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【番外編】もうひとつのLosing battle


ああ、馬鹿だ馬鹿だと思っていたけど、あたしってこんなにも馬鹿だったんだなぁ。

ぼんやりと、目の前の男を眺めながら思う。

……どーして、好きな人がいる人を好きになったかなぁ、あたし。

……そのうえ、その好きな人ってあたしと違って可愛いし、女の子らしいし、優しいし、いい子だし……

もう、本当に嫌になる。

しかもさぁ、しかもさぁ……がっつり本人から

『お前って本当にいい奴だよな。お前と友だちでよかったよ』

なんて言われちゃってるしぃ?もう、脈なしっていうかぁ……完全に、脈なしだよ。

これってさぁ、絶対あれだよ。『好きです!』って言ったら『俺も好きだけど?』って言われるパターンだよ。

……あ、もちろんその好きの後には(友だちとして)がつくんだけどさぁ。



ていうかね、こいつ本当馬鹿なんだよ。

高校生んときからずっと好きだったくせにさぁ、うじうじしてさぁ、告白しないから、あんなちゃらんぽらんな奴に盗られちゃってさぁ。

それにさ、それにさ。こいつの飼っている犬の名前?カナって言うんだけどさぁ。

蛍花のかと、直人のなで、カナなんだってさぁ。……ばっかだよねぇ。そんなに好きなら告白すりゃあいいじゃん?

なあんで彼氏ができてから告白するのかなぁ?

本当、ばっかだよ。この大田直人ってやつは。

馬鹿だ。本当、馬鹿だ。ば・か!

目の前にこんないい女がいると言うのに……って言えるほどいい女じゃないけどさぁ。

他にさぁ、もっといい子周りにいっぱいいるよ。

大田はいい奴なんだからさぁ、すぐに綺麗でぼんきゅっぼん!な彼女できるよ……はぁ。

なあんか、悲しくなってきた。

どーしてあたしってばこんなに可愛くないわ、スタイル良くないわ、性格もよくないわなの?

なにか一個ぐらい良いところあったってよくない?

そしたらさぁ、そしたらさぁ、万が一、億が一……大田が好きになってくれたかもしれないじゃんかぁ。



「……おーい、聞いてるか?錦織」

「んー、聞き流してますよ?」

「……なかなか酷い奴だな。お前って」



まあお前らしいわ、とけらけらと笑う大田。……その笑顔が、なんとなく寂しげだ。

……ああ!なんで吉瀬さんはあんなちゃらんぽらんを選んだんだろうかっ!

絶対に大田のほうが良いやつなのにっ!

なんで、あんなちゃらんぽらんを!せめて、せめて、もうすこし誠実な奴ならまだあきらめがついていただろうに……っ!!



っていうか、あたしがっ!「あの人ならしょうがないよ」って慰められたのにっ!!



あんなちゃらんぽらんに大田が負けたなんて……なんて声掛ければいいのかわかんないよ。

大田の方が良い男だよ?――ちゃらんぽらんに負けたのに?

吉瀬さんって見る目ないよねー――好きな人の好きな人を侮辱してどうするっ!

大丈夫、あの2人ならきっとすぐに別れるよ!



「……いやいやいや!それ言ったら駄目だろー……」

「……おーい、大丈夫か、錦織」

「大丈夫じゃないよっ!!」



一体誰のためにここまで悩んでやってると思ってんだっ!!

半ば逆切れ気味に顔をあげる……と、苦笑している大田が目に入って……きゅうーっと胸が締め付けられた。



「……に、錦織っ?!」



ぽろぽろと、それはもう面白いぐらい目から涙が流れる。

例えるなら……あれだ、蛇口?うーん、ホースとかシャワー?

目の前の男はオロオロとしている。……泣いてるあたしのほうが冷静だ。



「たった1回の失恋でくよくよすんな、このバカたれっ!」



……いや、対して冷静ではなかったかもしれない。



「好きな人が失恋して落ち込んでるところ見てるこっちの身にもなれってんだ!!」



自分のも予想外の失言。目を丸くしてこちらを見つめる大田。居たたまれなくなって逃げるあたし。

……ああ、明日どんな顔をすればいいんだろう?





