エピローグ 〜 銀の魔王の時代 〜
シンシアを守れなかった彼は、堕天した。
幾度も幾度も神職として生まれた彼女を彼はそばで見守り続けてきた。
天使にとって、人を見守るという事は神に期待された最大級の難事である。
何があっても。
何があっても、どんなときでも対象を見守り続けなければならない。
全てに愛を持って。
ときにルールの中で力の及ぶ限り対象を守り、守りきれなかったとしてもその魂を再び掬い上げ、また輪廻へと返す。
どちらも天界で神となるための試練なのだ。
人は人として愛を学ぶため。
天使は人に寄り添うことで愛を学ぶため。
だが彼は失敗した。
どうしても許せなかった。
醜いものが汚れなきものを踏みにじる。
その吐き気を催す醜悪さが許せなかった。
そしてシンシアを守りきれず、幸せにできなかった自分が。
人を憎み、邪悪を憎み、宗教を憎み。
そして彼は彼女だけを愛して願った。
次は彼女の代わりに苦しみを引き受けてでも守りたい、と。
神は彼のその願いを聞き届けてくれた。
それは彼が堕天した瞬間であり、そして光へと生まれ変わった瞬間であった。
彼は人に生まれ、その苦しみを、悲しみを味わい、そしてシンシアの生まれ変わりであるカリーナの代わりに地獄のような責苦を受け、そしてその理由を知った。
我慢がならないというその限界まで追い詰められるのだ。
お前はどこまで許すのか、お前はなぜ許すのか、と。
そもそも許してなどいない彼だったが、それでも天使であった彼は、見守り許容することに慣れている。
神になるという事は知ることなのだ。
己の限界を、許容の限界を。
彼の限界は、カリーナに手を出されることだった。
死んで、光の神にどうしたいかと訊かれて。
カリーナを幸せにしたいと答えた。
そのために敵となる全てのものを滅ぼしたい、と。
神は苦笑して世界を巻き戻した。
光の下で生きるもの全てを愛せと、そう告げて。
光は愛ではない。
全ての影を照らすもの、全てを明るみのもとに出すもの、それが光だ。
共同体を尊び、隠れ潜むものを厭い、善良なるを愛し、邪悪なるを憎む。
冷たく輝く、貫く光。
それはときに独善となる。
彼の神はそういう光だった。
彼は魔物すらも光のもとに生きるなら、という条件付きで許した。
かつて世界で不幸を撒き散らしていた魔王は、わずか10歳の彼の前で血反吐を吐いて這いつくばった。
彼の最初の職業は、神官ではなく、見習いですらなく、魔王であった。
生きにくいと言う者もいるだろう。
汚濁に塗れた世界のほうがいいと言う者も。
だが彼はそれを認めない。
それらを人であると認めていない。
冷たく、心無い魔王。
それでも、世界は続いて行く。
愛は人に必要ないと言う天使のもとで。
光のもとに正しくあれと強要する魔王のもとで。
宗教は人には不要であるとする大神官のもとで。
全ては、聖女ただ1人の幸福のために。
銀色の魔王が制する時代。
それは、人の国が最も平和で穏やかな時代だったと、のちの世には語られている。
〜 終 〜
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