報告
「あー、じゃあ報告してもらっていいかな?」
連合軍によるリフ大森林侵攻を止めた後、帰還したイーリスや鈴達による会議室での一悶着があり、ようやく戦闘報告が聞ける段階になった。
普段より大きな女の子が俺の膝の上に座っているが。
「はあん。耳元で喋ったらいかんえ。こそばゆいえ」
なら降りろよ、とは言えない悲しみを背負い、気にせずに続ける。
「ほら鈴、お前からだ。どこの戦線でもそうだけどイレギュラーがあったろ?」
しな垂れかかってくるのを阻止しながら膝の上に乗っている鈴を揺する。
「ああん、いけずぅ。せやねえ、聖女代行やったかえ?あれば拉致できたえ。その後に奴隷の女を6人程拾ったえ」
拾ったって…捨て猫かよ…。
「ふむ。上空からだとよく見えなかったが、亜人か?」
「亜人と人間が混じってるえ。性奴隷ってやつえ。ご主人様、手厚く保護してやって欲しいえ」
「勿論だ。彼女たちが負っていた外傷や病気はミストが全て治療してくれている。安心しろ」
鈴が救出した亜人と人間の奴隷の女達は、至る所に痛々しい傷跡と、診察したミストから聞かされたが性病と思われる症状を患っていたようだった。
それだけで奴隷に落とされた亜人達の扱いが如何に悲惨なのかが間見えた。
皆まで言うまい。
報告では知っていたが、やはり気持ちのいいものではない。
計画を早めねば…。
「言われた通り生きているものだけを殺したえ。残された物資の回収はアンデッドと精霊達がやってくれたえ。これでウチのところは以上え」
とあっさりとした報告で、背中を俺に預け体重を掛けてしな垂れ掛かってくる鈴。
今度は抵抗せず思わず撫でてしまう。
「んふふふふふふ。これええなぁ。これからは毎日一回はしてもらえるえ。癒されるえ」
何故かそういう話に纏まってしまったが故に、俺の膝の上には鈴が乗っている。
今日はこのルールを発案した鈴の番らしい。
二人きりなら鈴の言う通りかもしれないが、今は報告中で会議室。先ほどのひと悶着で何やら頭痛を訴え部屋に戻ったソーニャと、付き添って行ったメイ以外の姉妹達が全員いるのだ。
視線が痛い。
「こほん、奴隷の女達は落ち着いた頃にまた話をメイあたりに聞いてもらおう。聖女代行の少女は俺が直接話を聞きに行こう」
誤魔化しつつ話を進めていく。さっさと終わらせて解放されたい。
「次はパニエとアルシアだな。そっちでも何かあったそうだが、何があった?」
森の中での戦闘はパニエとアルシア達精霊が受け持ってくれていた。
リーゼの使役するアンデッド達の視点からでは、全ては見えなかったので本人達から直接聞かねばならない。
「はい。私、と言うよりは直接拠点へ侵入し、破壊工作を行っていたアルシアさん達からの報告なのですが」
パニエは森の後方で範囲殲滅魔法を使っていたからな。なら直接現場に潜っていたアルシアは何かを見つけたとかか?
「はい。獣人の男性が馬に乗っておりましたので念の為捕えてあります。奴隷と言った様子ではないようでしたので、その場のはんだで敵と認識し、無力化した後に捕虜として現在は地下牢にて鎖に繋いでおります」
「獣人?亜人が人間の軍の中にいたのか?しかも奴隷では無いと」
これまためんどくさそうな事情を抱えてそうだ。どちらにせよ対応は後回しになりそうだが。
「奴隷紋も見当たりませんし、何かを強制されているようにも見えませんでした。殺そうかとも思いましたが、亜人種でしたので念のため」
「ん。分かった。その獣人の男の尋問もその内行おう。後はないか?」
するとアルシアは丸い手のひら大の水晶を取り出し、手渡してくる。
「サンプルとして人間たちが"遠話の水晶"と呼ぶマジックアイテムをいくつか鹵獲してまいりました。鑑定は既に済ませ、レシピも判明しています」
受け取って間近で見てみるが、ただの水晶にしか見えないな。
「一応この世界で初めてのマジックアイテムだからなー。後で俺が確認した後にパーシェルにでも渡してやろう」
「畏まりました。ご報告は以上になります」
一瞬、破棄も考えたが取っておこう。
まあぱっと見そんなに良品では無かったようだが、俺が確認した後にパーシェルあたりに持って行ってやれば再利用してくれるかもしれない。
「おう。次はイーリスだな。ルピナはどうだった?」
「はい、《精神汚染》も《空間創造》も実用レベルに達しています。《精神汚染》に関しては各国で使用しても問題ないかと」
ルピナの《精神汚染》。元々は対象に混乱やディレイを与える固有スキルであった。
しかし、一見強力に思えるその能力には欠陥があり、対象の魔法耐性やレベル差、発動する効果内容がランダム過ぎるなど、なかなか実戦では使えないものだった。
しかし、異世界に来て随分と内容が変わったらしい。
発動条件は相手の目を見ることに変わり、汚染した者の記憶や行動をルピナの意のままに操れると言う壊れスキルになっていた。
ただし、一定の知能を持つ対象にしか発動することは無く、高い魔法耐性を持つ者や高レベル帯のディスペルを掛けられると解除されてしまう。
そして今回、帝国軍で実験した内容は「感染した対象が、感染していない対象の目を見て感染するか」がテーマだった。
結果は成功。
壊れスキルにさらに拍車が掛かった。
「では南方諸国全域になるべく多くの感染者を増やすように。本格的に『歩き人』計画を始めよう」
「畏まりました」
ルピナの《精神汚染》を無差別に感染させ、記憶や行動を操り一般人をスパイに仕立て上げる作戦。
今までは効果範囲が詳しく分かっていなかったのと、ルピナのMP量がネックとなっていたので計画止まりだった作戦だ。
この間の王国潜入調査の時にテストは行なっている。王国での結果は上々で、後は操る事のできる規模を詳しく知る必要があった。
だがそれも今回の連合軍侵攻で解決できた。
ルピナの《精神汚染》は連合軍が森に入る前から汚染は始まっていた。
感染者と目を合わせるだけで広がっていく《精神汚染》は凶悪で、数人の歩兵から連合軍全体に瞬く間に広がっていった。
記憶や行動の主導権を握られた連合軍は、全てルピナを介しリーズリットの言う通りに操られ、俺たちの都合のいいように動いてもらった。
「一つだけご報告があります。ルピナの《精神汚染》をレジストした者が居たので試してみた所、何者かの強い加護を持っていたので生かしております。今後の実験の役に立つかと」
「加護…か。なんだかファンタジーじみてきたなぁ。それは優先的に処理しよう」
ヒストリアには加護なんてシステムは無かったからな。俺たちの脅威となるか、そいつで確認は必要そうだ。
「取り敢えず全ての報告はこれで終わりか。なら今日は解散だな。皆お疲れ様。ゆっくり風呂にでも浸かって寛いでくれ」
全ての報告は終わり、連合軍の脅威は無くなった。
だが連合軍の増援が後方から迫っている事も既に把握している。これにも対処せねばならない。
そして戻ってこない兵や報告に、連合国各国はすぐに異変に気付くはずだ。
こちらの大規模な計画の事もある。こちらは順調に進んでいるが、俺たちの存在を今連合国にバレる訳にはいかない。リスクは無ければ無い方がいいのだ。
だが今は、無事に戦いが終わったことを喜び、皆を労おうとパーシェルの工房に足を進めた。




