無自覚鈍感キューピッド 人物紹介
なろうの仕様が変わって、物凄くまごついています……。
過去に書きっぱなしで放置していたアレコレに、この機会に少々目を通しまして。
まあ、色々出てきまして……。
大分前に振ってわいたネタを書いたっきり、続きを書く予定がなかったのでここに放流。
初陣で手柄を立てて以来、戦場においては負け知らず。王国にこの人ありと謳われた男がいた。
しかしそんな彼も不死身ではなく、死は訪れる。
……きっと自分は地獄に落ちるだろう。そんな彼の予想に反して、天使(自称)は言った。
「アナタの魂は怨念に穢され過ぎていて『あの世』に行くことができません」
呪いと化した怨念を浄化し、死後の安寧を得るため。
『彼』改め『ロッザ・ガーランド』の魂浄化チャレンジが始まった。
「……500年かかっても終わる気がしねぇ」
彼を呪った人数と同数の乙女を救済(恋愛的な意味で)するまで彼の苦難は終わらない!
恋愛の機微とか死滅してる系の元脳筋バーサク男前(無自覚鈍感系)が、か弱い女の子に生まれ変わって強制的に人生賭けて他人の縁結び生活させられる話。ただし元々恋愛の機微が死滅しているので微妙に的は外している。
果たしてロッザは266人の縁結びを成功できるのか!?
ロッザ・ガーランド(主人公)
髪:金茶色 瞳:蒼 くせ毛ポニーのちびっこ 12歳
前世で無自覚に266人の乙女の想いを握り潰してしまった呪いで苦労している。
呪いその1:精神力の損耗限界に挑むような転生の宿命
呪いその2:女運が悪くなる
呪いその3:身体能力にデバフ(怨念量に比例)
呪いその4:女にしか生まれ変われない
呪いその5:自身の恋愛は絶対に成就しない。
彼を呪った乙女と同数266人の女性を恋愛成就に導くことが解呪の条件である。
姿と口調は女の子を取り繕えているが、中身は前世とさほど変わっていない。
元無自覚鈍感系な戦場の英雄様。基本的にデリカシーはない。
恋愛にはムーディな音楽が欠かせないとの思い込みから魔楽師の道を選んで魔法学校へ。
(魔楽師:音楽を供物に精霊の力を借りる精霊魔法の一種)
アレクス・セリエルト
髪:黒 瞳:黒 12歳
ロッザちゃんの前世弟の子孫。ロッザちゃんの前世を彷彿させる身体能力の持ち主。
剣士を志している荒んだ雰囲気の少年で、目つきが玄人。
だけど仲間内では1番の常識人かもしれない。苦労人でもある。そして一言多い。
かつて国が『剣士の国』と呼ばれていた頃、国一番の剣士だった祖父を尊敬している。
そんな祖父の名誉を穢し、貶めた魔法使い(実父)を憎んでいる。
魔法使い(実父)を倒すため、魔法使いとの戦い方を研究するために魔法学校へ。
基本的にデリカシーもないし、空気は読めるが他人への気遣いが足りない。
西風館 顕造
髪:銀 瞳:金 ?????歳
自称、前代未聞の呪いを受けたロッザちゃんをサポートするために神様から遣わされた天使。
神秘的で性別を感じさせない美しさを持ち、スカートを履いて魔法学校に通っている。
本人曰く、天使に性別はないそうだ。
ロッザちゃんをフォローするために女子としているとのことだがロッザちゃんは趣味だと思っている。
物理的な攻撃手段は乏しいが、回復魔法や補助魔法はその辺の聖職者が裸足で逃げ出すレベル。
ライオネル・アバト・リーオンヒルム
髪:金 瞳:緑 12歳
絵本から出てきたような、絵にかいた王子様的美少年。
そして実際に隣国の王子でもある。
多才でなんでもそつなくこなすが、突出した特技がないことが悩み。
300年前、先祖がやらかしたせいで代々第一王子はとある制約に縛られている。
当時の第一王子が不仲だった婚約者(小国の王女)ともめた挙句、王子の愛人に呪われて王女は覚めない眠りに囚われてしまった。呪いを解く条件は愛の口づけ。王女と婚姻を結ばねば小国の有している利権を譲ってもらうことができない。だが王子に呪いを解くことはできなかった。当然である。
