戦いは終わり
「お待ちしておりました」
そこには人工的に作られた粗末な木造の防壁とボロボロの家屋や小屋らしきもが見受けられ、辺り一面には変異種のゴブリン、オークたちの死骸が数え切れないほど転がっていた。恐らくこの変異種たちが拠点としていたのだろう。
るいるいが降りられそうな開けた場所にラザエラは立っていた。
「済まない、遅くなった」
るいるいから降りてラザエラと合流を果たす。血の海と化したこの凄惨な現場の状況的にも、もうあらかた状況は終わっているようだった。
「いえ、掃討自体はすぐに終わったのですが…」
「どうした?」
「攫われた被害者が思ったよりも多く…少し、その、困っておりました」
バツが悪い様子のラザエラ。彼女は人見知りが激しい性格だ。その様子からも対処に困っていたのだろう。
戦闘は終わっているだろうし、そこから先は俺の出る幕だ。
「そうか、気にするな。後は俺に任せろ。ラザエラ、お前は怪我はしなかったか?」
「問題ありません」
「そうか。それならいいんだ」
無表情に答えるラザエラ。ゲーム内でも無表情ではいたが、この世界ではこうして反応が返ってくる。それだけでやはり嬉しいと感じてしまう。
いかんいかん。まずは救出した村人たちが先だな。
「救出者の中に幾人か死の危険があるけがをしている者がおりましたので、手持ちのアイテムで応急処置を致しましたが…何分、人数が多いため処置できていない者もおります」
「よし、俺に任せろ。案内してくれ」
「はっ!ではご案内致します」
そして救出された女性と子供たちがいるボロボロの小屋へ向かうと、確かに結構な数の人数が複数の小屋に分かれ集まっていた。
たがそこには怪我を負って居ない者はおらず、一人一人処置を施していては時間の無駄なので動ける者は集まってもらい、範囲ヒーリングを使用し対処した。アイテムが足りず処置ができていなかった重傷者には、手足を切られていたエルフの少女と同じようにライトヒーリングを使い、腐るほど余っている最上級ポーションを飲ませ眠らせた。
そしていつのまにか陽は暮れ、夜に差し掛かろうとしていた。
『そっちの状況を聞かせてくれ』
戦いは終わり、治療も終え、今はメッセージでリーゼたちと互いの状況を報告しあっていた。
『はい。村での生き残りは女性、子供を合わせて87人でした。男性は何故か優先的に殺されており生き残りを見つけることはできませんでした』
『こっちは女性子供合わせて48人だ。同じように男性はいない。こちらも救出に向かったラザエラから聞いた限り、何故か態々数人の男性を攫い、女子供の目の前で見せつけるように処刑をしていたそうだ』
『何かしらの意図を感じますが…少し情報が足りませんね』
結果135人の命が救われたが、俺たちが村に辿り着くまでに抵抗していた男たちは全滅。老人は食料にもならないのだろう、その場全員殺されていた。
この村への変異種の襲撃には引っかかる点がいくつもあった。変異種は群れを作らない。例外はあるが、この世界の常識と俺たちの知識が全く違う可能性がある。そして男性を全員優先的に殺害しているのもどこか引っかかる。それも態々攫って見せつけるように殺していると言う。
そして最後に俺が感じた違和感が一つだけある。村の近くで戦ったあの場所に集められていた若い女性も、攫われた女性も、俺の勘違いかもしれないが皆容姿が整っている女性が多いと感じた。
もともとゴブリンやオークは多種族の雌を攫い苗床にし、子供は攫って食糧にするという忌まわしいテンプレがあるが、容姿は攫ったり苗床にする基準には入っていないと思っていたから生まれた疑問である。
だが考えても何も分からない。リーゼの言う通り情報不足である。
だが警戒はしておくべきかもしれないな…
『保護した村人たちは如何致しましょう?』
『それなんだよな。住む場所と食糧か…うーん』
