第20話 林間学校6
少し遅くなりました。月曜日は憂鬱なものですね……。
カレー作りも終了し時刻は20時前。静まり返った宿の部屋に一人、寝転がっている。
今から肝試しを行うため、宿の部屋を出るという時に体調不良で自分の部屋に戻った。
朝からマスクを着用していたのも体調が悪く、皆に風邪を移すのは申し訳ないと思ってのこと。
というのは真っ赤な嘘である。熱もなければ咳も出ない。
林間学校で肝試しをすることは毎年の恒例行事だそうだ。相原はお化けや怖い話が大の苦手。
相原が怖い思いをしなくて済むように、様々な手段を使ってお化け役の先生達を今から追い払いに行く。
肝試しを中止にさせるため、雨乞いやてるてる坊主を逆さまに吊ったりもした。
確かに雨は降ったがこの程度の雨では肝試しは中止にならない。
熱もない、咳も出ない元気な体で先生達を追い払う。
はずだった。
今のは俺が考えた裏方スケジュール。それを淡々とこなす予定だった。
昨日の夜、風邪をひいたときの練習もした。どうすれば本当の風邪っぽく咳ができるか、体調が悪く見えるか。
でもその努力は無駄だった。俺は本当に風邪を引いたらしい。
カレーを作っているときは元気だったが、今になって体は暑く思い通りに動かない。
まさか嘘が本当になるとは……。相原のためとはいえ嘘は良くないよな。嘘は。
それでも裏方活動を止めるわけにはいかない。
俺は裏方。相原が嫌な思いをしないよう、自分を犠牲にして馬車馬の様に働くのだ。
先生達を追い払う方法は決めてある。
お化け役の先生を俺がお化けになりきって脅かしたり、クモやゴキブリといった虫の人形を木の上から大量に落としたり。
相手は大の大人だ。こんな幼稚な方法で先生達が追い払えるかは分からない。やるだけやってみよう。
相原が出発する前に肝試し会場に入り先生達を脅かした。俺の予想に反して先生達は驚くほどすんなりと追い払えた。
これで相原を脅かす悪い奴らは居なくなったわけだ。
あとは相原が無事にゴール地点に到着するかどうかを見届けるだけだ。
相原は高瀬にべったりで離れようとしない。本当に怖いのが苦手なんだな。いつもの気高さは何処へやら。
相原達がお札を取り、もうすぐでゴール地点に到着するところまできた。
その時、相原達の前に黒い影が飛び出した。暗闇に紛れて黒い影が何なのかよく見えない。
相原はその黒い影に驚き全速力で走り去っていく。
何故だ!?先生達は全員追い払ったはずなのに。俺も慌てて相原を追いかけるがついに相原を見失ってしまった。
この暗闇の中で相原を見失うのはかなりまずい。
雨が降り地面はぬかるんでいる。いつ転んでもおかしくない。もし相原がぬかるみに足を取られて転んでしまったら、木に頭をぶつけてしまったら、そんな心配ばかりが頭をよぎる。
携帯のライトで少し先が見えるほどの明かりは確保している。立ちはだかる草木を手で掻き分けながら相原を探す。
10分程探したが相原は見つからない。山奥で迷った相原を見つけ出すのは困難を極める。
雨は強さを増すばかり。雨の音と近くの川の轟音で大声で叫んでもおそらく遠くまでは聞こえない。
途方に暮れていたその時、遠くにかすかに光が見えた。もしかしたらあれは相原の携帯の光かもしれない。
現代の学生が暗い時に使うツールと会えば携帯のライトだ。急いで駆け寄る。
光に近づくと人影が見えた。じっと後ろ姿を視認してあれは相原だと確信した。
一時はどうなることかと思ったがようやく見つけた。
相原を連れて宿に帰ろう。
相原に近づくと相原の奥の方が崖になっているように見えた。
しかし、相原はそれに気づいていない。少しずつ崖に近づく相原に全力で走りながら叫ぶ。
「相原っ!止まれぇぇ!」
やはり俺の声は雨や川の轟音にかき消され聞こえていない。そして相原はついにその崖に一歩を出してしまった。
くそっ!!届け!!
地面を蹴り、思い切って伸ばした俺の右手。
引きちぎれそうになりながらもなんとか相原を掴んだ。
「やっと見つけた。ちょっと重くないか?」
咄嗟に口にした言葉は、普段見せることのない涙を大量に流している相原を見て、元気付けるわけでもなく慰めるわけでもない。ただ安心して欲しいが故のいつも通りの会話だった。
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次回は6月5日に投稿予定です!