以来、「王女の婚約者」を理由に小国の利権に口出しするための大義名分として、代々の第一王子は呪われて目覚めない王女の名義上の婚約者として捧げられてきた。
ライオネルはその呪縛を断ち切りたいとの一心で、王女の呪いを解きたいらしい。
自国にいては集められない、他国の魔法的な情報を求めて留学してきた。
ちなみに300年前当時、結構な話題になったのでロッザちゃんは後世に伝えられていない呪いの詳細について伝聞ではあるが情報を持っている。
王女は年下趣味で、王女(当時16歳)より年齢の低い相手でなければ恋愛対象に見られないということ、そして他の女の手垢がついた男は眼中にないということを。
王女の呪いを解きたければ、15歳以下で彼女いない歴=年齢の男がキスしなければいけないらしい。
幼い頃から呪いだのなんだのの勉強や研究に集中しすぎていて、すっきり爽やかな人柄なのに空気が読めない。
1.とある『男』の最期
月の出ている夜であっても、深く木々に覆われた森の中は闇に満ちている。
敵か味方かもわからぬ者どもが掲げる松明の火が、遠くちらちらと揺れている。
近くには『男』とわずかな手勢、そして少年しかいない。
闘争と逃亡の最中、散り散りになってしまった。
守るべき小柄な少年を、最も体力に優れた男に背負わせて慎重に進む。
野歩きに不慣れな少年にとって、暗い夜の森を駆け抜けるのは難しかった。
『男』の剣は冴えわたり、今は木々に遮られて見えない月のようだった。
彼が剣を振るう度、物言わぬ躯は増えていく。
元より戦場で手柄を立てて成り上がってきた経歴の持ち主だ。
遠慮もなければ油断もなく、『男』は立ちふさがる一切の敵を無慈悲に切り伏せてきた。
時に息を潜めてやり過ごし、時に苛烈に襲い掛かって口を封じて。
敵と味方の入り乱れる戦地を、彼らは撤退するに努めた。
「すまぬ、皆の衆。私が不甲斐ないばかりに……足手まといとなってしまった」
「お気になさらず、王太子殿下。これは不甲斐ないってのとはちっと違いますよ。悪いのはぜーんぶどっかの男爵様のせいですって」
「そうそう、あのオッサンの命令無視に作戦無視。ありゃ酷かった……」
戦に絶対はなく、決まった勝ち負けなど存在しない。
だが、高確率で勝てるはずの戦だった。少なくとも、計算上は。
未来の国王に箔と自信をつけさせるためにお膳立てされたのだから、勝率が高いのは当然だ。
しかしそれも、勇み足を踏んだか功を焦ったか、余計な行動に出た味方がいたせいで台無しになってしまった。その結果、彼らはこうして逃げ帰る羽目となっている。
「それでも、のう、父上のお話ではそなた、13の初陣で敵将の首を3つも揚げたというではないか。今の私より、2歳も年若いというのに。それに引き比べて、我が身の頼りなさときたら……」
「何悩んでんですか、王太子殿下。そんな意味もないことで」
「意味がない? 意味ならばあるぞ。あるとも」
「いやいや、ないですよ。そんなん比べる方が間違ってますって。俺と殿下じゃ、土台が違うんですから」
あっけらかんとした『男』の物言いに、王太子の目線が下がる。
俯いてしまった王太子の様子は、見るからに落ち込んでいるようで。
『男』は苦笑しながら、くしゃくしゃと王太子の頭を撫でる。
ああ、自分の弟もこんな風になることがあったなぁなんて思いながら。
「俺と殿下を比べちゃいけません。だって殿下、俺みたいなぶっ壊れた男になっちゃダメでしょ。将来は立派な王様になるんすから」
「え……」
「王太子殿下、言ってましたよね。この国の民は、まだまだ幸せになれる余地があるって。自分が王になったら学べる機会と場所を国中に作るんだって。福祉だって力を入れたいって言ってたでしょ。そっち方面は、俺にはどうしようもありません。手も足も出ないってヤツで。だけど殿下は、そっちが本領でしょ。ほら、適材適所適材適所」
