122 終業式後の惨事
勢いだけで書きました。あとで大きく書き直すかも。
長い校長先生の話が終盤に差し掛かり、その就寝時間を満喫していたクラスメイトたちもポツポツと目覚めている。
探索者高校では、終業式がオンラインで行われていた。校歌はどうやら制作中らしく、行われたのは幾人かがダンジョンの攻略を何階層まで進めたという表彰と、夏休み期間も自己鍛錬に励んでくれという激励。あとは、ありがた長いお話が延々と繰り広げられているだけだ。
ほぼ全員が寝ているか自習しているかで、先生もそれらを黙認していた。あの先生も結構若そうだし、Z世代ってやつだな。
「で、あるからしてー。皆さんの健やかな成長と、新たな世界を切り開く力を、我々教師一同は応援しております。えー、名残はつきませんが本日はこれでお開きとしたいと思います。安全に気をつけ、元気な姿で始業式に会えることを楽しみにしています。それでは、よい夏休みを過ごしてください」
そう締めくくられた話を最後に、終業式はお開きとなった。今日は午前で終了だとクラスラインに共有された通り、周囲のクラスメイトたちはカバンを背負って教室を後にする。
そうして、俺もゆっくりと帰り支度をしていると、杉谷が机の横にやってきた。
「今日、放課後時間ある?」
「あるぞ」
「よかった。取り敢えずグリップ周りは軽く作ってみたんだが、微調整をしたいから付き合ってくれ。早川の手にピッタリフィットする銃に仕上げて見せるぞ」
「早いな」
「【並列思考】っていうスキルがあってな。実際の加工過程以外はかなり速いんだ」
並列思考か。その名の通りに複数のことに思考を割けるのなら、戦闘中でもかなり有用そうだな。もしかして、俺の【思考制御】でも同じようなことができるのだろうか?
「…よし、行こう」
机の中の教科書類をバックへと雑に突っ込み、準備を終えた俺たち2人はいつもの部室へと向かっていった。そうして大学側と高校側をつなぐ回廊に差し掛かるタイミングで、覚えのある気配が後ろから追ってきていることに気づいた。
「なぁ、後ろの…」
初めにそう言ったのは杉谷だ。どうやら、かなりの感知系スキルも持っているらしい。
「分かってる。名前は… 忘れちゃったんだけど、ほら。この前の交流会で準優勝だった人」
「星川さんか!?」
「そうそう」
「一体何しでかしたんだよ! 弓術選択の紅一点、高嶺の花の星川さんにストーキングされるってなんだよぉ!」
「いやぁ? 面識はないはずなんだけど…」
ただし、俺が不法侵入した件はのぞいて。という注釈は付くけど。だが、バレてるならとっくに先生に告げ口されてると思うんだよ。だからノーカンにしておこう。
「取り敢えず、撒こう」
「そうだな。制作の邪魔をされたら、いくらあの美貌でも殺意が湧く」
「………….そっか。うん、ソウダネ」
回廊を渡り切り、曲がり角で左に曲がる…. と見せかけて窓から脱出。そして、回廊の屋根を飛び越えて右側に走る。杉谷も難なく着いてきており、星川さんもそのまま左側に走っていったのが足音から分かった。
「行ったか?」
「行ったっぽい」
互いに気配を確認して、すぐに俺たちは空いている窓から廊下に戻った。
「さっさと部室まで行くぞ。今日中にストックとグリップの調整は終わらせておきたい。それさえ終われば、銃の構造を元に設計して、あとは重心の調整だけ。その工程は早川の手を煩わせない部分だからな」
銃の構造についての解説を聞いているうちに部室に到着した俺たちは、そのまま奥の加工機械が置いてある区画に足を踏み入れた。
「これだ」
そう言って杉谷が差し出したのは、木材で作られた銃のフレームだ。本体の機関部は付いていないが、実際に手で握る部分はそれっぽい形に削られている。
「一回握ってみてくれ」
言われるがまま、俺はまず銃のグリップ部分を握ってみる。すかさず杉谷から握りの指導が入りつつ、握ったり構えたりを見ていた彼は手元のメモ帳に文字を綴った。
「よし、コームを一回り削って... 銃床は3センチくらい長く...」
ハンディサイズのルーターでグリップとストックの境目を削り、ストックの肩に当たる部分には角を丸めた木の板を貼り付ける。そんな作業を10分ほどで済ませた杉谷は、再度加工したフレームを俺に握らせた。
「おぉ!」
握った時の親指の干渉が小さくなり、構える時の腕が明らかに楽になった。レベル相応の鋭敏な感覚が、その変化を明確に捉えている。
「こんなに変わるもんなんだな」
