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俺は奈落の底に落ちている  作者: 緋色唯
10/10

episode10 奈落の最終日

佐々木…奈落となにがあった!?


森「佐々木が夜這いしてたんだよ!」


馬上「は?」


佐々木「だから言ってるじゃないですか!誤解だって!」


森「じゃあまた言ってみろ!目が覚めたら奈落さんの布団の中にいたってなぁ!?」


佐々木「不可抗力じゃないですか!夢遊なんですから!!それを夜這いだなんて人聞きが悪いですよ!いくら森さんが奈落さんのこと好きでも別に彼女でもないんですから、そんなに怒ることでもないでしょう?奈落さんも別に起こってないって言ってたし!」


森「なっ!!…訴えられてもおかしくないんだからな!!」


森が再び佐々木の胸ぐらにつかみかかった。馬上が慌てて森の両腕を掴み後ろに回し手首の関節を決めた。馬上は空手の経験がある。森が痛がったところに馬上が叱りつけた。


馬上「なんとなく状況は掴めたが、奈落さんが別にいいと言ったんだ。夢遊だし佐々木の言い分もわかる。」


森「馬上!それはないぜ」


馬上「森の言い分も勿論解る。奈落さんのことが好きでヤキモチ混じりだって事も。」


森「な!そんなんじゃ…」


馬上は、顔を赤らめ落ち着いた森の両腕を離し、再び自分の前に2人を正座させた。自分もその前に正座し、両手を握り両膝に置いた。深呼吸し咳払いをし、貫禄ある鋭い眼差しで2人を見つめ、ゆっくり口を開いた。


馬上「百合子のその…む、胸を昨晩揉んだ」


あまりの唐突な爆弾発言に2人は開いた口が塞がらなかった。少しの間頭の中が真っ白になったが我に還り2人いっぺんに馬上に飛びついた。


森・佐々木「はぁぁ!?!?!?」


森「な、なに急展開かましてんだよ!!ってことは…や、や、…やったのか…!?」


佐々木「中間さんのおっぱいを…」


森と佐々木の頭の中は平和である。まるで修学旅行中の盛りがついた中学生のようだ。


馬上「違うんだ。やってないし、事故だったんだ。俺が飲み物を買おうとしたのを引き止めた百合子が転んで助けようとしたら2人で転んで俺が上になってしまったんだ。その時に手をついたところが百合子の…その…身体だったんだ」


佐々木「そ、そんなドラマとか漫画でしか起こらないような、ありきたりのハプニング信じませんよ」


森「そうゆう佐々木もそのようなハプニングだけどな。」


佐々木「僕のは本当ですって!」


馬上「じゃあ俺のも信じてくれ!佐々木!!」


馬上は強く拳を握り正座したまま体を丸めお辞儀した。その誠意に森も佐々木も信じてみようという気持ちになった。


森「疑って悪かった。中間は…怒ってたか?」


馬上「笑ってた」


森も佐々木も驚いた。


佐々木「わらっ!?!?それ脈ありっすよ!」


馬上「それはない。百合子が優しいだけだ」


佐々木「な、なんで言い切れるんすか!こうゆう時、女は案外素直ですよ!」


森「…佐々木はどんな経験してきたんだ…。とりあえず怒ってなかったらいいよ。それより俺が気になったのは、」


佐々木「それよりってなんすか!重要っすよ!」


森「煩い!!少し黙れ!!…それより俺が気になったのは、お前の、馬上直人の心の中だ。」


馬上「…どうゆうことだ?」


森は呆れるようにため息をついた。


森「俺はお前ら2人を応援するよ。いずれお前もそうなる時が来るんじゃないかと待ちわびてたくらいだ。馬上、お前は中間の体を触ってどう思った。」


馬上「…?…柔らかかった?」


森「違う!!聞き方が悪かった。それは触った感想だ。…馬上は中間の胸を触り、許して、笑ってくれて、心の変化は無かったのかって話だ。中間の見方が変わったとか…」


馬上は触った後の事を思い返した。触った直後はとても怖った。嫌われるとかこれからどうすればいいかとか。罪意識に囚われすぎてマイナスな事しか考えられなかったが、中間に許しを得て今まで通り会話を交わしてくれて…。そして、笑顔を向けてくれる彼女を見て、少し心の変化があった事に気付いた。


馬上「百合子にだけは…嫌われたくないと思ったんだ…。百人に嫌われても、千人に嫌われても、それ以上でも、百合子、ただ1人にだけは、嫌われたくないと…思ったんだ…。」


必死に伝えようとする馬上を見て森はホッとし半面少し呆れ、馬上の肩を二回優しく叩いた。


森「その変化さえあればいいよ」


佐々木が2人を見て不思議そうに言った。

佐々木「馬上さん、難しく周りくどく言ってますけど、要は『好きと気づいた』って事っすよね?」


馬上が疑問そうに首を傾げ佐々木を見た。森は右手で顔面を覆い、呆れすぎて大きいため息が出た。ポカンと阿保口を開けている佐々木に森が佐々木の肩に右腕を回し小さな声で言った。


