第19話 青年のお供vs風将軍ソニア
「もうさ、関所とか無視して一気に魔王城に攻め込まない? いちいち面倒臭いし」
俺の意見は満場一致で却下された。
雫さんを単騎で特攻させようとした時もそうだ。
みんな、俺に冷たい気がする。
大体、こんなイベント茶番だよ。
「さっきの火将軍の時も思いましたけど、晴近さんってつくづく型破りですわね……」
「その方が最短で合理的じゃない?」
「いえ、まあ……。ハッ! また口車に乗せられるところでしたわ!!」
伊吹も案外チョロ──素直だ。
相変わらずの速度で魔王領を進んでいるが……。
人間に好意的な街だったり、排他的な集落だったり。
温度差が激しい。
野営の時に備えて俺は食料を十分に用意していた。
幸いにもお米さえあればアリアも大人しいし。
「でもなんというか。モンスターでも一気にけしかけて、速攻でカタを付けようかな」
「それはあまりにも情緒がないよ、ハルくん……」
遥にツッコまれた。
この子、案外こういう所では真面目なのだ。
関所というのは一定間隔で存在しているらしい。
形は最初と同様にコロッセオ型。
火将軍であるデニオさんに聞いたのだった。
「ほらほら、ガイもいつまでも落ち込んでないで。気持ちを切り替えていこう」
「でもよう……」
先ほどの勝負以降、沈んでいるガイだった。
この男、ガタイのわりにメンタルが繊細だ。
「まあガイは放っておこう。そのうち元気になるでしょ。それより、次の関所が見えてきたよ」
「晴近様、米農家様には辛口ですね……」
アリアはガイの事を『米農家様』と呼んでいる。
この子の将来が心配だ。
そのうち教育しておこう。
「女の子には優しく、野郎には厳しくっていうのが世間の常じゃないの……?」
「いえ、そんな心底不思議そうに言われましても……」
別に女尊男卑ってわけじゃないけど。
例えば理不尽な輩──雫さんなんかには俺も厳しくするし。
そういえばあの人の更生具合ってどんな感じだろう。
さすがにこんど、遥に聞くか。
今のところは全く減罪してない状態だ。
彼女のタイムリミットも刻一刻と減っている。
雑談しながら闘技場に入ると、中央には女性がいた。
先ほどのデニスさん同様、魔族なので一様に羽がある。
「えっと、四天王の方ですか?」
「よくここまで辿り着きまして! わたくし、風将軍のソニアと申しまして!」
……?
「失礼ですが、その言葉ってキャラ作りですか?」
「キャ、キャラ作りじゃないわよ!?」
どうやら作っているらしい。
どっちでもいいけど。
「それじゃあソニアさんとお呼びしますね。これからここにいる五人対ソニアさん一人の対決なわけですけど、異論はあります?」
「むしろ異論しかないわけでして!! いけしゃあしゃあと、とんでもない事を言う男だわ……!」
後半はボソボソ呟いていた。
バッチリ聞こえてるけど。
「ハルくん、毎回それやるの?」
「え、万が一でも許可してくれたら楽でしょ?」
「…………」
遥は黙った。
なぜかは知らない。
「ではさっそく! そちらから一人選んで、わたくしと戦いを始めるわけでして!!」
口調、他に選べなかったのだろうか。
「一人……うーん。もう俺が出るかなあ」
「晴近さん、待ってくださいまし」
「伊吹?」
「ワタクシが出ますわ」
「いいけど、また何で?」
「だって、キャラが被ってるんですもの!!」
え、そう?
