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白ギャルと一緒に異世界転生  作者: サムライ熊の雨
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01.露出狂の占い

 俺は目の前でニタニタ笑う猫女を見詰めて言った。


「とりあえずここはどこですか? 天国か地獄ってわけでもなさそうだけど」


 彼女は俺を無遠慮にニタニタ笑いで見続けている。


「その通りだニャ。ここはお前の世界とオレ様の世界を繋ぐ中間地点、名付けて『転生の間』ニャ」


「ふーん……、で?」


 猫耳の女が首をこてんと傾げる。

 俺に何を訊かれているのかわかっていないらしい。


 だけど何が楽しいのか、またニタニタ笑いを始めた。


「あー、そりゃそうか。騙されたというのはわかっても、どう騙されたのかはわかってないもんニャ。いいだろ、いいだろ。教えてやるニャ」


 ん? 別にそんなことが知りたかったわけじゃないんだけど。

 俺だってそこまで馬鹿じゃない。まぁ、答え合わせぐらいのつもりで聞いてはやるけど。


~~~


 話は一日前に遡る。


 俺はフラフラと通りを歩いていた。

 一体どうやってここまで来たのか覚えていない。それぐらいショックを受けることがあったんだ。


「お兄さん、お兄さん」


 俺が通りを歩き続けていると、急に後ろから襟首を掴まれた。

 ようやくその時初めて正気を取り戻したんだと思う。急に掴まれたのもそうだけど、振り返って見ると、俺を掴んだ女の格好も常軌を逸していたから。こんなのに今の今まで気づかなかったんだから。


「もぉっ! お兄さんってば、さっきからずっと呼んでるのに!」


 俺の目の前には露出狂がいた。

 道中でマイクロミニな水着を着て、スケスケの腰布を巻いた褐色の女が仁王立ちしている。


「は? え?」


 困惑する俺を無視して、女は俺の腕を掴むとずんずんと歩き始めた。

 疑心暗鬼に陥っていた俺は、もちろん抵抗しようとするけどまったく振りほどけない。女とは思えないほどの怪力だ。俺の上背は190もある上に、この女はせいぜい170くらいしかないはずなのに。

 俺は結局逆うこともできず、路地裏まで引っ張って来られてしまった。


 何だろう。カツアゲかな? それとも美人局かな?

 もうどっちでもいいや。どうせ金なんて持ってないし、ここで死んだって構わない。今から怖いお兄さんたちが現れても、せいぜい力の限り暴れてやろう。


 だけどそのどっちでもなかった。

 路地裏にはなぜか不自然に机と椅子が置かれていた。女はそこまで俺を引っ張っていき、机の前に俺を立たせると、自分は反対側にある椅子に腰かけたのだ。


「ふむふむ、君は今とっても悩んでいますね」


 これはアレだ。占いってやつだ。

 こんな占い師本当にいるのかよと思っていたけど、どうやら実在したようだ。


「あ、あの、お金ないんですけど」


 俺の言葉に、女は大仰にかぶりを振ってみせた。


「お代は頂きません。私はただ、君の悩みを解決してあげたいだけです。だってこのままだと、君、……自殺するでしょ?」


 それはどうだろう。確かにこのまま消えてなくなってしまいたい。明日学校に行くのが苦痛だ。明日が来るのが地獄だ。死んでも良いとは思う。でも死にたいとまでは別に……。


「なので、私は君の自殺を手助けしたいと思います」


「……へ?」


 我ながら間の抜けた声が出たと思う。

 だって目の前の踊り子と占い師を取り違えたみたいな恰好のクレイジーな女が、これまた占い師が言わなさそうなクレイジーなことを言い出したんだから。


「と言っても、私が君をどうこうするつもりはありません。ただ私は、安心して君が死ねるようにしてあげるだけです」


 この人は何を言っているんだろう。


 普段なら絶対に逃げ出していたのに、それでも俺はそこから動けない。

 それはきっとこの人の言っていることが、まったくの見当違いってわけじゃないからだと思う。


「さて、早速ですが、人は死んだらどうなると思いますか? 天国や地獄といった死後の世界に行くのでしょうか。それとも死んだらそれでお終い、後には肉塊しか残らないのでしょうか?」


 そんなのもちろん後者だ。

 死んでみなきゃわからないかもしれないけど、やっぱり死んだところで自分の死を理解することなんて出来ないと思う。


「えーっと、やっぱりそれでおしま……」

「私は知りません!」


 俺が答える前に遮られてしまった。

 まぁ、それはそうだろうなと思うんだけど、じゃあ、何で訊いたんだろ?


「しかし、私は君を死後、別の世界に転生させてあげることが出来ます」


「……」


 なんだか帰りたくなってきた。

 俺は何でこんな与太話を聞かされているんだろうか。


 俺は今17年間生きてきた人生の中で、二番目に最悪な気分だった。

 一番目に比べれば断然マシとも言えるけど、それでもこんな下らないことに付き合ってあげていられるほど余裕があるわけじゃないんだ。


 俺が女に背を向けようとした時だった。


「君は明日恋人にフラれる。そうですね?」


 まるでその場に縛られてしまったみたいに動けなくなった。


 俺は女の言葉を頭の中で反芻した。

