてすかさず声が掛かる。声の主はどうやらお母様らしい。


「あぁ、ごめんなさい。いつもの癖で、つい」


 そっかぁ。そうだよね。知らないよね、っと思っていると顔が赤くなっていることに気が付いて、さらに赤くなっていくのが分かる。気を落ち着かせることを先にしないと、説明も出来ないから紅茶を一口。


 うん、少し落ち着いた。


「まずは”もったいない”からですね」


と前置きをする。


「”とある物の価値を十分に生かしきれて居ないのに、捨てられたり無駄になっていたりすること”を指します」


 テーブルに並べられたサンドイッチを指差しする。


「例えば、このサンドイッチがそうですね。サンドイッチは鮮度が命。なのに湿気を吸ってしまってふやけてしまっている。このまま食べずに捨てるのは”もったいない”ということです」


 あれ、全員が頷いている。


「あとは”いただきます”ですね」


 手と手を合わせる。


「簡単に言ってしまえば、僕が前居た世界での”あいさつ”みたいなものです」


 あれ? 全員が真剣になって聞いてる。


「例えば”おはよう”とか”こんにちは”とか”こんばんは”とかのあいさつの一つだと思って貰えれば分かりやすいかと思います」


 あれ、これってそんなに大事なこと?


「この”いただきます”は食前に掛けるあいさつで、対となるあいさつがあります。それが”ごちそうさま”です。”ごちそうさまでした”とも言いますね。この”ごちそうさま”は食後に掛けるあいさつです」


 あれれ?


「この”いただきます”と”ごちそうさま”には、手と手を合わせながら言うのが最適です」


「「「「ふむふむ」」」」


 あれ? なんで?


「では後で一緒にやってみましょうか」


 僕がそう言うと、皆さん頷いていた。


「……お爺様はご存知かと思っていましたけど」


「まさか。儂はこの国から出たことはないぞい。東方とうほうへ行こうとしたが呼び止められてな。結局行けず仕舞いなのよ」


 そう言いながらお爺様はお母様の方を見る。


「あのときですか……」


 思い当たるのか、お母様が思いふける。


「今になって思えば、あのときが唯一東方の地におもむくことが出来たチャンスじゃったのぅ」


「……結果的に呼び止めて正解だったけどね」


「そうじゃのぅ……」


 二人して遠い目をしている。まぁ想像は付くけど。


「東方の地へ向かう船が嵐に巻き込まれて連絡が取れなくなったのよ」


「あぁ、なるほど。台風ですか」


「サキ? あなたの世界では”タイフウ”と言うの?」


「国と地域によって呼び方が変わりますけどね」


 ややこしいことに、北太平洋で発生するものが「台風」、北大西洋で発生するものが「ハリケーン」、インド洋で発生するものが「サイクロン」と区別されるんだよね。僕も一時期この手のことを調べていてびっくりしたことを覚えている。


「あの時は、何か嫌な予感がしたからお父様を呼び止めたのよ。結果的に呼び止めて正解だったけど」


「そうじゃな」


「あぁもうやめてくださいお父様ぁ~」


 お爺様がお母様の頭をぐちゃぐちゃにしている。でも嬉しそうなのは、やっぱり仲がいいってことなのかな。


閑話休題そんなことよりも!」


 皆さんを急かすように、僕はちょっと声を荒らげる。


「サンドイッチは足が早いから早く食べてしまわないと!」


 皆さんが椅子にきちんと座ったことを確認して……。


「手と手を合わせて」


「「「「「いただきます」」」」」




☆ ✭ ☆ ✭ ☆ ✭




「「「「「ごちそうさま(でした)」」」」」


 ここはあくまでもプライベートのピクニック。周りのことを気にせずにワイワイガヤガヤ出来る。この世界に来てから、気持ちの整理も付いて初めて羽を伸ばせた気がする。


 湿気は吸っていたけど、食べられない訳じゃなくて。とてもおいしいものを食べられたと思う。僕は本格的な料理をしないから分からないけど、何か高級な食材でも使っているのだろうか。それとも、調理法? 


 お母様にとっても、僕にとっても、強いてはお爺様とシーラさんにとっても、とても有意義な時間を過ごせたと思う。


「そういえば、お爺様は戻らなくてもいいんですか?」


「あっと。そうじゃった。あまりにも楽しくてすっかり忘れていたわい」


 あれから結構な時間が経っているけど、大丈夫なのかな?


