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私を裏切って全てを失った元婚約者が、全裸で走りながら謝ってきました  作者: 忍者の佐藤


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3/6

なぁ、錬金窯くれよぉ……

 


 彼女がやって来たのは国の西端にある街、ニシハッテだった。

 街といっても人口は2000人程度。

 メルがこのニシハッテにやって来たのには理由がある。ここは本来、ゲームにおいて夏休みに来る場所なのだが、良質な錬金窯を手に入れたり、貴重な錬金用アイテムを貰えるイベントが発生する。

 何より、錬金術師が集団で住んでいる地域なのだ。錬金術師として生きていくには、これ以上無い移住地だ。



 早速メルはギルドにて引っ越しの手続きを進めた。

 空き家を探すと、ちょうど錬金術師の家が一つ空いていたので、そこを借りることにする。どうやら前の住人は腕を買われて王都へ引っ越して行ったらしい。彼女にとっては好都合だった。






 メルはさっそく新居に荷物を置くと、金品の入った革袋を握りしめ、一軒の店に向かってダッシュした。

 その場所こそ、メルが引っ越してきた一因でもある。


「オズローさん、錬金窯を一つください!」


 メルは元気よく言った。

 振り返ったのは、ぼろぼろのつなぎを着た、毛むくじゃらの男だった。彼の名前はオズロー。錬金窯を作ったり修理したりする職人だ。


「誰だ、お前」


 商売をしているとは思えない不機嫌な声でオズローは言い、すぐに背を向けてしまう。明らかに警戒していた。しかしそんなことメルはお構いなしだ。

「私はメル・アンブローズと申します。錬金術の見習いをしている者です」


 メルはぺこりと頭を下げた。

「帰んな。半人前に売る物なんかねえ」

「で、でも、お金はここに」

 メルは革袋を上げ下げした。じゃらじゃらと音がする。しかしオズローは全く興味を示さない。

「今それどころじゃないんだ」


「分かります。奥さんが謎の病気でずっと寝たきりなんですよね」

 オズローは思わず振り返った。

「なっ、何でそれを……! ちっ、ギルドの奴が喋りやがったか。ハミットの野郎だな。あの口軽野郎め」


 違う。ゲームの知識である。


「うんうん、それで今は治療費を稼ぐため、領主様に納めるための錬金窯を作っておられるのですよね。職人の誇りを持つあなたが絶対に作りたくないと思っていた、量産型の錬金窯を」

 オズローは目をむいた。

「は、はミットの野郎! そんなことまで喋りやがったのか」


 違う。ゲームの知識である。


「ハミットさんのせいじゃありません。ただ、私は何故かあなたの事情をだいたい知っているだけなのです」

「何こいつ怖」

「あなたの身長は171㎝。ドワーフとしては長身で、仲間からはノッポと呼ばれている。奥さんと出会ったのはギルドで同じ依頼書を同時に取ろうとして……」

「怖い怖い怖い」

「そういうわけでオズローさん、私を信頼してください」

「無理無理無理無理」



 メルはオズローのごつい両手を握った。

「私ならあなたの奥さんを治してあげられます。もうこれ以上、領主様からの恫喝じみた依頼を受けなくても良くなるのですよ」


 オズローはその手を振り払った。顔は苦しみに歪んでいる。

「俺だって……俺だって、あいつの仕事なんかしたくねえよ! あいつは」

「三流錬金術師を集め、オズローさんの作った錬金窯を使って質の低いポーションを量産しているんですよね。そして流通経路を絞って、定価の3倍ほどの値段で大儲けしていると」

「俺に言わせろよ!」

「分かります。そんな薄汚い金儲けに加担したくないのですよね」

「ああそうだ! だが既に詐欺の片棒を担いじまってる。もう俺に職人を名乗る資格なんてねえのさ。笑いたきゃ笑え。だがそれでも、妻の命には代えられねえ……」


 オズローうつむき、続きを言う。

「あいつが何の病気なのか分からねえし、治癒士は病気の進行を食い止めるので精いっぱいだ。だが食い止めるだけでも莫大な金がかかる。それなのに、どこの馬の骨かも知れねえお前が治せるって? そんなの信用できるかよ!」


 オズローが力を込めて言い終わったとき、メルは部屋にいなかった。

「あれっ、居ない!?」


 その時、隣の部屋から話し声が聞こえた。彼の妻が寝ている場所だ。「あいつ、勝手に入りやがったな!」とオズローがドアを開けようとした時。

 あちらから、ゆっくりドアが開いた。


 その光景を見てオズローは頭が真っ白になった。我が目を疑った。

 顔をのぞかせたのは、彼の妻であるヨークだったからだ。


「よ、ヨーク、お前! 一人で立てるのか?」

 彼女は病気になってから、一人で立ち上がることもできなかった。ずっとずっとベッドの上にいて、トイレに行くときは必ずオズローが背負っていった。

 その彼女が、今、ドアのすぐ向こう側にいる。


「あなた、女の子が持ってきてくれたポーションを飲んだら、何だか急に元気が湧いてきたの」


 オズローの目からは涙があふれた。

 今までずっと苦しかった。でも一番つらいのは病気のヨークだ。そう思って、自分は必死に心を殺し、治療費のためにやりたくもない仕事をやり続けた。それでも病気は良くならず、精神も神経もすり減らし続けてきた。

 それが今、急に治ったというのだ。

 奇跡だと思った。


「ああ、ヨーク。こっちに来て、その姿を見せてくれ」



 オズの言葉に頷いたヨークは、ドアに隠れていた身体をゆっくり出した。

 まぶしかった。

 物理的にまぶしかった。



 彼女の後ろから、なぜかピカーッとまぶしい光が差し込んできている。あまりに神々しい光。

 そう、後光である。


 まぶしさに目を閉じてしまったオズローが目を開け、改めてヨークを確認して、目をかっぴらいた。

 彼女はあぐらを組んだ状態で地面から浮いたまま、ふわふわ近づいてくる。

 後光が射しているし、目を閉じた状態で、頭には天使のわっかみたいなのが付いている。


「そ、それ、どうしたんだ、お前!」

「これはね、一言で説明すると天上天下唯我独尊」

「本当に何があったの!?」


「それは私から説明させていただきます」

 部屋の向こうからメルの声がした。

「私が生命力を上げるポーションを彼女に使ったのです。すると喜ばしいことに病気は快癒しました。そして生命力が上がりすぎた結果、人間の上位存在である、天使に近い状態になってしまったのです」

「それもう半分死んでるだろ」


 その時、扉からメルが姿を現した。

 途端、一気に部屋の輝度が爆上げされる。

 それもそのはず。メルの顔面が、顔面だけが、まるでサーチライトのようにバッチバチに光っていたからだ。


「お、お前、めっちゃ顔が光ってるぞ!」

「失礼な。ツヤがあると言ってください」

「いや灯台くらい光ってるよ!?」

「実はヨークさんに飲ませた生命力を上げるポーションが余っていたので、『これ顔に塗ったら、ひょっとして美容効果抜群なんじゃない?』と思って塗ってみたら、思った通りでした」


 絶対予想外だっただろ、という言葉をオズローは飲み込んだ。


「……いや、妻を治してくれたことを感謝する。ありがとう。ところで、妻は元の姿に戻るのか?」

「すぐに戻りますよ。ほんの半年後くらいには」

「長くない?」




 こうしてメルはオズローから錬金窯を作ってもらえることとなった。


 ※二人の光は二日後くらいに元に戻りました。




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