 女が何と言ったか、聞き逃さなかったわけじゃない。問題はなぜ彼女がそれを知っているかだ。


「な、何で……」


「私は占い師ですよ?」


 俺が言い切る前に女はドヤ顔でそう言った。


 まったく理由にはなっていないのだが、何だかそう言い切られると「なるほど占い師だからか」と思えてしまってくる。


「でもそんなこと今はどうでもいいでしょ? それより大事なのは、君がその後、というより、その時どうするかなんだから。はい、というわけでコレ」


 女が机の下から何やら取り出した。

 机の上に何やら怪しげな黒い本とナイフのようなものが置かれている。いや、よく見ればナイフではなかった。それは確かにナイフのような見た目をしていると思ったけど、柄だけしかないのだ。肝心の刃がないのである。


 やっぱり何か売りつけるつもりなのか。


「あの、だから、お金は……」


「いえいえ、これは全部タダで差し上げますよ?」


 怪しい。

 何かに入会させて分割払いさせるつもりかもしれない。


「もぉっ、そんなに怪しまないでくださいよ。どうせ君は明日死ぬんだから、仮に何か損したところで困らないでしょ?」


 どうやらこの女の中では、俺が明日死ぬことは決定事項のようである。


 女は訝しむ俺を尻目に本をペラペラとめくり始めた。

 どこかのページを探していたようで、「あ、あったあった」と言うと、本のページを一枚破いてしまった。さらにその破いたページをくしゃくしゃに丸めて、俺の手を取ると無理矢理握らせてくる。


「これはポケットにでも入れておいてください。それでピンチの時に思いっきり握り締めてください。まぁ、君は無意識にそうするんですけど」


 女の言葉は要領を得ない。

 しかし女に視線で促され、俺はポケットにその紙屑をしまった。


「それでこっちのナイフですが、これもポケットにしまっておいてください。いざとなったら使えるようになるので」


 ナイフと言っても柄だけだが、それも同じようにポケットにしまわせられる。


「さて、重要なのはここからですよ。私が今から説明するのは『転生の儀式』についてです。まず、君は嫌でもその紙に込められた魔術を使うことになります」


 丸めてポケットにしまわせられた紙屑のことだろう。アレに魔術が込められている、ということでいいのだろうか。


「次に君はそのナイフで憎き者を五人殺すことになります」


「はっ!? えっ、殺すって……」


 開いた口が塞がらない。

 半ば呆れて聞いていたとはいえ、この女の言うことは突拍子がなさすぎる。


「次に愛しい者を一人殺します」


「愛しい者……」


 だけど全く心当たりがないわけじゃない。

 さっきの明日俺がフラれるっていう話だって、信憑性のある話だし、俺には憎い人間も愛しい人間もいる。心当たりがないどころか、心当たりしかない。


「そして最後に自分を刺してください。それで君は異世界に転生できます。異世界に転生した君は、きっと幸せに暮らすことが出来るでしょう」


 最後に女はにっこりと笑ってそう締め括った。


 馬鹿げた話だ。

 でも笑い飛ばすには難しい。


 今日の放課後、俺は帰る時にたまたま聞いてしまった。

 一週間前にできた恋人、瑠美奈が明日俺をフる。

 いや、そもそも瑠美奈は俺の恋人ではなかった。正確に言うと六日前から付き合い始めたのだが、それはそもそも一週間俺と付き合うという罰ゲームだったらしい。

 話していた中に瑠美奈はいなかった。今日は久しぶりに女友達と帰ると言って先に帰ってしまっていたんだ。

 でもその話をしていた男子たちも、もともと瑠美奈と仲の良かった奴らだ。

 正直言って信じられなかった。

 俺といるとき彼女は楽しそうに見えたし、俺も楽しかった。あれが全部演技だったなんて。特に日曜に行った動物園なんて、閉園間際まで一緒にいられたんだから。

 だけど同時にやっぱりかという気持ちもあった。

 彼女と俺とでは住む世界が違う。

 俺はクラスカースト最下層、一方の彼女は最上層にいる人間だ。

 告白された時はそれこそ罰ゲームだと思っていた。この一週間が楽しすぎて忘れてしまっていたんだ。


 憎い人間と愛する人間、どちらにも殺す動機はある。

 でもいきなり異世界なんて突拍子のない話をされても、やっぱり信じられなかった。


 俺はいつの間にか俯いていた顔を上げた。


「えっ……」


 すると、すでにそこに女はいなかった。

 狐につままれた、とはまさにこういうことを言うんだろう。


 俺は自分でも間抜けだと思う顔を左右に振った。

 でも俺の目に映るのは何の変哲もないいつもの町だ。

 同じ学校の生徒や買い物に向かうか帰ろうとしている主婦が歩いている。普段は通らない裏路地にいるけど、他は何も変わらない。


 そこに誰もいないとわかると諦めて再び家路に着いた。

 不思議な体験だった。

 夢でも見ていたのかと思ったけど、ナイフの柄と丸められた紙屑はまだポケットにちゃんとあった。

 確かに俺とアイツらしか知らないようなことを知っている不思議な女だったけど、言っていることは信じられない。

 それでも俺はポケットに入れたガラクタとゴミを捨てることが出来なかった。


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