「ゴホン。そのことならもう大丈夫よ。私の権限で何とかしておいたから」


「「「えっ」」」


 これにはお母様も僕もお爺様も唖然とする。


「さっき”サキは特別な存在だ”って話はしたでしょう?」


「はい」


 携帯電話……。というかスマートフォンの件とか。


「あなたが、このハンサムなお爺さん、『アーヴィン・メール・カナリック・オリヴィア』と契約(誓い)を結んだときにね、冥府の主と話を通しておいてきたよ。簡単に言うと”サキは十分に信用出来る”って話をね。そしたら二つ返事で許可を出してくれたわ」


「なんというかそんなにあっさり……」


 あっさり過ぎて逆に不安なんだけども。


「事前に話は通していたんだけどね。実際に会ってみないと分からないことだってあるし」


「はぁ、確かにそうですが……。よく分かりませんね」


「今はそれでいいのよ、サキ」


 クラリスさんから頭を撫でられる、というかウリウリされる。


「あぁ~~~やめてぇ~~~」


 あぁ髪の毛がグチャグチャに……。まぁ手櫛で直るんだけどね。


 するとクラリスさんは、お爺様の方へと歩いていく。クラリスさんとお爺様は何か話し始めた。


「冥府の主から伝言。『自由に行き来出来るようにしておいてやるから、たまには帰って来い。お前さんの故郷でもあるからさ』とね」


「承知した」


「いい返事ね。サキのこと、よろしくお願いするね」


「うむ」


 クラリスさんとお爺様が握手をしている。女社長とその部下みたいな感じになっている。すごい栄えて見える。


「サキの使うスキルは、どれだけ普通のスキルを使おうとしても、だいたいのものが通常とは違う効果になったり、特殊な追加効果が含まれるわ。スキルを使うときは、十分に気を付けてね」


「はい、分かりました。気を付けます」


「いい返事ね」


 クラリスさんは満足げに頷く。


「それじゃあ、私はそろそろ持ち場に戻ろうかな」


 クラリスさんは椅子から立ち上がると、僕が座っている椅子に近づいてくる。僕が座っている椅子のところまで来ると、右手を口元にあてる。何か小さな声でしか話せないことだと感づいた僕は、耳元に左手をあてて聞こえやすいようにする。


「さっきも言ったけど、サキが使う・使おうとするスキルとかいろいろなものは、通常のスキルとは効果が違うものだったり、特殊な追加効果が付与されることもある。それと、消費MPが限りなく少ないものになっているから、気を付けてね」


 うーん。”限りなく少ない”か。そういえば、【冥府から続く扉】(メイド・イン・ハデス)を使った割にはMPがほとんど減っていないことに気が付いた。


「……あれ?」


「気付いた?」


「はい」


「つまり、そういうことだから。十分に気を付けてね」


「分かりました」


 ”限りなく少ない”とは、言葉通りだと言うことが分かった。


「肝に銘じておきます」


「よろしい」


 クラリスさんは『うん』と頷くと、白いドアの方へ歩き出した。足場には不思議と透明な板のようなものが階段のように出現しては消滅していく。しばらくすると白いドアの前に立つと、こちらに振り向く。


「じゃあまたいつか会いましょう」


 クラリスさんがそう声を掛ける。


「はい。その時はよろしくお願いします」


と僕はそれに答える。


「「「ありがとうございました」」」


とクラリスさんに向かって敬礼をしながらお母様、シーラさん、お爺様は答えた。


 クラリスさんはその返答に対して笑を返す。そして白いドアを開けた。そのドアからは辺りを白く照らす。そのドアから見えた光景は、驚きの光景だった。


 白い建造物が立ち並び、神殿のような建造物も見えた。僕はいかにも異世界に来たんだな、と実感が湧いた。


 白いドアが閉まった数秒後、ドアの周りから、白い魔法陣が現れてだんだん速く回転していく。するとドアがだんだんと薄くなっていく。キラキラと散っていく。


「きれい……」


 思わず声が出てしまう。それくらい幻想的な光景が広がっていた。


――――――


 魔法陣がだんだんと回転が遅くなっていく。そして小さくなっていくと、何も無かったかのように魔法陣も消えていった。


――――――


 消えていった魔法陣を僕とお母様とシーラさんとお爺様で見つめる。そこには本当に何もなかったかのように澄み切った青空が広がっていた。


「行ってしまいましたね……」


 僕はついそう呟いてしまう。


「そうね……」


 それにお母様も反応する。ついさっきまで"そこにあったもの"が何も無くなっているから、無理もないとも思えるけどね。




 しばらく呆けていると、お母様とシーラさんとお爺様は敬礼をやめると、ため息をつく。気持ちを切り替えるためと思う。




「さて。私たちも帰りましょうか」


「そうね」


「はい、お母様」


「そうじゃな」


 上からシーラさん、僕、お爺様の順でそれに答える。くつろげたような、くつろげていないような……。なんとも微妙なピクニックはこれで終わった。

【初版】 2018/06/16 03:12

 はい、説明回でした。「台風」と「ハリケーン」と「サイクロン」の違いはぶっちゃけ調べました。まさかこんなに違うとは。サキの反応は、作者本人の反応でもあります。驚愕でした。


【追記】 2018/06/16 19:30

 一部追記しました。罫線の下側が追記部分になります。


【追記】 2018/06/18 01:34

 emダッシュ記号(―)で書いていたつもりが長音符(ー)となっていた為に、emダッシュ記号(―)に差し替えました。


【追記】 2018/06/28 15:08

 加筆しました。加筆した部分は罫線の下側になります。

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