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その造型は魂にも似て 作者:道化屋

第一章 決意ある流星群

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1-5 ギルド会議

「今月やってる演目は、かなりの傑作だぜ。歴代一位かもなー。百年前の護国戦争を舞台にしてんだけどよ――」

 ドアを押し開けると、会話の一幕が聞こえてきた。この声は『薄っぺら』か。一気に暗澹たる気持ちになる。もちろん、いることは最初から判っていたが。

「女優がいいぜ。色気があってこう――おおっと。下っ端風情が随分と余裕のご登場で」

 中へ足を踏み入れた途端、そんな台詞を浴びせられた。言われるだろうなと予想した言葉とぴったり一致していたせいで、つい吹き出しそうになる。どうにか堪え、顔を引き締めたままドアを潜った。
 建物の中は、ちょっとした酒場か大衆食堂と言った趣きだ。広間には八人掛けのテーブルが四つ。つまり三十人以上が集まって宴会を開ける程度の広さがある。しかし、中にいるのは、ひい、ふう――全部で六人。やっぱり俺が最後だったか。
 俺を軽蔑するのが生き甲斐らしいクライセンにリヒト。他にリーフィの姿もある。

「ぎりぎりとは珍しいな、コジロウ」

 本来であれば店主が陣取っているであろうカウンター。その内側に座るスーツ姿の人物が、手にした本に視線を据えたまま、低く響く――しかし柔らかな口調で言った。

「申し訳ありません、団長」
「構わんよ。遅刻したわけでもあるまい」

 気にすることはないと、精悍な顔を横に振った。
 本当に貫禄のある人だ。背は高く肩幅も広い。錚々たる体格でありながら、面と向かった者に圧迫感を抱かせない抱擁感も併せ持つ。二十年が経てば俺も団長と似たような歳になるが、こんな威厳を放てる人間になれる自信はない。
 元は王家親衛隊として名を馳せた創作家(クリエイター)(クリエイター)とは、こういうものなのか――改めて感服しつつ、適当に空いている席を見繕って腰を下ろした。当然、連中とは距離を取る。
 そう、ここはあくまで元・食堂。
 今は創作家(クリエイター)ギルド『霧雨の陣』のアジトなのだ。

「コジロウ!」

 一息ついていると、リーフィが俺の名前を連呼しながら近づいてきた。

「ねえ、あの件なんだけど」
「あの件?」

 必死で目配せをしてくるが、心当たりないぞ。

「ええと、その、ほら!」
「は?」

 何だよ、言いたいことがあるならはっきり言え。そう口にしようとしたところで。

「リーフィ、酷いじゃないか」

 幼馴染越しに別の声。

「話の途中なのに腰を上げるなんて」
「あ……うん。ごめんなさい。ちょっとコジロウに急ぎの用があったから」

 余所行き用の笑みを浮かべて振り返るリーフィ。
 ああ、なるほど。合点がいった。シュレンから逃げる口実に俺を利用したな? どうせ――。

「それでどうだい? 次の休日。例の植物園の入場券があるんだが一緒に行かないか? この時期に見ごろなのは――」

 案の定だ。口説かれてたらしい。手でヒラつかせているのは、その入場券とやらか。
 男の名はシュレン。俺たちより二つばかり年上の、ギルドの先輩だ。見ての通りリーフィにご執心。
 短く切り揃えられた髪に、白地のシャツにネクタイ、そして鮮やかな赤のベスト。ホテルのボーイのごとき出で立ちだが、実際は奉仕する側ではなくさせる側――誰もがその名を知る、爵位持ちの名家出身。まあ別に名乗らずとも舐められることはないだろう。整った顔に羨ましいと言わざるを得ない長身を備えている。
 いや、それより何よりも、こいつからは自信が溢れ出している。

「植物園。以前、一度行ってみたいと言っていただろう?」
「え、ええ。それはとても素敵だけど。その、あいにく……」
「中央広場にテントを張っているサーカスでもいい。ブラウ通りに新しく出来た東国料理店なんかはどうだ? 新聞に大々的に広告を載せていた。本場で修行を積んだという売り文句で」
「ごめんなさい!」

