2-12 手痛い損失
「しばらくは使い物にならないだろうね、リヒトは」
執務室の中。机を挟んで俺と向かい合った副団長はやれやれと言わんばかりの口調で言った。
「あいつの【名刀】は、本人じゃなく他の奴に貸し与えた時にこそ真価を発揮する模型だった。重宝したんだけどねえ」
人質の救出を目的とした仕事の際、奴は確保した人質に模型を貸し与えていた。その瞬間、本来ならば荷物にしかならない素人が頼れる戦力と化すのだ。仕事においては、有益この上ない模型だった。
「あそこまで粉々にプライドを砕かれちゃ、もう能力は発揮出来ないだろう。心の整理をつけて、改めて刀と殺陣に想い入れを見つけ出さない限りは」
「申し訳ありません」
責められているようで、頭を下げずにはいられなかった。
「仕方ないね。決闘を提案したのはリヒトの方だ。自業自得って奴だよ。それよりあんた――しばらく身辺には気をつけるんだよ」
突然の忠告に面食らう。どういう意味だ? 俺の身に良くないことが起こるとすれば……。
「まさか、クライセンに復讐されるとでも」
「そうじゃない。ただアタシの言葉を覚えておきな。感情に任せて突っ走るんじゃない。何を決めるにも、よく考えて、慎重にだ。いいね?」
何か知らないが、とにかくこれ以上余計な揉め事は引き起こすなということか。クソ、俺だってそんなもの望んじゃいない。
「解りました」
一礼して、副団長の部屋を辞した。外ではリーフィが心配そうな顔で、俺のことを待っていてくれた。