順調に育っているが・・・
村長のブルーノを筆頭に村からも精鋭6人のパーティーが選ばれ、派遣された6人のパーティーとの2組で追撃討伐が行われた。
あいにく事件の翌日から雪が降り、初日から足跡が消され、南の森の中も雪が積もりだしたそうだ。範囲が広げられて、捜索は続けられる。
オークと猪の集団はその後2日間見つけられず、方針を追討から村周辺の安全パトロールに切り替えられた。パトロールになってからは親父も借り出され、新年のお祝いも村ではなされないまま10日間がすぎ、ロヴェキ辺境伯が派遣した6人も町に帰っていった。
3匹の猪とゴブリン2匹だけを収穫として。
この間、特にばあちゃんに片言の質問に答えてもらう形で多くのことを聞いた。
村の南に広がる森は、遠く見える南のスターラ山脈まで低い丘陵地帯も含めて30km~40kmほどもあり、マナが濃く魔物も多く住んでいるそうだ。
日本で考えると、日本アルプスの手前にある松本盆地や安曇平という、開けた地域が幅にして10kmほどなので、広さがいかにすごい森なのがわかる。
もちろん、兎、野鳥、鹿、猪、狼、熊等の野生生物も人が手をつけられていない地域なので、多く生息している。今回のように野生生物や魔物が人を襲うのは、逆にマナが濃く恵みが豊かな山や森を人が開拓していくので起こってしまうのだと・・・
含蓄のある言葉だった。
中世ファンタジーのようなこの世界で、ばあちゃんの言葉は生態系を自然が保っているのに、人間の方が乱しているという元の世界の現代人のようだ。
現代日本では動物愛護の観点から、北海道で行われるクマの駆除にまで文句をいう現実の厳しさから目を逸らしたお花畑さんもいるが、さすがにこちらにはいない。むしろばあちゃんの意見が少数派であろう。
作りかけの小屋も、オーク襲来と雪のために作業中止。
うちの家族も暇になった。
夕飯時にかあちゃんが発表があると言い出す。
「実は私、回復魔法が中級になったの!」
親父が
「そいつはすごいな!いつなんだ?」
「この前ね、オークの襲撃の2日後
オリンドさんの太ももに【治癒】かけた時にね
ギューンってきたのよ」
「それはレベルアップを感じたんだろうね」
「そう、そういう感じ!で、もしかしたら
できるんじゃないかと思って
次の日こっそりやってみたら【治療】ができたの
ルイージはパトロールで忙しかったし、
家族の皆にちゃんと言いたくて今まで黙っていたの」
かあちゃんが、てへぺろ という表情をする。
まぁまだ25歳だから許してやろう・・・
ばあちゃんが
「本当に、おめでとうディアーナ」
と言ったので、俺もすかさず
「マンマ ちゅごいでちゅー」
と言っておいた。
「でも、ルイージ 村の皆にはどうしよう?」
かあちゃんが親父の顔を覗き込む。
「そうだな・・・
もう少しディアーナが【治療】を練習して、
落ち着いたら村長に言おう」
どうやら、回復系の治療魔法は村全体に関わることだから、秘密って訳にもいかないのだろう。
「ラノベ」やゲームから得た俺のファンタジー知識と、この世界ルールにズレを感じていたが、「レベルアップ」と かあちゃんが言ってたのでこちらの世界でもレベルという考え方が存在し、尚且つレベルが上がると上位魔法が使える。
「レベルアップ」時には体感でちゃんと気付ける何かがある。
「ボクも ひーる ぴかー ちたい」
と言うと、かあちゃんが、
「水魔法と光魔法の両方覚えないといけないから大変なんだぞー」
自慢げに顔を寄せてくる。
「おちえてー」
「魔法は危ないから7歳になるまで教えられないのよー」
何と、ななっ 七歳・・・ そんな待てませんよ奥さん。
「どうちてー いいよ あぶなくないよー」
「火とかお水出しちゃうと、大変だからダメでしょう
それに他の皆に叱られるからねー
小さいと魔力もどうせ足りないし・・・」
「むー」
拗ねたふりをしておいた。こちらの言葉少なくしておけば、言葉の早い子レベルでだませるだろうか?これ以上は偽装工作にも響くので止めておいた。
仕方がないか・・・教えてくれないのなら・・・盗んでやるぜ。
4元素、火、水、土、風の魔法があると想定していたが、光?・・・【計量測定】なんかは何になるのだろう?謎は深まるばかりだ。
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2ヶ月半が過ぎ、春だ。
雪も溶け始めた。小麦の種まきの準備をしている。
小麦の収穫や種まきの時期がおかしいと思っていたのを親父に聞くと、200年くらい前から寒い地域では春に種をまく種類に変えたとのこと。氷の魔法で新しい種類が作られたことや、南の方は昔ながらの秋まき小麦を作っていると教えてくれた。
誰に昔の小麦のことを聞いたのか怪しまれたので、行商人が・・・と、とぼけたがアブナイアブナイ。
相変わらずMP1回復するのに6時間かかる。
だから1日に消費できるMPは4しかないし、MAX量も4という状態だ。
【治癒】ましてや【治療】も使えない。【計量測定】【可視化画面】がLVアップしたりもしていない。【計量測定】に関して言えば、もう200回を超えるが変化無しだ。
いま新しくチャレンジしたり、考えていることは「魔力探知」と「鑑定」についてだ。「魔力探知」は自分のMPがどういう状態なのか?他人がどれほどMP持っているのかを知りたい。「鑑定」も同じで、自分や敵のステータスが見れる。
主人公チートの基本中の基本なのに・・・
【可視化画面】がイメージだけで上手くいったのに何故なのだろうか?習得の条件が何か不足していると思うのだが、それもわからない。
言葉はヒアリングだけならもう大人のほとんどの言葉がわかる。ラテン語なのか、それに非常に近い言葉だと思われる。文章を書いたり、文法はあやしい。敬語法なんていうのもあるんだろうか?でも2歳になる前だ。上出来の天才君だよきっと・・・
体の方もご飯いっぱい食べて、近所の人からは「大きいね」とよく言われる。おっぱいもよく飲んだしな。
「さすがディアーナの子ね」とも言われるが、かあちゃんは自分がデカイ女と言われている厭味が含まれていることに気付いてないようだ。しあわせな性格だ。
体を鍛えることもちゃんと意識している。オークなんかと戦うのだ貧弱ではやっていけない。
あと4日で誕生日だ。
順調に育っているが・・・こんなのでいいのだろうか?