「あたぼうよ。オーダーメイドのスーツがジャストフィットするのと同じで、手や腕の骨格と筋肉に合わせて作った銃は手に馴染むものさ」
そう言った杉谷を援護するように、背後からもハツラツとした声がする。
「その通り! で、次は俺の番だ」
声の主は、この前に杉谷から紹介された制作部の一員である九条君。彼は刀剣研師という職人系の天職に就いており、その名の通り刀や剣の制作に取り組んでいると聞いていた。
俺はそんな彼が握るようにと渡してきた数種類の刃物を軽く素振りし、最も手に馴染む物を一本選んだ。
「コレ、かな?」
「よし、じゃぁ今度はこっちだ」
そう言って差し出された手を握る。そして手汗が滲んできたころに九条君は手を放した。
「うんうん、大体分かった。あとは任せといて!」
その一言を残して、九条君は部屋から出て行った。俺と杉谷は顔を見合わせ、彼は困ったように肩をすくめる。
「九条は勢いで生きているような人間だからな。いつもあんな感じなんだ。一度製作に熱中すれば、平気で約束もすっぽかす刀剣狂いだし。けど、その分だけ完成品の出来には期待できるさ」
そんなこんなで、二時間ほどの綿密な相談の後に、俺は部室を後にした。
杉谷からは、「魔鉄なら俺の方で用意出来るが、それ以上だと自分で手に入れてもらう必要がある」だったり、「フレームに木材を使うなら、トレント系のドロップアイテムがあると良い」などの助言をもらったりした。
なので、夏休み中は自己鍛錬とクランの育成に励みつつ、関東圏の良い素材がドロップするダンジョンを巡ってみようと思う。そんな計画を頭で描きつつ、俺は校門に続く校舎の横道を歩いていた。
「待った」
しかし、そこで凛とした声が響いた。それは聞き覚えのある声で、俺としてはあまり聞きたくなかった声。
「御剣先生...」
「さて、いつ頃指導を受けるんだ?」
なんかこの先生、隔離された空間だとお淑やかなのに、多少人がいるところでは毅然とした口調になるんだな。
下校しようとしている何人かがこちらに注目しており、明らかに「あいつは何をやらかしたんだ?」というような好奇の視線が全身に刺さる。
そんな中心で、先生は俺との距離をさらに詰め、逃がさないとばかりに肩へ手を置いてきた。
「....えーっと、また後で?」
『あくまでお詫びなので無理強いはしませんが、夏休み後半は忙しくなりそうなので、出来れば夏休み前半でお願いしたいです』
これは【以心伝心】か。それにやはり、なぜかしゃべり方が丁寧になっている。ギャップというか、違和感がすんごい。
そんなことを考えていると、今度は鋭い声が路地に響いた。
「おいぃぃぃぃぃッア....
叫びと共に走って来たのは、いつぞやの熱血野郎。目が血走っており、その相貌はまるでダンジョンの夜に出現する吸血鬼のよう。そして、遂に俺の肩まであと数秒という場所まで来た熱血野郎。しかし、そこでその姿は一人の女子生徒に姿を変えていた。
何を言っているのか理解できないだろう。あ…ありのまま今起こった事を話すぜ。俺に接近していた熱血野郎は、上空から降って来た破魔娘の下敷きになり、そのケツ圧の餌食となった。南無三。
「君! なんで逃げるのよ!」
そう声を発した破魔娘は、未だにクッションとなった熱血野郎に気づいていないらしい。
「えっと、下...」
蚊の鳴くような声でそう言うと、破魔娘はやっと自分の現状を理解したようだ。そして、甲高い悲鳴を上げ、ブーツで熱血野郎を足蹴にする。
「うげぇ」
汚い断末魔を上げる熱血君が、俺は少し可哀そうに見えた。探索者なので致命傷ではないだろうが、一応回復法術を使って回復はしておく。
しかし.... あぁ、なんてツイてない日なんだ。どうすんだよコレ。収拾つかないって。
暗雲立ち込める周囲の惨状。この暗雲を晴らせるようなカリスマを俺は持ちえないし、周囲の面々も流石の展開の速さを認識できていない。だが、俺はこういう状況を打破する手段をよーく知っていた。
.....逃げるか!
『LINEで連絡してください!』
そう先生に一言を残して、俺はその場から遁走した。多分だが、学年ラインから連絡を取ってくれるだろう。また、呆気に取られていた周囲の全員は、俺に構うようなこともない。結果として、ものの見事に家まで辿り着いた。
リアクション 喜び Lv.1
ブックマーク 喜び Lv.2
評価 喜び Lv.3
感想 歓喜
レビュー 狂喜乱舞
↑
作者の反応