『男』が笑って言うことには、王太子も納得がいった。
どうやら自分は励まされているらしいと、力なく微笑みを向ける。
だけどまっすぐに王太子を見る『男』の眼差しは、笑っていながらも真剣で。
鋭さのある光に気付き、王太子も表情を変える。
「殿下、俺が孤児上がりだってご存じですよね」
「ああ。だがそなたは、逆境をものともせずに今の地位を得た。たぐいまれなる男だと……」
「そんなんじゃありませんよ。ただ、自分にできる最良を考えて、そして当てを外した。それだけです」
「当て? 何を外したのだ」
「当時の俺は13歳でしたが、弟はまだ8歳でした。たった1人の家族だし、俺は兄だから弟の為に何かしてやらきゃってね。考えに考えた俺が当てにしたのが、戦死した兵士に出る『遺族年金』だったんですよ」
あっさりと『男』は、王国でも最強ではないかと目される『男』は、かつての考えを口にした。
思いもしない内容だったのだろう。
王太子だけでなく、その周囲を固めていた『男』の部下たちまでもが息を呑んだ。
「あの頃は本当に酷かった。国中の誰もがこのまま戦争に負けるんだと思ってましたよ。今すぐじゃないにしても、いつかは……ってね。孤児も山ほど、孤児院からあふれる程で。そんな状況だったから、まともな働き口は見つからないし。だからひとつ、戦場に行って弟に金を残そうと思ったんで。
……まあ、結果的には生きて帰ってきちまいましたがね」
生きて帰った、だけではない。
この『男』は死ぬつもりだったその戦場で、将を3人も討ち取ったのだ。
落とした首の1つは、敵国の総大将のものだった。
敵将の死をきっかけに味方も盛り返し、戦争は王国にとって良い形で終わった。
『男』が半ば伝説と化し、多くの軍人と国民からの憧憬を受けた始まりの逸話である。
だというのに、王国が救われるきっかけとなった、この『男』は。
自分はそこで死ぬはずだったのだと笑う。
「俺は国を変えるとか、政治をよくするとか、民の生活を整えるとか、そういった一切合切ができません。向いてないし、その権限もないんで。だけど殿下は違いますよね。これからそういった方面でバンバン活躍するはずです。ほら、適材適所だ。俺にはできないことを、殿下がしてくださいよ。戦うことしか能がない俺の代わりに、孤児が死ぬつもりで戦場になんて行かずに済む世の中ってヤツを見せてください」
『男』の言葉は、王太子にとって重いものだった。
そして、これが。
王族へと『男』が残した最期の願いになった。
「約束する。私は良き王となり、王国を今より更に良きものとし、民の生活を幸福に近づける努力をしよう。そしてそなたは、そんな未来の良き王を守り導いた英雄だ。さあ、私を無事に味方の元まで送り届けよ。私はその恩を忘れず、職務に邁進する誓いとして王都に『英雄』の像を3つ建ててやる」
初陣でそなたが落とした首の数にちなみ、3つだ。
王都の真ん中にある噴水広場と、王城の前庭と、王の私的空間からよく見えるどこかに建ててやる。
凛とした顔でそう宣言する未来の王に、『男』はそこで初めて情けない顔を見せた。
今、撤退の最中にある。
この苦しい道行が始まってからも、1度も見せなかったような情けない顔を。
「それは勘弁してほしい……」
心の底からといった深い声音に、王太子は引かぬ構えで首を横に振ったのだった。
この夜、だった。
彼らがそんな会話をして、1時間もしない内に。
王太子を狙った暗殺者集団が彼らを襲った。
自身の剣がかすかに光り、鳴動する。
今までに何度も『男』に窮地を知らせてきた、異変の合図。
