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59.「アンタがアンタである限りそんなモノなんてないよ」

話が逸れてしまったと、私は陛下に向いて溜め息を零した。ワザとらしい溜め息を、だ。陛下が半眼になって私を睨んでくる。全然怖くない。この人、本当に大陸最強の軍に頂点に立つ人?






ルル王女に現を抜かしてるんじゃなかろうか。





「……お前、本当に俺を敬う気あるの?ねぇ?」




「え?」



「え?」




「何を言っているんだ?最初から敬う気なんてなかったんだけど」




「え?」




「皇帝だろうが庶民だろうが関係ないんだけどさ、アンタがアンタ(千景)である限りそんなモノなんてないよ」





例え、主と誓っていても。私たちエノクの怪物に当て嵌まる法がないように、ルールを創る気はないのだ。私たちは誇り高きエノクの民。忠誠と絶対しか誓わない。





「そんな話は置いといて、ルル王女の垂れ流している魔力なんだけど多分蛇口が緩んでるだけじゃないか?」




「…蛇口?」





「そう、蛇口をきちんと閉めない限り水は出続けるだろ?蛇口があって、水を受け止める桶があるとしよう。蛇口が魔力に関する規制(知識)で、水を魔力、桶が自身の身体」





話しは簡単なもので、蛇口(知識)が緩いから(魔力)が流れ続けていて、(身体)から溢れている。ん?分かりにくいって?





「つまり、魔力の規制(知識)がないから魔力が溢れているだけだ。ソレが圧倒的に欠落しているから、魔力の制御が出来ない」





新緑の目が伏せられ、陛下の裾を強く握った。陛下の眼力が凄まじいものになる。ほら、言っている傍から貴方は制御できていない。





良いかい、ルル王女。君は欠陥ではない。ただ、欠落しているだけなんだよ。欠陥とは、そもそも最初から無いものを指す。対して、欠落とは本来あるべきものの一つが抜け落ちていると言うこと。






「ルル王女はちゃんと魔力を生産しているし、垂れ流し状態だけど魔力に感情を乗せていないところを見ると前者(欠陥)ではないことが分かるよね。大丈夫、君はすぐに制御できるようになる」






言葉と音を操る海の怪物が言うんだから、大丈夫だよ。ちゃんと言の葉は結ばれた。言霊となって、これより〝絶対〟となる。





「ゆっくりと覚えて行け。君は欠陥じゃない。ルル王女は優しい魔力の持ち主だから、そのうち治癒魔術も教えてあげよう」






「魔力の転嫁が出来ないお前が、治癒魔術だと?大口叩くのも大概にしろよ、ルーチェ」





「陛下は飛鷹が言っていたことを聞いてなかったのか?私は、エノクの民で一番魔力に関して柔軟性がある。ルル王女に持たせている魔力に、どうやって私の魔力が込められたと思う?」






転換が出来ないだけで、誰も使えないとは言っていないのだ。いやまぁ、使えないんだけど。魔力を使った魔術が使えないってだけで。魔力自体が使えないわけではない。






「…屁理屈ばかり言う」






「せめて、ずる賢いって言えよ。―――さ、ルル王女。陛下の服を掴んでても構わないから目を閉じて蛇口を想像してご覧。知識は後で、私が埋めてあげよう。まずは体で覚えてみようか」






流れ出ている水を止めるには、ルル王女どうしたら良いと思う?『出来ない』んじゃないんだよ。君は『出来る』んだよ。劣等感も自己嫌悪も、疑心暗鬼な心も全て置いといて私の声に耳を澄ませて。





「暴走なんかしないから、そう、ゆっくりと蛇口を締めて行って」





大丈夫、大丈夫。





陛下の囁きと、安心させる様に髪を梳いている姿を見てどうしようもなく泣きたくなった。陛下は自らの幸せを掴もうとしているのだ。あぁ、安心した。心残りだったわかだまりが、ゆっくりと解けていく気がする。





少しずつ、鳴りを潜めていく優しい魔力。





「……ルル?」




「ほら、ルル王女。君は制御を覚えたよ」






私の言葉のあと、瞼に閉ざされていた新緑の目が私を捉える。その目に映っているのは、歓喜に似た何か。自分の手を握って開いて、また握って。




「ルルッ…!!」





「知識の勉強は明日にしよう。今日、出会って数時間しかならないのに私の言葉を信じてくれてありがとう。私は海燕殿と放って来た仕事に戻るから、必要があれば鈴を鳴らして」





陛下の感極まった声。すっぽりと陛下の腕の中に隠れてしまったルル王女に、私は静かに声を投げかけた。返答は要らない。驚きを隠せていない海燕殿の腕を引いて部屋を出た。





邪魔なんかできる訳ないよねー。誰が好き好んでイチャイチャなんか見るの?ルル王女、これから顔色も良くなっていくだろうなぁ。アマルティア様とは違う系統の別嬪さん。






天使が増えたわ…。





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