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求・ヤンではなくクーな人達  作者: 綾織 茅


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 祭りというものは古今東西人間を陽気にさせてくれるらしい。

 今までこちらで生きてきた中で一番嬉しいイベントがもうすぐ始まる。

 気分もルンルン。翼が生えたら今なら天まで行けそうだよ。


「フンフンフ~ン」


 千鶴は師匠と一緒にわたあめやらチョコバナナやらりんご飴やらを食べまくるらしく、はしゃいでいたから置いてきた。

 なにげに一番いい雰囲気だと思うんだよね~師匠と千鶴。だからこそ千鶴にはこれ以上師匠の変人なところ見せて欲しくない。なんだろう、親心ならぬ弟子心と親友心ってやつ?


「奈緒お姉さま!」


 カランコロンと小気味良い音を響かせて向こうから明日香ちゃんと雛乃ちゃんが走ってきた。


 明日香ちゃんはきなりの生地に花をポップに書かれたとっても可愛い浴衣で雛乃ちゃんは白の生地に赤い百合や桜がいたるところに散りばめられているこちらもとっても可愛い浴衣を着ている。

 要するに可愛い浴衣を着た二人はもっと可愛い。


 誰得?私得。ムフフ。………ゲフン。


「お姉さま聞いてください!向こうにたい焼きというのがあって、お店のおじさまに見せてもらったらお菓子だったんです!」

「少しずつくださって食べてみたらどれも美味しかったです!」


 興奮した二人の口調は普段より数倍早かった。


 あ~本物の鯛を焼いてると思ったのね?こりゃ他にもそういう勘違いする人多そうだ。ま、それもいい思い出でしょ。


「こんにちは、神宮寺さん」

「ご機嫌よう、有馬様。まぁ、素敵な浴衣ですわね」

「そ、そうかな?ありがとう。すごく嬉しいよ」


 有馬君の浴衣は雛乃ちゃんと同じ白に鮮やかな青の線が入っている。


 ………ん?有馬君?顔赤いよ?大丈夫?


 そうそう。有馬君について思ったことがあるんだよね。千鶴に借りた少女マンガの中で主人公が好きな少年が声をかけられる度に真っ赤になってたんだけどね?

 それと似てる、有馬君の様子。

 でも分かってるから大丈夫。そんなわけないってことくらい。

 だから安心しなって、明日香ちゃん。私は人のモノを盗るような悪女じゃないよ?


 私達二人の様子をハラハラとしながら交互に見ていた明日香ちゃんの頭を撫でた。上げられた顔にニコリと微笑むと分かってくれたみたいでギュッと抱きつかれた。


 もーなんなのこの子は!可愛すぎるでしょ!


「神宮寺さんは浴衣着ないの?」

「そうです!私もお姉さまの浴衣姿見たい!」

「私も!」

「ふふ。ご心配なく。最後の見回りに出たところなので、これから寮に戻って着替えてきますわ」


 そう言うと早く早くと急かされてしまった。

 ふぅ、モテる女は辛い…。


 可愛らしいお姫様二人と有馬君に見送られ、私は寮に戻った。




 用意しておいた浴衣セットを取りだし、制服を脱いだ。


 今日のために用意した浴衣の柄は黒地にラメの入った紫の蝶、裾の辺りに牡丹の花が描かれている。私のお気に入りの中の一品。

 手早く着て、髪も上げた。身の回りのことは大抵自分でできるようにって思ってやってきたからこれくらいのことはなんでもない。

 巾着に財布をいれて、うちわを後ろに挟んで…よし、準備できあがり!

 おかしな所もなさそうだし、満足いく仕上がりだ。私すごい!

 これぞまさしく自画自賛。


 部屋から出てエレベーターに乗り込み、下に行こうと一階のボタンを押して閉まるボタンを押そうと思った。


 ………閉まるボタンから押せば良かった。


「奈緒ちゃん?待って!僕も下りる!」


 丁度部屋から出てきた西條呉羽がエレベーターに駆け込んできた。


 お客様、駆け込み乗車はおやめください。他のお客様のご迷惑になります。

 …急がなくていいからゆっくり来いよ。


「奈緒ちゃん、その浴衣…」

「あぁ、西條様のところのですわ。よくお分かりですわね」


 こいつはどうあれ西條が手がける服は天下一品だと思う。私のは大体西條のだ。お母様も好きだし。


 西條呉羽は私の浴衣を見て言葉を失っている。

 わかってるよ。浴衣の柄に負けてるって言いたいんでしょ?

