挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
その造型は魂にも似て 作者:道化屋

第三章 曲がるか、折れるか

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

31/39

3-9 いけにえ

 馬車を降りる。とりあえず往路分の運賃を御者に渡し、すぐに戻ると言い含めて歩き出した。
 一瞬、人気のない場所に、御者とはいえ誰とも判らない男とリーフィを二人きりで残すのは……と考えたが、すぐに打ち消した。実に無駄な気遣いだ。

 さて、団長はどこだろう。
 ここが町として機能していたころは、おそらく中央通りとして使われていた広い道。電報の内容が確かなら、この先に――あった。国立図書館の跡地。ここを右へと曲がった所にある、スニューウ朝建築のビルが待ち合わせ場所だ。建設途中で放置された物件だから一目で判る筈。
 身知らぬ土地の、しかも廃墟で、更には夜。気を抜けばすぐに迷ってしまうだろう。とはいえ方向感覚には自信がある。ちゃんと戻って来られるよう周囲を見回し、月と星に照らし出された光景を頭に叩き込む。

 そうして角を曲がり、歩き出す。
 目的の場所はすぐに見つかった。進行方向の奥にランプの光が浮かび上がっている。近づいてみれば、そこには人影。時間にはかなりの余裕を持って出てきた筈なのに、当の団長が既にその建物の前で煙をくゆらせていた。

「お待たせしてしまいましたか?」

 慌てて駆け寄る。

「気にするな」

 団長は眼前の建物を見上げたまま応えた。

「暇があったからな、先に来てここいらを眺めていた。長く放置された家屋は、見ていて面白い」

 その気持ちは少し解る。退廃的な建物は、ぼんやり眺めているだけでも飽きがこない。

「さて」

 団長は懐から携帯用灰皿を出すと、葉巻の火を押し消した。

「では、返事を聞こうか」

 少しだけ血の巡りが早くなる。リーフィには強がってみせたものの、流石にこれだけの話、気楽には断れない。

「コジロウ。直属推薦の話、受けてくれるか?」

 団長の問いに、俺は。

「――すいません!」

 深く深く頭を下げた。

「今回の話、辞退させて頂きます」
「断るか」

 中々勇気ある決断だと、笑い含みの声が降ってきた。

「理由が見当たらないが」
「俺の勝手な気持ちなんです」

 頭を下げたまま言った。

「俺なんかに目を留めてくれて本当に感謝しています。こんな好機、二度とないものだってことも重々承知しています。でも、まだ早いと思ったんです。創作家(クリエイター)としての能力はもちろん、人としても。だから」

 顔を上げた。団長は苦笑いを浮かべている。

「もうしばらく、団長の下で――『霧雨の陣』で勉強させて下さい」
「ふむ」

 団長は一度唸ると、俺の目を見た。

「最後にもう一度だけ訊く。今回の直属推薦を断る。その気持ちは変わらないのだな」
「はい」

 ためらうことなく頷いた。

「そうか、残念だ」
「申し訳ありません。折角の好意、」

 俺の眉間を、ぐわん、と圧迫感が襲った。

 慣れた感覚。間違えようも無い。間近で誰かが幻料(ファテ)を練っている。だが違う。段違いだ。このひりつくような強さ、並みの使い手じゃない。
 誰が練っている? ここにいるのは、俺ともう一人。

「だん、ちょう?」
「残念だ。実に残念だ。出来るなら穏便に事を運びたかったが」

 団長の顔には相変わらずの苦笑い。でも、どこか、邪な。

「しかし困るのだ。お前の下した決断は、俺を困らせるのだ」

 団長の背後の空間が歪んだ。いや、生み出された幻料(ファテ)が陽炎のように揺らめいているのだ。
 俺が呆然としている間にも、団長が練り上げた幻料(ファテ)が、集い、形を成していく。

 ――人型だった。
 ただし肌は青く、錚々たる体躯の団長より、一回りも二回りも大きい。ビルの二階に手が届きそうなほどの巨体。
 衣服と思しき形は作られない。筋肉の造形を誇示するような裸体。藁で編んだような蓑が、腰にくっついているだけだ。さらに手には無骨な木造りの槌とくれば――深遠大陸の奥地にいるという現地民を思い出さざるを得ない。
 いや、何よりも特徴的なのは、その顔。
 顔がない。いや頭はある。表情を覆い隠すかのごとく、包帯のようなものでぐるぐる巻きにされているのだ。事故で顔全てを焼いてしまった鍛冶屋の記事の傍らに、こんな挿絵が載っていたのを見たことがある。

 ――見るのは、これが初めて。
 だが、名前だけは知っている。

 元・王家親衛隊。協会が第一等級と評価する創作家(クリエイター)が一人。
 現・ギルド『霧雨の陣』団長。
 ムーア・バイセンの代名詞たる模型(モデル)
 【滅私奉姫の番人(フェイスレス)

「ならば致し方ない。力づくで連れて行こう」

 団長が告げた。

「どう、して」

 聞きたいことは沢山あったが、口に出せたのはそれだけ。しかし十分だろう。
 疑問に対し、背後に青く巨大な番人を控えさせた団長は、今までに見たことのない、顔の肉全てを歪めるほどに大きな笑みを浮かべた。

挿絵(By みてみん)

「すまんなコジロウ。諦めてくれ。俺が護紋の輩へと戻る為、我が姫の元に舞い戻る為に――お前という生贄が、どうしても必要なのだ」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