そのことで襲撃に気付いた『男』は、誰よりも早く暗殺者達を迎え打ち、そして……王太子を逃がす為、その身を投げうつように戦いへと。
王太子は無事に味方の元へとたどり着く。
しかし『男』は、その時にはもうどこにもいなかった。
最後まで、最期まで。
王太子を守り抜き、しかと使命を果たした末に死んだのだと。
『男』の死を悼んだ王と王太子は、王都に『男』の像を立てる。
最期まで王国のために戦った、『英雄』の像として――。
・ ・ ・ ・ ・
ヒトもバケモノも、数えきれないほど殺してきた。
数えるのも馬鹿らしくなるほど、殺してきた。
戦争だったんだ。言い訳はしない。
俺が殺すことで、俺が守りたいものの安全が少し増す。
殺す理由なんて、それだけで十分だった。
短かったのか、長かったのか。
体感時間すら狂う戦場で俺が知ったのは、俺の本質と才能。
そのどちらもが、同一の言葉があてはめられる。
それは『殺すこと』。
俺の本質は誰かを殺すことで、俺の才能は『殺すこと』に終始している。
歪んだ悟りを得たのは、十三で迎えた初陣の時。
それが戦に狂わされて人格が歪んだ結果、そう思い込んだだけなのか。
それとも初陣の若造、それも一兵士の身で敵将を三人も討ち取るという成果を上げた実績に裏打ちされた事実なのか。
正直、どちらでも良かった。
戦場に出る前と出た後で、自分がどう変わったのかさえも。もう。
戦に出たのは、それが手っ取り早く稼げる方法だったからだ。
まだ十三のひょろいガキ、それも身寄りのない身でまっとうに稼ぐのは難しい。
後見人らしい後見人といえば、それは孤児院の院長先生にあたるが社会的な信用の足しにはならなかった。
何年も続く戦争のせいで、孤児院は常にガキでいっぱいだ。
孤児院に入れないガキだって、路地裏を見れば何人だって見つかった。
食い扶持を稼ぐためには、孤児自身が何らかの手段で金を稼ぐしかない。
だから俺は、十三歳になったのを契機に兵士の募集に参加した。
孤児院にはまだ弟が世話になっている。今まで世話になった恩だってある。
十代前半のガキだって疑問にせず採用するぐらい、国の倫理観は死んでいた。戦争に殺された。
だが戦争が続いているにしては、まだ福利厚生っつうの? そこらへんが生きていた。
戦場で死ねば、遺族に年金が出る。
兵士の等級によって金額は変わるが、一定期間まとまった金が手に入るのは確かだ。
むしろ戦場で死んだ方が、継続的な収入として助かるかもしれない。
兵士としての登録時、何枚もの書類にサインした。
年金の受取先に俺が指定したのは、弟と孤児院の二つ。
これでこの国が滅びでもしない限り、家族の心配をせずに済む。
両親がいなくなってから、俺の頭を占め続けてきた心配事が解消した瞬間だった。
金はやる。だから後は自分で何とか上を目指してくれ、弟よ。
兵士になった、戦場に行く。
俺がそう言うやギャン泣きで殴りかかってきた弟をベッドに沈め、俺は鞄一つを手に戦場へ向かった。
もう孤児院には二度と帰れないだろう。
弟の顔を見るのも、きっとこれが最後だ。
生きて帰ることが絶望的だとわかっていたし、元よりそのつもりだった。
感傷に胸を締め付けられながら、それでも俺は後悔していなかった。
結果から言うと、俺は死ななかった。
むしろ勝った。
手柄を立てて名誉の凱旋。その結果に誰より驚いていたのはきっと俺だ。
混乱と混沌の戦場で、俺はただひたすら目の前の敵をがむしゃらに殺していただけだった。
本来は俺みたいなガキ、戦力の足しにしても頼りない。
だから戦場での主な役目は雑用じみた裏方仕事だの、補給の手伝いだの、備品の手入れだの、そういったことが多かったんだが……後方から回り込んできた敵将率いる別動隊が、俺のいた後方部隊を襲った。
補給を潰し、勢いに乗って本陣を食い潰すつもりだったらしい。
襲われた、逃げろ。