 次々に案を並べるシュレンに、リーフィは意を決したように勢いよく頭を下げた。

「その日はコジロウから頼まれごとがあって」
「おい、リーフ――っぐ!」

 つま先を踏んづけられた。出かかっていた言葉が喉の奥で行き詰まる。

「でしょ? コジロウ」
「あ、ああ……そう、だったっけな」

 口を引きつらせながら頷く。リーフィが履いていたのがヒールじゃなくて良かったと心から安堵する。

「そうか、残念だ」

 言葉通りの表情を浮かべ、シュレンは手にしていた入場券を胸ポケットに仕舞う。

「君との約束を取り付けるのはドッグレースの一着を当てるよりも難しいな。いつでもコジロウが先約を入れている」

 じろりと恨めしそうに俺を見た。睨むな睨むな。俺の責任じゃない。

「それはそうと、久しぶりだなコジロウ。随分な活躍だったようだな。リーフィがしきりに褒めていたよ」

 整った顔をきりりと引き締め直すと、思い出したかのように俺に挨拶をくれた。

「活躍? ああ、貴方がいなかったからですよ」
「であれば嬉しいけどな。お前でなければ出来ない仕事だっただろう」
「党賊共の懐に潜り込んで間諜活動。確かに、育ちのいい人には難しいでしょうね」
「ふはは、その通りだな」

 ためらいなく頷きやがった。おい、ここは謙遜するところだろ。

「何にせよ、次の仕事はぜひとも一緒させて貰いたいものだ。コジロウ以上の貢献を披露する為に」

 ちらりと視線を滑らせた。意味有り気な視線をリーフィは愛想笑いで受け流す。

「俺はお前だけには負けたくないんだ、コジロウ」
「……まあ、俺に遅れを取るなんて、いい恥晒しですからね」

 俺にだけは負けたくない、ね。嫌味以外の何物でもないな。生まれに外見に能力と、俺がお前に勝ってる、どころか張り合える要素すらひとつもないってのに。

「時間だ。頭数も揃った。始めるとするか」

 ぱん、と本が閉じられる独特の音。振り返ると、団長がカウンターの中で立ち上がっていた。

「なに、大した話をするつもりはない。今回の仕事の成功を祝い、そして少しばかりの反省を」
「その前にひとつ、よろしいでしょうか」

 唐突に白い手が挙がった。己の金髪をこれ見よがしに手で梳き流す気障ったらしい仕草。似非淑女、クライセンだ。

「何だ」

 横車を押された団長が、気を悪くした様子も見せず頷き返す。

「私からひとつ、提案がありますの」

 クライセンが薄く笑った。しかも俺を見ながら。
 ――嫌な予感!

「ほほう。言ってみろ」
「コジロウ・砂条を、我らがギルドより除名すべきです」

 ――だん!
 一際激しい音と共にテーブルが揺れる。リーフィが立ち上がっていた。顔には憤怒が浮かんでいる。

「また、性懲りもなく!」
「座りなさい、リーフィ」

 クライセンは動じない。

「今回はいつものような迂遠な忠告ではありません。ギルドメンバーとして、正式に提案をしたのです」
「そんな馬鹿げた話!」
「メンバーの真摯な意見はどんな内容であれ会議にはかる。団長、そうですわよね?」
「その通りだ」

 団長は鷹揚に頷いた。自分の出番は後回しになったと、再びカウンターの中で腰を下ろす。

「理由を言ってみろ。コジロウが除名に値する存在だと証明できたなら、当然考慮する」
「理由? 理由ですって? そのようなもの、ひとつしかありません。この野良犬が在籍していることにより、私たち『霧雨の陣』全員の格が落ちるからですわ」
「どうしてよ!」

 リーフィが食って掛かる。

「コジロウは立派にやってるじゃない。今回だって、貴方たちより全然!」
「改めて説明しなければ解りませんの?」

 クライセンが凄むとリーフィが口をきつく結んだ。気圧されたわけじゃない。
 この後何を言われるか、想像がついたからだろう。

「『霧雨の陣』は執政府から認可を受けた、創作家(クリエイター)のみによって構成されるギルドです」

 クライセンが俺を疎ましげに睨んだ。お前にその資格はないのだと言いたげに。

創作家(クリエイター)。それは幻料(ファテ)を認識し、抽出し、精錬し、形成し、固定し、使役する。選ばれた才能を持つ者のみが名乗りを許される称号」

 ぐわん、と眉間の辺りに独特の圧迫感。慣れた感覚だ。間近で誰かが、幻料(ファテ)を練り始めた証拠。案の定、似非淑女の手から薄い光とも靄ともつかぬ『何か』が滲み出していた。

「私は創作家(クリエイター)であることは誇りにしています。自慢にもしています」

 更にクライセンが手を一振り。
 揺らめき透き通る『何か』が自然と動き出す。床に突き立てられたステッキの前へと集まり、固まり、ひとつの――いや、ふたつの形を成していく。

「だからこそコジロウ。あなたの存在が我慢なりませんの!」

 やがて、何も居なかった筈の空間に――。
 現れる。
 獣特有の、低く唸る声が響いた。黒く短い体毛。子供であればその背に乗せて運べそうな程の大きさ。狩猟こそが本分だと一目で判る二匹の犬。忽然と姿を現したそいつら(・・・・)が、俺に牙を剥いて見せた。


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