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巻き戻ったら神官様が転職してました  作者: 昼咲月見草


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スタンピード

 わたしはなんだか拒絶されたような気分になって家路へつきました。


 聖女に任命されない。

 それはとても嬉しい事のはずなのに。


 幸せになりなさいと言われて悲しくなるなんておかしな話です。

 でも、わたしはとても悲しかったのです。




 その夜、夕食のさい、兄が父に言いました。


「来月、辺境に新しくできた街へ行ってみようかと思っているんだ」


「ああ、魔物の森を一部開拓してできたという街か」


「うん、これまでにない魔物の素材が手に入るっていう噂で──」


 その言葉に、わたしは席から立ち上がりました。


「待ってください! 辺境の街なんてそんな危ない場所──、スタンピードが起きたらどうするんですか!」


 それに家族は全員、目をぱしぱしとしばたいたあと、揃って大笑いしました。


「カリーナは本当に心配性だなあ」


「大丈夫よ、カリーナ。スタンピードなんて起きないわ。あれは魔物の管理や間引きをしなかった頃の遠い昔の話よ」


「でも……!」


「まあ、カリーナの心配性のおかげで、姉さんはバカな男と結婚せずに済んだし、僕も上辺だけを取り繕ったとんでもない女を妻にしないで済んだ。ここはカリーナのお告げだと思って、信頼できる傭兵と冒険者を予定の倍、連れて行く事にするよ」


「それなら心配ないわね」


「カリーナもそれでいいかい?」


「姉さん、心配しなくても兄さんは大丈夫ですよ!」


 明るく笑う家族。

 でもわたしは知っているのです。わたしが成人の儀を受ける前の年、ちょうど今年、辺境でスタンピードが起こる事を。


 どうしたらいいのかしら、とおろおろしていて、ふとわたしは気がつきました。


 あの年、お兄様は辺境へなんて行ったかしら?












 兄はあの年、辺境へ行くどころか行く理由すらありませんでした。


 辺境の魔物の森の開拓はもうずっと失敗続きで、街どころか小さな村ひとつろくにできていなかった気がします。

 そしてスタンピードが起こる数年前から強力な魔物や群を作る魔物が多く現れて、辺境は近づくのも危険な状態であったはずです。


 出来事が変わっています。


 やはりこれもライ大神官様が何かした結果なのでしょうか。


 兄はわたし以外のみんなに笑顔で見送られて、当初よりも規模の大きな商隊を引き連れて辺境へと旅立って行きました。

 結果、兄の商隊は魔物の森でかなりの戦果を上げ、貴重な素材をいくつも手に入れ、辺境での取引も上手くいって帰ってきました。


 スタンピードは起こる気配すらないそうです。

 ……成人の儀の前にライ大神官様とお会いしなければなりません……。











 久しぶりにお会いしたライ大神官様は、以前よりもさらにまばゆく美しくなったような気がします。

 胸がドキドキして止まらないのは、きっとそのせいでしょう。


 ライ大神官様は嬉しそうな微笑みをわたしに向けてくださいます。

 その笑顔の眩しいことと言ったら、このまま気を失いそうです。


「久しぶりですね、カリーナ。また会えて本当に嬉しいですよ。あなたが幸せに暮らしていることは知っていますが、こうして実際に会えるとわたしも幸せな気持ちになれます」


 この方は誰にでもこんな事を言っているのでしょうか。

 若い街の娘や貴族の女性が、ライ大神官様目当てで大勢神殿に通っているという噂を聞いたことがありますが、その噂はきっと真実なのだろうと思います。


 でも、直接会ってもらえて、紅茶を淹れてもらえて、近くに使用人がいて完全な2人きりではなくても、それでも2人でお話できるのはわたしだけのはずだもの!

 多分……。


 つい、そんなふうに意味のない対抗心を燃やしてしまいます。


 わたしは自分の考えが恥ずかしくて、こほんとひとつ、咳払いをしました。


「あの、今日は、今年あったはずのスタンピードについてお話を伺いたくて」


「ああ、なるほど。心配しなくても大丈夫ですよ。スタンピードは起きません。少なくとも、わたしがこうしてここにいるうちは絶対に起きません。あなたも、あなたの家族も、魔物は傷ひとつつけられませんから、不安にならなくてもいいのですよ」


「そうなのですか?」


 やはり、光の最高神の愛し子となれば、女神様の愛し子であるわたしにもできなかったような事ができるのでしょうか。


 当時のわたしには、魔物の暴走を抑えるだけでそれ以上のことはできませんでした。

 女神様は全ての命を等しく愛しておられたからです。


 人を愛し、人を赦し、人を信じるように。

 そしてそこに何の理由も期待も願いもなかったように。


 女神様は魔物を愛し、魔物を赦し、魔物を信じました。

 何の理由もなく。期待も願いもなく。


 人にそうしたときは、ただただ有り難く感じたそれが、魔物相手にすら注がれる。

 それを知ったとき、わたしには愛の意味がわからなくなりました。

 人を食い、犯し、苛んで喜ぶ魔物を愛する事がわたしにはできません。


 それでも、女神様が望むのなら、わたしは魔物を傷つける事はすまいと、そう思っていました。


「ライ大神官様は……」


「なんですか?」


 魔物をどうしたのですか。

 何をしたのですか。

 魔物を愛し、赦せるのですか。


 でも、わたしの口から出たのは違う言葉でした。


「愛とはなんだと思いますか」









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