 でもこれが着たかったの!だから文句は受け付けません!


「それ、僕が父さんに言われてデザインした浴衣…」


 …………マジか。それはリサーチ不足だった。

 そして待て。なんで距離を縮めてくる。うちわを抜き、胸の前で構えた。

 それでも近づくこの男。一体なんだって言うんだよ。


「奈緒ちゃん…その姿、他の奴にも見せるの?」


 あーなんか…ヤバめ感じ?

 西條呉羽の目がマジな感じに見えるのは気のせいかな?この前の生徒会室でのプチ拉致事件の時の方が断然マシに見えてきたよ。あれも相当だったのに。

 あれ?おかしいな?な、なんか体が震えるよ?

 こ、こんな時に武者震いですかこのやろー。


「こんな白い肌だって見せてさ」


 そう言いながら首もとに手の甲を這わせてきた。


 ゾクッ


 ……………あーこれはダメなパターンですね。分かります。


 まだエレベーター着かない……着いてんじゃん!

 いつの間に閉まるボタン押してるのよ!

 下ります!今すぐ下りまーす!


「西條様、エレベーターが…」

「はぐらかさないでよ」


 横をすり抜けようとしたけど左右は西條呉羽の両腕、後ろはエレベーターの壁、前は西條呉羽の体。完全に囲まれました。


 ……………バーリーアー!ほら、遊んでなかった?捕まりそうになった時の合言葉。

 鬼泣かせの必殺技。無敵のバリア。

 今から私は長期バリアに入ります。だからそこを退け!


 ねぇ誰かエレベーター使おうよ!そして私を助けろ!

 ……ごめんなさい。助けてください。お願いします。


「奈緒ちゃん、僕、奈緒ちゃんが好き。大好き。壊したくなるくらい」


 えぇえぇ知ってますよ。随分となつかれてしまったものです。

 確かにマインドコントロールしてきたつもりです。………やり過ぎた。

 友人くらいになっとけば殺されないかと思ってやったんだけど…。ヤンデレ予備軍を甘く見てました。ヤンデレになつかれると究極好きとか言われちゃうようになるんですねー。


「奈緒ちゃんに近づく奴なんて皆死んでしまえばいいと思うんだ」


 ………………………ダイジョウブヨー。ダッテワタシ、モブキャラダモノ。

 だからゲームの時に見た千鶴を追い詰める君達の野獣のごとき瞳は今はいらないかなー?ほら、怖いし。


「さ、西條様…その甚平、素敵ですね」

「甚平、だけ?…ならこの甚平、いらないや。奈緒ちゃんに僕以外で好かれる存在なんていらないもの」


 ひーっ!ちょっと待って!

 それ以上はダメ!また死相が出る!


「さ、西條様!?一緒に屋台を回りましょうか!」

「一緒に?奈緒ちゃんが一緒にいたくないって言ったじゃん」

「そ、それは…今日は特別ですわ。たくさん珍しいものがあるそうですから!」


 あ、あの時調子にのってすみませんでしたーっ!こんな弊害があったなんて…。

 嬉しさに小躍りしてた自分、穴に埋まってください。


 あーなんか今日黒さ五割増ししてません?せめて通常に戻してちょーだい。

 でなきゃ私死ぬ。


「…………そう。ま、どーせ僕はとばっちりだったしね。いいよ、行こ」


 ようやくニパッと笑顔を見せてくださった。ありがたやありがたや。


 あぁ!私の癒し、シュネーはどこ!?


「あら?西條様と神宮寺様だわ!」

「お二人、喧嘩なさっていたのではなくって?」

「でもとっても幸せそうですわ」

「もしかしてお二人って…」


 元飼い主と飼い犬、現奴隷と主だよ!

 そしてどこが幸せそう!?ちょっ眼科紹介するから行った方がいい!異常か幻覚が見えてるよ!


 後に師は爆笑しながらこの時のことを語る。私の拳が師の腹にめり込むまでにそう時間はかからなかった。

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