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サイコパス男爵とシリアルキラー姫~42人殺した娘を、父は今日も隠し続ける~  作者: 諏訪 富二一(ふじいち)
プロローグ

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我々は何をするべきだったのか?それとも何もするべきだはなかったのか?

挿絵(By みてみん)

不吉な死神の鎌を思わせる三日月を、厚い雲が覆っていた。


 月明かりすら届かない闇の中。


 崩れたステンドグラス。


 朽ちた長椅子。


 ひび割れた石柱。


 かつて多くの信徒が祈りを捧げたであろう礼拝堂は、今では静かな廃墟となっていた。


 その中央。


 一人の少女が跪いている。


 薄い桃色の髪をツインテールに結った少女だった。


 高価なドレスを身に纏っている。


 だが、その姿に貴族らしい気品はなかった。


 肩は小さく震え。


 顔色は青白く。


 目の下には濃い隈が浮かんでいる。


 まるで何日も眠っていないような顔だった。


 そして。


 その喉元には、一振りの剣が突きつけられていた。


 少女は抵抗しない。


 逃げようともしない。


 ただ静かに目を閉じていた。


「ごめんなさい……」


 小さな声だった。


 風に消えそうなほど弱々しい。


「私が悪いの……」


 少女はそう呟く。


 まるで誰かへ謝罪するように。


 あるいは自分自身へ言い聞かせるように。


「だから、もう終わらせて……」


 その言葉を聞いた瞬間。


 剣を握る女剣士の表情が歪んだ。


 怒りだった。


「終わらせるだと?」


 長い金髪を揺らしながら女剣士が吐き捨てる。


「貴様が何人殺したと思っている!」


 少女は答えない。


「四十二人だ!」


 礼拝堂に怒声が響いた。


「四十二人もの命を奪っておいて、今さら被害者面をするな!」


 少女はゆっくりと目を開く。


 その瞳には絶望しかなかった。


「……うん」


 小さく頷く。


「私が殺した」


 あまりにも素直な肯定だった。


 言い訳もない。


 否定もない。


 だからこそ女剣士の怒りはさらに強くなる。


「なぜだ!」


 剣先が震える。


「何故そんなことをした!」


「…………」


 少女は答えない。


 唇を噛む。


 そして再び目を閉じた。


「ごめんなさい」


 それしか言わなかった。


 女剣士は歯を食いしばる。


 目の前の少女は弱々しい。


 今にも壊れてしまいそうだ。


 だが、その手は四十二人の命で汚れている。


 だから。


 だからこそ。


 裁かなければならない。


「その罪――命で償え!」


 剣が振り上げられた。


 鋭い刃が月光を反射する。


 少女は抵抗しない。


 逃げない。


 ただ静かに死を受け入れていた。


 そして。


 剣が振り下ろされた。


 その瞬間だった。


「待て」


 低い男の声。


 直後。


 ガキィィィィィン!!


 激しい金属音が礼拝堂を揺らした。


 火花が散る。


 振り下ろされた剣は、少女へ届いていなかった。


 一本の刀が受け止めていた。


 異世界から召喚された稀人(まれびと)たちが伝えたという片刃の剣。


 その柄を握る人物を見た瞬間。


 女剣士の目が見開かれる。


「ヴァーミリオン……!」


 そこに立っていたのは一人の老人だった。


 白髪。


 長身。


 モノクル。


 仕立ての良い礼服。


 老齢であるにも関わらず、その立ち姿には一切の衰えが感じられない。


 むしろ猛獣のような危険さすら漂わせていた。


「アシュハートはどうした!」


 勇者の問いに老人は淡々と答える。


「獣人のことか」


 声に感情はない。


「あの男なら俺のメイドが相手をしている」


 そして一歩前へ出た。


 少女を庇うように。


「だがそんなことはどうでもいい」


 老人は静かに言う。


「剣を引け、勇者」


「お前が殺そうとしているその少女は悪人ではない」


「この場で裁かれるべきは俺一人だ」


 女剣士の瞳に憎悪が宿る。


「ふざけるな!」


 怒声が響く。


「その娘が何をしたか知っているだろう!」


「ああ」


「なら何故庇う!」


 老人は答えた。


 迷いなく。


「俺の娘だからだ」


 少女が目を見開く。


 女剣士も言葉を失う。


 だが次の瞬間。


 勇者は再び剣を構えた。


「ならば、その娘を殺し!」


 地面を蹴る。


「その後で貴様も殺す!」


 爆発的な速度。


 勇者は一瞬で距離を詰めた。


 剣閃。


 衝撃。


 刀が弾き飛ばされる。


 勝負は決した。


 そう見えた。


 だが。


 老人は最初から隙を晒していたわけではない。


 誘っていたのだ。


 勇者の腕を掴む。


「なっ――」


 次の瞬間。


 女剣士の身体が宙を舞った。


 轟音。


 石床が砕ける。


 勇者は礼拝堂の床へ叩きつけられていた。


「がはっ!」


 肺の空気が吐き出される。


 老人は感情のない目で勇者を見下ろした。


 そして。


 背後を振り返る。


 そこには少女がいた。


 血塗れの連続殺人犯。


 誰よりも孤独だった義理の娘。


 老人は静かに目を閉じる。


(どこで間違えた)


 思考は自然と過去へ向かう。


(何が足りなかった)


(どこで狂った)


 答えは分からない。


 だが、一つだけ確かなことがある。


 全ての始まりは――。


 一人の少年を屋敷へ招き入れた日だった。


 それは二か月前へ遡る。

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※画像はAI生成です。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


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