森「好意言わば、【恋】という気持ちは、教えてもらって気づくのではなく、自分で気づかなきゃダメなものなんだよ。」


佐々木「あぁ、なるほど。そういうことか。なんか哲学的なこと言ってますね。布教してるみたい。」


森が煮えきらない顔をし反論しようとしたが辞め、佐々木から離れた。


馬上「お前ら…一体なんなんだよ」


森「まぁ、馬上が心の階段を一段上がったって話だ。」


佐々木「白雪姫っすね!」


森「それを言うならシンデレラだ。馬上、またなんかあったら話聞くから、なんでも言ってくれよな」


馬上「う、うん。なんだかわからないけど、ありがとう?」


男3人組はそれぞれの心の歯車をまた一つまた一つと動かしていった。


一方その頃女子組。


少し黄ばんだレースカーテンから漏れる朝日に浴びられながらお互いの顔色を伺っていた。

先程色々とあり話したいことは山々だが、何から話したらいいか分からず、2人とも開きかける口を閉じる事を繰り返していた。


すると中間の携帯が鳴り2人ともビクっとした。


中間が止めに行った後奈落が口を開いた。


奈落「丁度7:30ですけど、こんな早くから、電話ですか?出なくていいんですか?」


中間「あーごめんね、目覚まし目覚まし!いつもの癖で7:30にセットしたままだったみたいね。」


奈落が成る程と納得すると、少しの間静寂が続いた。ふと中間が口を開く。


中間「そういえば、さっきあの男2人と何があったの?」


奈落が思い出したのか、少し顔を赤らめた。


奈落「今朝、体が縛られているかのように動かなくて寝苦しくて目が覚めたら目の前に佐々木くんの顔があって…」


中間「え、なにそれ」


奈落「寝相が悪すぎてらしいんですけど、私の布団に入って私を抱きしめてたみたいなんです。」


中間が露骨にドン引きした。


中間「何それ気持ち悪。あ、気持ち悪いなんて…ごめんごめん。素直な気持ちが表に出てしまったわ。えー、で、勿論怒ったんだよね?」


奈落「寝相が悪すぎて…なので…。」


中間「え!許しちゃったの!?そんな嘘みたいな理由で?」


奈落「すごく嫌だったんですけど…部屋に入ってきた森が…すごく怒ってて…なんかそれでいいかなって。」


奈落は微笑んだ。その様子を見て中間は、初めはなんで怒らなかったのかととても疑問だったが後半の理由を聞いて、全てではなかったがわかった気がした。


中間「そう!ならいいんだけど。嫌な時ははっきり嫌って言いなさいねー?男なんて何してくるかわからないんだから。」


奈落「あの…」


奈落が中間の先程の言葉にふと疑問を抱いたのか、珍しく積極的に話し始めた。中間も少し嬉しくなってどうしたの?と笑顔で返事をした。


奈落「触られて嫌じゃなかったら、どんな反応をすればいいんですか…。」


中間「え?佐々木くん!?」


中間は奈落の予想外の質問に思わず聞き返した。


奈落「あ、いや…。それとは別件で。元々男の人に触れられるのって好きじゃなくて、嫌なはずなんですけど、実際に触られて思ったよりも嫌じゃなかったら…どんな反応したらいいか分からなくて…自分にびっくりしたというか…あ、なんか、おかしいですよね…こんなの。」


奈落が話を進めるたびに落ち込み始めた。中間はその話を聞いてまるで昨晩の自分のようだと感じた。いくら馬上の事が気になってとしても体を触られたら怒るところを、何故かこんなにもすんなり受け入れ許してしまった自分がいて、奈落の話を聞いて自分自身もその件について疑問に思った。


中間「それ、分かるよ」


奈落「え?」


中間「その気持ちすごくわかる。手に取るようにわかる。実際私もその答えはわからないな。けど、その答えはきっと女という本能が教えてくれるかもね。」


奈落は中間の言葉に感動したのか口を一文字に結び微笑んだ。


奈落「やっぱり百合子さんに聞いてよかったです。」


中間「ならよかったよ!またなんかあったら遠慮なく聞いてね」


奈落「…はい」


奈落はこんなふうに、『頼っていいよ』と言ってもらえる人が今まで居なかったのでとても心から嬉しかった。

今まで友人は出来たことが無く、人に頼ることができなかった為、自分でなんでも解決してきた。両親はとても優しいが裕福ではなかったので両親共働きでいつも帰りが遅かった。汗水垂らして働く両親を知っているのでこれ以上負担はかけまいと相談はしなかった。だから、勉強のことも、いじめのことも、進路のことも、学費のことも、バイトのことも、全て自分で解決してきた。それが当たり前だと思っていたが、就職し森を始め仕事仲間が出来てこんな風に他愛ない話や相談もできて、奈落にとって全て初めてのことばかりで、まるで夢のようだった。

そう感じた時、過去がフラッシュバックした。小学生の時起こったあの日の事を。楽しかった小学校生活を送っていた最盛期を一瞬で奪い去っていったあの出来事。奈落の中でそれは脳裏に焼き付いて離れないトラウマとなっていた。


奈落が突然怯え震え出すので中間は驚いて、急いで隣に座り左手で震える背中をさすった。


中間「衣子ちゃん!大丈夫!?どうしたの!?」


奈落は中間の温かい声に我に帰った。


奈落「あ、あ…。すいません。」


中間「具合悪いの?大丈夫?」


奈落「大丈夫です。すいません驚かせてしまって…。」


中間「私はいいのよ!衣子ちゃんが心配なだけよ!?」


奈落は嬉しくて微笑んだ。


奈落「ありがとうございます」


その後旅館を去った後も中間は何も聞かなかった。いや聞けなかった。

あんな尋常じゃないほど怯えた人間を見るのは初めてだった。中間の方が恐怖を感じたほどだった。


5人はそれぞれに、この二泊三日の慰安旅行で変化した心を得た。それは置いてきぼりにせず、大切に思い出のお土産として自宅まで持ち帰った。


それぞれが、それぞれの想いを胸に抱き、明後日からの仕事を頑張ろうと決心した。

そして、誰もこれから起こる事など知る由もなかった。

第10話もありがとうございました!


正直こんなに話数が続く作品だと思わず、自分でも動揺しています。


さて、二泊三日の慰安旅行が無事終わりました!

森達はいつもどおり仕事に復帰するわけですが…

これからなにが起こるのやら…


次回もよろしくお願いします!

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