126 そこはかとない嫌な予感
◇ Side 主人公
脱衣所のドアに手を掛けた俺は、ふと電話がかかってきたことを思い出していた。
なので、確認のためにリビングに顔を出したが、そこにバロムの姿は無い。少し不審に思いつつ、今度はゲーム部屋を覗くも..... やはりいない。
おかしい.... 前にバロムの常識知らずが露呈してからは、家から出ないことを厳命しておいたはずなのに。そして案の定、【森羅万象】による周辺感知でもバロムの気配は感じられなかった。
「まずい.... そこはかとなく嫌な予感がする」
以前は所持していた【直感】スキル.... その、今は森羅万象の材料になったスキルの残滓が、俺にとって不都合なことが起こる未来を告げていた。じんわりとした、服が汗で湿ったときのような、もやもやする不快感がある。
急を要するとまでは言わないが、こんな予感をダンジョン外で抱くことなど滅多にない。少しの逡巡の後に、俺はアネモイにバロムの捜索を頼むことを決めた。そうしてリビングでくつろいでいるアネモイに問いを投げると.....
アネモイはあっけらかんと「阿呆なら、ダンジョンに行きましたよ?」と言い放った。
「いや止めろよ」
思わず本音が口から洩れるが、それも当然のことだろう。なんか身バレしないように手を尽くしたとか言っているが、まずは止めようよ。そうすれば身バレもなにもないんだからさ。
すぐに行き先を問いただし、その方向を目安としてバロムとのパスをたどるように【天眼通】の視点をかっ飛ばす。目まぐるしく移動する視点からもたらされる情報の濁流に脳を焼かれつつも、根性でスキルを維持。
そうして見つけたバロムは、黒ずくめの人間に包囲されていた。
「..............チッ」
思わず舌打ちがこぼれたよチクショウ。
最悪の展開だ。確かにバロムは鳥のような仮面を着けてはいるが、そんなことは意識の外に吹き飛ぶほどの不審者オーラを放っている。明らかに頭のおかしな狂人で、そうでなければ新手のモンスターだ。
まずいまずいまずい、あの場の黒ずくめをどうにか誤魔化す方法は.... ない。意識を刈り取るくらいは余裕だが、どうしても記憶は残る。相手の記憶が残らないような殴り方なんて、物理的に脳を吹き飛ばすくらいしか思い当たらない。
どうしようもない、ただその結論につき当たる。しかし、何も行動しないで時間を浪費するのはもっと最悪の選択肢だ。そうして考えることを放棄した俺は、始めにスキルによってバロムを回収した。
神足通の元となったスキルの一つである【入替転移】によって、周りの景色は見慣れたマイホームから人気のない繁華街へと切り替わった。そして、不審者を逃すまいと周囲に散開して包囲網を敷いた十人以上の気配が感じられる。
「「「「「「!?」」」」」」
急に姿が変わったことで警戒度を引き上げた周囲の黒ずくめ達と俺の間には、無言の膠着状態が生まれていた。
俺はそんな空白の時間で、そういえば普通に召喚すればよかったな.... とか、そんな後の祭りでしかないことを考える。反射的に使い慣れている【神足通】を選択してしまったのは、ダンジョンでその日暮らしをしていた俺の性だろう。
しかし、唯一自分を褒めてやりたいのは、きちんと般若面と外套を装備したということだ。目の前で俺を警戒して武器を構えた一団に素顔を見られずに済んだから。
ナイス俺! マジナイス!
そうして、場の膠着状態を打開したのは黒ずくめの一声だった。
「その場で両手を上げろ!」
その声の通りに両手を天高く上げると、今度は別の人が声を張り上げる。
「この地域一帯は現在避難勧告が発令されており、身元が明確な探索者のみが災害の対処を行っている。今すぐに身分を証明できる物を提示し
しかし、その発言を遮るように聞き覚えのある声が場を制した。
『部隊長の除き、α隊の隊員はその場から離脱! 部隊長はプロトコル3を3分間実行せよ!』
周囲の黒ずくめが持つ無線機から放たれた雑音交じりの声。その焦燥感を含んだ声は、明らかに俺の知る百武さんその人の声だった。
「.....ん?」
その声に反応して、周囲の黒ずくめは一人を除いて即座に退散する。そして残った一人は槍を置いたかと思えば、その場で糸が切れたように崩れ落ちる。
「???????」
そうして、数秒の後に目の前の黒ずくめは立ち上がった。
「ふぅ.... 超遠距離での同調に問題はなし。まだ試験段階での実践投入にはなったが、緊急事態にはそうも言ってられん。さて....」
手際よく周囲一帯に結界が張り巡らされ、目の前の黒ずくめはこう言った。
「早川さん、色々と聞きたいことがあります」
「あッ... ハイ」
リアクション 喜び Lv.1
ブックマーク 喜び Lv.2
評価 喜び Lv.3
感想 歓喜
レビュー 狂喜乱舞
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