そんな被ってる要素ないと思うよ。
せいぜい一人称くらいでしょ。
「でもねえ」
「ワタクシ、まだあまり役に立ててないんですもの! お願いしますわ!」
「わかった、条件付きならいいよ」
「条件ですの?」
「うん、最初は自分で戦ってもいいけど、途中で俺の命令を受けること。それ、呑める?」
「……わかりましたわ。ワタクシの未熟さは自身が一番分かっておりますもの」
すんなり同意してくれた。
これは助かる。
伊吹はポテンシャルこそ高い。
が、まだこういう実戦には少し早い。
「ということでソニアさん、直接的な横入りの助太刀はしませんけど、テイマーとしてのオーダーは出したいんです。許可してもらえません?」
「それぐらい余裕で許可しまして!! でも、テイマー? その子、どう見ても人間なのに」
この人、もうキャラ作りやめた方がよいのでは。
「しかし風将軍とは。肩書き通り風魔法が得意なんでしょうね」
「? いえ、何を仰っていまして? 魔族は基本的に放出系魔法は使えませんよ? 身体強化の結果、風のように速く動けるってわけでして」
この人たち、なんで戦う前に自分の能力のネタバレするんだろう。
「伊吹、速度タイプなら遥の方が向いてるんだけど……それでもやる?」
「やりますわ! 【ラブリュス】なら持ち主が使うと軽く振り回せますし!!」
そういう意味で聞いたんじゃないんだけど。
いいか、オーダー出せるなら問題もない。
……ソニアさんは細身の剣か。
タイプ的には【フロッティ】に近いな。
「アリア、治癒魔法で切り傷や刺し傷治せるよね?」
「は、はあ。欠損でなければいけますけど」
「ん、ありがと。じゃあ伊吹、頑張っておいで」
「はい!!」
そしてソニアさんと伊吹は例によって中央で対峙した。
「アナタ、そんな重そうな斧でわたくしのスピードについてこれまして?」
「それならハンデでもくれるんですの?」
「あげたら実力の証明にならないわけでして。じゃ、コイントスをするのでそれが落ちたら勝負開始でよろしくて?」
「それで結構ですわ」
そして、ソニアさんがコインを上空へと放った。
そういえばこの人らって不正しないな。
そしてコインが地面に落ち──二人が一斉に動いた!
「──ハッ!」
「くぅっ」
先に仕掛けたのはソニアさんだ。
話に違わず速い。
……遥のが速いけど。
それでも伊吹には厳しいな。
最初の攻撃で腕をかすめたし、動きにもついていけそうにない。
今のところ防戦一方だ。
しかし、ソニアさんの攻撃は大振りというべきか。
身軽なせいかしらないが、一度間合いを取り加速するクセがあった。
最初の狙い所はここだな。
オーダーじゃなくてアドバイスするか。
「伊吹。タイミングを見計らって、【雷光ノ一撃】。狙いは適当でいい」
オーダーではないので言霊は乗せない。
【雷光ノ一撃】は敵に単発の雷を落とす一撃だ。
あわよくば、ソニアさんの足も止まるだろう。
……それで勝てるかは別として。
返事をする余裕がない伊吹は頷いて答えた。
そして適当な地点に放たれる雷撃。
一瞬だけ止まるソニアさんの足。
ここでもう一撃、追撃をすれば勝てるんだけど……。
無理か。
ソニアさんは驚いたものの、すぐに動き始めた。
そうなると再び伊吹は防戦一方だ。
伊吹に切り傷が増えていく。
そろそろソニアさんもフィニッシュに来る頃だな。
ここいらが限界か。
俺はテイマーとしてオーダーを出す事にした。
「……伊吹ッ! 目標十時の方角! 【エンペラー雷鳴陣】だ!!」
「ええェェ!! 一度も発動に成功したことのない【雷霆万鈞】がッ!!??」
「キャアアアアアアア!?」
そして伊吹の斜め前に荒れ狂う雷の嵐が展開された。
テイマーとしての感覚でソニアさんがいる位置は大体わかる。
【エンペラー雷鳴陣】は初めて使う技だ。
ソニアさんは直撃を免れていたが……。
どう見ても戦闘不能だろう。
焦げてる箇所もあるし。
「よし! 勝負はこれで決着でいいね? ソニアさん、異議は?」
「……ありません、私の負けです。まさかあんな大技が……」
あ、口調が戻ってる。
「勝ちはしましたけど……色んな意味で釈然としませんわ……」
伊吹は苦い顔をしていた。
せっかく勝ったっていうのに。
まあ、【エンペラー雷光陣】の真価は集団戦だしね。
これで二勝か。
本当にチマチマした行軍だよ。
「ところで晴近さん、なんで【雷霆万鈞】の発動が出来たんですの?」
「アリアには言ったんだけどね、モンスターのポテンシャルを引き出せないテイマーなんて生ゴミだよ」
「ええぇ……」
◯
今回のリザルト
テイムモンスター一覧
・エンペラースライム
・エンペラーゴブリン
・エンペラーファントム
・エンペラーヘルハウンド
・エンペラーフェニックス
・エンペラーキマイラ
・エンペラーガーゴイル
・エンペラーローカスト
・エンペラー冬虫夏草
(省略)
・遥
・アリア
・伊吹
・凱
【天空米】
実際に検索すると出てきてしまうが、その天空米とコレは無関係。
たぶん。
テイマーとしての感覚→×
剣士としての感覚→○
この男、あくまでテイマーの(略)