リーゼが調査をした結果、村は燃え落ち壊滅状態。ここも疑問点の一つになるが、食糧庫としている小屋と森を切り開いた畑などは入念に燃やされていたという。誰が聞いても女子供だけではあの場所ではもう生活はできない。
『カナタ様、よろしいでしょうか?』
『どうしたリーゼ?何か良い案でもあったか?』
『はい。丸ごと全員屋敷に招きましょう。一時的な保護です。落ち着いたら希望者を募り、屋敷で働かせてみてはいかがでしょう?』
それは俺も考えていたことではある。135人と人数は多いが屋敷に入らないことはない。外見では分かり辛いが、地下2階から最上階は3階まであり、部屋数も数えたことはないがワンフロアでかなりの数がある。
入りきらなければフロアごとに分ければいいだけである。
『リーゼ姉様、それは…』
表情は見えないが、パニエは小さな声で嫌悪感を示す。
『ではパニエには他に案がありますか?言っておきますが、アイテムの類の使用は禁止します。スキルもです』
『スキルまで…?それは何故でしょうか?』
『よく考えてみなさいパニエ。私たちはこの世界の常識がまだ分かっていません。我らの力を見せたところでどうにかなるとは思ってはいませんが、緊急時や必要な時以外に不用意に見せつけるのは得策ではありません。意味は分かりますね?』
『それは…はい…すみませんでした』
パニエは恐らく自分のスキルを使ってどうにかしようと思っていたのであろう。リーゼはそれを先回りして禁止し、その理由も説明した。
パニエは理解はしたが納得はいかない様子である。ここは助け船を出すべきであろう。
『リーゼ、あまり苛めてやるな。お前の考えは分かった。どちらにせよ時間も限られている。いつまでも女子供を外に放置しているのも俺の精神衛生面的によろしくないからな。リーゼの案で行こう』
『畏まりました。それでは人数が人数なので中規模転移スクロールを使いましょう。転移位置を屋敷の玄関先にに設置しておきます』
これがきっとリーゼの言う必要な時なのだろう。辺りはもう薄暗く、夜になる。女子供だけで夜の森の中を屋敷まで歩かせるのは無理であることは誰にでもわかる。
この世界で転移スクロールが一般的なものであれば話は別だが…
『頼んだ。設置が完了したら教えてくれ』
『畏まりました。では失礼ながら、先に帰還致します』
リーゼがメッセージ欄から退出する。これはたぶんリーゼなりのパニエに対する配慮だろう。
『ご主人様…申し訳ありませんでした』
『何を謝る。お前はお前なりに考えてのことだった事くらい俺は分かっているつもりだぞ?』
『はい…。ですがやはり私は…』
『屋敷に他人を入れたくないのだろう?しかもこの人数だしな』
『…はい』
リーゼが屋敷で保護すると提案したとき、パニエから感じた嫌悪感からなんとなく察しは付いていた。俺の直感になるが、きっとパニエはゲーム内での記憶を覚えているのだろう。
あの屋敷を購入した時期とパニエを集中的に育成していた時期が重なっている。まだ何人も気の良いフレンドが残っていた時代だったからな。屋敷を購入すると必然的にやつらの溜まり場にもなって、常に召喚されて俺と一緒にいたパニエはあいつらにいつも良くしてもらっていた。
パニエが装備している物の中に、未だにそいつらから貰ったものが装備してあるのは俺の感傷もあるのだが…。
『パニエの思いを蔑ろにするつもりはないが、済まないが今回は我慢してくれないか?俺に少し考えがある。それにこの埋め合わせはきっちり取るつもりだ』
『お考えがあってのことでしたか。…我儘を申してしまい、大変申し訳ありませんでした。全てはご主人様の御心のままに』
『はっはっは。気にするな』
半ば無理やり納得させた感じもしなくはないが、考えがあることは本当で、何もタダで保護するつもりは俺には無かった。
それから数十分もしないうちにリーゼから転移スクロールの設置完了のメッセージが届く。俺とラザエラは救出した女性と子供たちを連れ、一気に屋敷へ転移した。
_(:3」∠)_
大体こんな格好で書いてます