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1歳誕生日

 昨日の続きだ。

 まじめに丁寧にするのはヤメだ。俺にはあわない。


 言葉についてだが、

 ヘレンケラーって人、やっぱ「奇跡の人」だわ。

 例の、井戸水から言葉には意味があるのを知る「ウォーター」・・・ってやつ。


 親父のルイージが、「水くれ」って感じでしゃべるのを、

「ダ ほにゃらら アクアム」と聞こえた。

「アクア」ってきっと水のことだぜ!きっと。語尾変化あるけど・・・


 ヘレンケラーを思い出したのわかってもらえるだろ。

「奇跡だ」・・・水で気付くとは・・・


 もともとヨーロッパ風なのだから、言葉もそうなのだろうと思ってはいたが、「アクア」をきっかけに、「アモール」(愛)「カーボン」(炭)「デウス」(神)「ファミリア」(家族)「ルナ」(月)「ソル」(太陽)・・・

 簡単な大人たちの会話の中に見知った単語が出てくる出てくる。

 英語じゃないのが残念だけど、イタリア語?

 なんせ、親父 ルイージ だもんね。

 ラテン語かギリシャ語かもしれない・・・

 フランス語やドイツ語ではない。


 もちろん、長々と話し合ってる内容はどの言葉が何を指しているのかさっぱりわからんし、文法はちんぷんかんだ。

 大学で第二外国語をドイツ語でなく、イタリア語にしておきゃよかったが、今さらなので、前向きにそのときの経験を活かそう。

 エラそうにドイツ語分かるかのように言ったが、

 大学って単位とるだけのとこだったから、俺の時代・・・

 ドイツに行ったときも英語しか話さなかった程度だ。


 ふつうの子より言語の習得には困らないと思っている。



 数日が経ち、家族の雰囲気が今日はちがう。

「ノーニス マールティウス」と かあちゃんの ディアーナ が騒ぐ。

 座らされたテーブルにローマ数字でⅢとⅦが並ぶ。

 NON.MART という字も・・・


 NONは ノーニス、MARTは マールティウスの略であろう。

 Ⅲという数字とマールティウスは、軍神マールスからくる英語の

 Marchマーチ 3月 だろう。

 そういえば、抱っこされて外に出たとき、雪が溶け始めている。

 Ⅶという数字はセプテム・・・英語のセプテンバーの語源・・・

 ノーニス・・・わからん?

 (因みに、ノーニスはイードゥスという月の真ん中日のノーナエ9日遡る日、ノーナエ・イードゥスが縮まってノーニスになる。古代ローマ暦表現15-9+1=7と知るのはずっと後のことだ)


 ま、多分3月7日ぽいな。

 しかし、誕生日みたいな・・・まさか俺の??

 体は赤ちゃんだが、脳内は大人なので、日にちはしっかり数えていたぞ。今日はまだ生後328日なのに・・・

 まさか、これほど地球環境に似ているのに、一年の周期が365日ではないのか? あるいは・・初めの方は、寝てばかりいたので数え間違い?

 多分後者が正しいと直感がつげる。

 30日以上も寝て暮らしていたのか・・・さすが赤ちゃんボディーだ。


 もう1歳なのか・・・

 かあちゃん、親父、ばあちゃんも楽しそうに誕生日を祝ってくれている。

 初めての子の1歳の誕生日はうれしいもんな。

 俺もそうだったよ、長女の1歳の誕生日、本人はなんのことか理解していないのに、まわりの大人が写真撮ったり、ビデオまわしたり。はしゃぐんだよ。

 二人目ともなると、次女には申し訳ないが二人を同時に子育てするもっとも大変なときでもあって、感動も薄れ、義務感でやるようなものだ。

 うれしくないわけではないが、初めを100とすると、10とか20といったそんな低いレベルに感じる。


 娘たちどうしているのだろう・・・

 離婚後は、月に1度の面会をしていただけど、俺が1歳になったということは、逆にまる1年あっていないということだ。

 目の前でたのしそうに俺に愛情を注いでくれている人たちを見ると、余計に娘たちに会いたくなってしまう。

 なんか無性に悲しくなって、涙が出る。

 こんな体になって、意識せずに赤ちゃんらしく泣いていることもある。

 おむつ交換、腹減った合図のためにわざと泣いたりもする。

 おかげで、目から涙はよく出せるようになってはいるが、

 本当に悲しい気持ちで意識して泣いたのは、何年ぶりだろう。




 泣いて、少しすっきりした。

 泣くという作業は、悲しい気持ちから感じる心のストレスを解消する作用があると理解した。女の人がわかっていて泣くという作業をしているのもよく分かった。

反則と思うが、有効な技だ。


 かあちゃんが、だっこしてあやしてくれる。

 この人たちには本当にすまない気持ちでいっぱいだ。

 この人達の本当の息子を、生まれる瞬間かその前からなのかはわからないが、心も体も俺が乗っ取っているわけだ・・・

 そんなことに1歳の誕生日に気付いた。


 自分一人の力では、生きていくことすら出来ない俺を、全力で自分たちの子どもとしてかわいがり、育ててくれているのだ。

 本当のことは伝えられないし、話せるようになって話しても信じてもらえないだろう。いや、話せるようになっても絶対に知られちゃダメだ。自分たちの本当の子どもを失った悲しさを感じさせたらダメだ。

 心からこの人達の子どもになろう。

 そうしないといけないんだ。




 44歳から元世界の誕生日を過ぎているから、45歳にもうなっている。

 人生経験で精神的な成長はするものだが、この歳になって、ありえない経験でも心の変革というものは起こり得ることを知らされた。

  

 

 




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