35話
不定期で申し訳ないです…
突然現れたのは、頭が痛くなるほど複雑な術の残骸に包まれた茫然自失の青年と壊れた妹。
最愛の妹の体から魔が零れ落ちていくのが見て取れ、ただ漠然と「死」を思った。
―――自分と同等の力を持つ片割れが、まさか。
ぼうっとその光景を眺めていると、横を小さな影が横切る。
それが、二人の傍に屈み、手を伸ばした所ではたと正気に戻って、思わず、声を荒げる。
「触るな、モルペウス!」
「この体は僕のじゃないので、その名に強制力はありませんよ、アポロン」
青年は手を止め、せせら笑う。
「貴方という人がそれも失念していましたか」
「口を閉じろ、……マナナン=マクリール」
どれだけ危ういのか見て分からない筈ないのに、という疑問が霧散したのは目の前の存在が俺の手を取った時だった。
「嵌めたのか」
名はその人を表すという。
人同士で行えば、区別。
しかし、魔同士、または一人は魔、一人は人間の場合、より力を持った方が主としての決定権を持つ。
「10かそこらのガキでもあの女の息子だってことか」
現に、捕らえられた手を振り払うことができない。
「……随分と陰湿になたじゃねぇか、モルス」
触れたその手は冷たい。
幼い手は想像以上に柔らかく、妹が甘やかしたことが瞼裏に浮かぶ。
「人聞きが悪いですよ」
くすくすと笑うその顔は非常に穏やかで、出来の悪い子供を見るようだった。
「俺を縛ろうって魂胆か」
「やだな、ちょっと力を貸して欲しいだけですって」
肩越しには、末端部分から身体が崩れていく女が見えた。
これが俺たちの最期なんだろうか、と考えた所でふと思う。
「お前、アイツを何とかする考えがあるのか?」
生憎、死んだことがない自分には分からない。
実態が無ければ怪我をすることも、当然死ぬような致命傷も負うことがないので何をすればいいのか分からない。
「分かりませんよ、そんな方法」
「は?」
「僕も死んだことはないですし……でも、手掛かりがあります」
乱れた髪を掻き分け、顔を覗き込む。
「彼女が誰か、分かります?」
横たわっているのは彼女では無い誰かだった。