 ◆ ◆ ◆






  ――好きな人が失恋して落ち込んでるところ見てるこっちの身にもなれってんだ!!


錦織はそう叫ぶと、店を出ていってしまった。

……好きな人って誰?失恋してって、落ち込んでるって――俺のことかっ?!

ぽかぁんと口を開けていると、周りから変な目で見られていることに気づく。

……居たたまれなくなった俺。急いで会計すると店を出た。



っていうか、一体なんでこんな展開になった?

のろのろと帰りながら思う。

そもそも、アイツから。錦織から、今夜飲みにいこうって誘ってきたくせに、失恋して意気消沈してる俺をほおっておいてぼけぇっとしてたと思えば、ひとり言言いだすし、泣きだすし……叫ぶし。

意味不明なコトしやがって!……と怒鳴りたいのに、電話を掛ける気も、メールを送る気もしない。



  ――好きな人が失恋して落ち込んでるところ見てるこっちの身にもなれってんだ!!



さっきの錦織の言葉が再び頭の中で浮かぶ。

……あれって、やっぱり俺のこと、なんだろうか?――そう、なんだろうなぁ。

そうかぁ、錦織って俺のこと好きだったのかぁ。

そうかぁ。

そうかぁ。


………俺を好きだとっ?!


思わず立ち止まる。


……だって、だってあの錦織だぞ?

化粧なんてめんどい。彼氏なんぞいらん。……ああ、そういや昨日のアレ見た?すっげー面白かったよねー

……って言いながらがぶがぶビールが飲める女がだぞ?

たまーにモノ好き(って言ったら失礼だが)から告白されても


「付き合う?いいけど、どこ行くの?そこまで腕っ節強くないけど、役立ちそう?」


って、素で返す女だぞ?

そんな奴が、俺を好きなんて言うなんて!!


「……そうかぁ、あいつもちゃんと女だったんだなぁ」


しみじみとうんうん、と頷く。




……いやいやいや!しみじみしてる場合じゃないだろ、俺!

えっ、えっ、明日から俺どうやってあいつに接すればいいんだ?

今まで通り?……で、できるわけないだろ。そんなことっ!

だからといって、無視するわけにはいかないし……だって、女としてとか考えたことはないが、あいつは大事な友だちだ。


俺、どうすればいいんだ?


こういうときは、恋愛経験豊富な榊にメールするに限る。

高速で今さっきあったことを報告。返事を待つ。その間にノロノロと足を動かす。

返事は家の前でちょうど届いた。

急いで開く。


 [ じゃますんな ]


あー、あー、そういうことですか。はいはい。っていうか、こんな文送るのに30分も必要ないだろうがっ!!

ムカムカとしながら乱暴にドアを開ける。


……ふと、違和感を感じた。


おしいれから布団を出しながら、違和感について考える。

そして気づいた。



いつも感じていた、もやもやとした気持ちが薄れているのだ。



なくなったわけではない。けれど、数時間前に感じたもやもやとしたものよりも、それは確実に薄くなっていた。

……これは一体どうしたことだろう?

吉瀬に振られてからずっと抱えていたもやもや。

一生これを背負っていくのではないか?と不安になったもやもや。



錦織の言葉のおかげで、薄れたのか?



「いやいやいや、そんなわけないだろ」



錦織から好きだなんて言われても、別に嬉しくないし。

……どちらかっていうと、アイツは異性っていうより同性だしなぁ。

ああ、でも。



「……泣いてる顔は、ちょっと可愛かったかも」



って!何考えてんだ俺っ?!

あの錦織が可愛いなんて、可愛いなんて……可愛いなんて?

頭の中がぐるんぐるんと回る。

……きっと脳が半分眠りかけてるのだ。そうだ。そうに違いない。

俺は着替えると、すぐに布団を被ると目を瞑った。




 ■ ■ ■




その日をさかいにして俺と錦織の関係が変わっていくのだが……それはまた、別の機会に話すとしよう。





【END…?】

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