表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂犬チワワと浮遊する存在のラビリンス  作者: 伊藤宏


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/20

狂犬チワワ -001 一か月前のできごと

 あたしはスコーンとアイスキャラメルマキアートを乗っけたトレイを手に、文斗が待つテーブル席に着くやいなや、

「やっばぁ!」

 思わずそう叫んでた。

 だって。

 だってだよ!


     ☆


 今朝は、珍しく文斗が『奢るから』っつうんで久しぶりの朝カフェだった。

 文斗が頼んだのはアイスコーヒーだけだったから注文カウンターですぐ受け取れた。でもあたしのはバリスタさんメイドだしスコーンを(あった)めてもらったんで、文斗に席の確保を頼んで、あたしは受け取りカウンターでちょっと待ってた。朝は混むんだよね、このカフェ。

 出勤前のお兄さんお姉さんのなかにはちょっと苛ついてるっぽい人もいたけどあたしは別に……。どうせ、高校(がっこう)行ったっておもしろくないし、久しぶりの朝カフェって、やっぱちょっとアガる。


 したら、

 したらだよ!

 注文の順番がきたオタクっぽい男の子。子っつっても二十歳(はたち)はぜったい超えてるっぽい男なんだけど、そいつ、緊張してんのか直立不動なわけ。んなもんだから女性スタッフが優~しく「ご注文は?」って訊いたんだよね。したら「好きです! 付き合ってください!」だって。しかもなんか手紙みたいなの両手で差し出してるし。テメ、朝っぱらからなに注文してんだって話。


 スタッフさんは「困ります、困ります」って両手のひらを男の子に向けて必死の抵抗。

 そりゃそうだろ。衆目監視のもと……、それどころかみんなスマホで撮ってんじゃん! あたしだったらソッコー逃げ出すね。こんなの公開されたらもう生きてらんない。


 少ししたら異変に気付いたバリスタの男の人が出てきて優しく声掛けながら肩を抱いて確保……、てか男の子も頑張って抵抗してんだけど力がぜんぜん違うくてだんだんおとなしくなってったって感じ。



 いやあ朝からすごいの見ちゃったな。これ文斗に話さなくっちゃ。あたしは急いでトレイを持って文斗が待ってるテーブル席に着いた。で、開口一番が「やっばぁ!」ってわけ。


    ☆


「あたしさぁ、人がコクってる現場って初めて見た。今どきやるかねー、ほんと、昭和かよ!」

 ちょっと声が大きかったんで周りの人がこっちを見た。

 でもそんくらいじゃあたしの興奮は収まんない。


 あたしは文斗に顔を寄せて、今度はちょっと声を潜めた。

「だってさ。だってだよ、しないっしょ、今どきあんなストレートな告白。できる? いやぁムリムリ! よく恥ずかしくないよね~」


 ん? 

 なんでこいつ下向いてんだろ。

 てかさ、あたしがこんなおもしろい話してんのにスマホ見てるってどゆことよ。それ失礼っしょ。

 て、目でそう訴えたつもりなんだけど文斗はなんか……、どうでもいいって感じ。

 そんなつまんないかなこの話。

 おもしろいと思うんだけどなー。



 だいだい文斗ってよくわかんない。

 ヤンキー通り越して反社の見習いみたいなヤバそうな見た目してんだけど、なんか最近、あたしにつきまとってくんだよね。正直、最初はちょっと怖かったよ。ま、話すと普通におもしろいんだけどさ。


 は~。

 

 文斗のつまんなそうな顔見ててもしょうがないからスコーンかじってアイスのキャラマキをチュウチュウ吸ってたらようやくちょっと落ち着いてきた。

 改めて見たら周りのお客さんにも特に変わったようすはない。ってことはやっぱ、あたしが変なのか。そうなんだ、て思ってなんの気なしにスマホ見てたら文斗が急に黙り込んだ理由がわかった。あとなんか、ちょっと落ち込んでるっぽい表情? そっちの理由もさ。

 LINEに文斗からのメッセージが入ってたんだ。


 〔亜矢のこと好きなんで、ちゃんと付き合いたい〕


 ほお。

 ほお、そういうことか。そういうことですか(たちばな)文斗君。

 確かに、さっき言っちゃったもんなぁ、『しないっしょ、今どきあんなストレートな告白。できる? ()()()()()()()()()()()()』って。


 文斗の顔を覗き込んでまじめに訊いた。

「ねえねえ、これいつ送ったの?」


「……朝イチ」


「だから今日誘ったんだぁ、朝カフェ」

 文斗は黙ってうなづいた。


 改めて発信時刻を確認した。

 7:34

 既読がつかないもんだから焦ってたんだろうな。

 そこにきて告白騒動だ。


「すっごいバッドなタイミングだったね」


「おぅ」


「じゃメッセージ取り消して違う日にすればよかったのに」


 文斗がそっと、テーブルに伏せてあったスマホを上に向けた。

 バッテリーエンプティーの白い表示が点滅してた。

 スリムマッチョな文斗が今日はなんだか小さく見える。なんか、無性に抱きしめたくなっちゃった。



 ……ていう、これが一ヶ月前の話。




 ともあれ。

 こんなことがあって、文斗はあたしの暫定彼氏ってことになったってわけ。あと、ふたりのヒエラルキーも、なんとなくね。

 これはまぁ、あたしのが一個上ってのもあるけどコクられたのはあたしなんだし、なのにボロくそ言っちゃったしさ。別にお情けっつうわけじゃないよ、でも傷つけちゃったらかわいそうじゃん。てか……、ほんというとさ、こいつ連れてると便利なんだよねー。


 でも、よく話すようになってわかったことがある。

 文斗って、思ってたよりずっとまともなヤツだったんだ……、ていう言い方はさすがに失礼か、はっはっは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