戦場で出会った同じ年くらいの奴が、そう叫んでいるのが聞こえた。
逃げろという怒号に、誰か偉いオッサンの予備の武具らしい甲冑と刀剣類を磨いていた俺は、咄嗟に剣をひっ掴んで天幕を飛び出していた。
目についた敵兵との正面からの会敵を避け、物陰からせこい攻撃をして生き延びた。
一人だけやたらギラギラした甲冑のオッサンがいたのは覚えている。
そしてそれを、俺が殺したことも。
確か最初に馬を潰したんだよな、飛び道具で。
暇な時間に鳥でも捕まえて食おうと、二つの石を紐で繋げただけの狩猟道具が馬の足を封じた。
投げ出されるように落馬したオッサンに石を投げつけたとこまでは覚えているんだが……あとはちょっと記憶が曖昧だ。気づいたらオッサンの首を手に戦場と化した現場をうろうろしていた。
全身頭からかぶった血で真っ赤なガキが、生首と抜き身の剣を手に戦場をうろうろ。
我ながら不気味な光景だと思う。
その後駆け付けた増援(味方)に俺は保護され、翌日から何故か前線に出ることになっていた。
これはもう今日中に死ぬなと思っていたが、死んだのは俺じゃなく敵兵で。
日暮れ時、俺は二つの立派な生首を手に戦場をうろうろしていた。
その日、戦争は終わった。
俺がいつの間にか討ち取っていた生首の片方は、敵方の総大将だったらしいので。
気づいたら俺には、『首狩り鬼』というあだ名がついていた。
いくら何でも血腥いだろ……。
遺族年金目当てで兵士になった。
だが数か月後、改めて軍属として士官学校に国費で入学させられる俺がいた。
そこから先は、まあなんというか流されるままだったな。
士官学校を早く出ろと、俺を士官学校に叩き込んだご本人にせっつかれ。
言われた通りに早く出たら出たで、俺を士官学校に叩き込んだ本人……いつの間にか俺の直属の上司ということになってた第三王子にいきなり部隊をひとつ任されて。
年々、何故か任された部下の数が増えていく。
戦争の頻度はそれに比例して減っていき、争いのない期間が長くなっていった。
俺はいつの間にか『黒騎士』と呼ばれるようになっていた。
『騎士』なんて名誉職、廃れて久しかったのにな。
対して士官学校からの付き合いで、いつの間にか『俺の副官』なんて立場に収まってやがった親友は『白騎士』と呼ばれるようになっていた。マジで何から何まで俺とは正反対な奴だったよ、お前は。
そんな血と暴力と争いに満ちた人生。
俺の手は血に塗れたなんて表現じゃ生温いくらいだ。
もうとっくに人並みの幸せは諦めていて、せめて戦場で死ぬ奴が減るようにと後進をシゴk……鍛えることに生きがいを見出すくらいだった。
いつか俺も戦場で誰かに殺されるんだろう。
そう思っていたが、最初に守りたいと思った家族……弟はまっとうに人並みの幸せを得て、嫁さん貰って子供もできて、楽しそうに「兄さんも結婚すれば良いのに」なんて言う。
いい年して頬を膨らませる弟の鼻を摘まんで「俺はいいんだよ」なんて笑って言える程度には、割と満ち足りていたと思う。
俺が戦場に初めて出てから、二十年が経ち、俺は三十三歳になって。
俺の上司は『王子』から『王弟』になり、軍属の頂点になり。
今度は王太子が、十五歳で初陣を迎えた。
今までの実績とやらが考慮された結果、初陣を迎える王太子には俺がつけられた。
お膳立てされた勝利を、お膳立てされたままに受け取るだけの儀式みたいな戦場だった。
王太子に箔をつけるための、形式じみた儀式だ。
それを理解していなかった馬鹿などっかの男爵が、手柄欲しさに自分の率いてきた兵に無茶させた挙句……王太子は十五歳で、初陣で、撤退戦を経験する羽目になった。
まあ、王太子には可哀想だがこれも経験だと思って何とか消化してもらうしかない。
無事に帰れさえすりゃ、実になる経験には違いないんだ。無事に帰れさえすりゃ。
しかしそんな最中で、王太子に襲いかかる刺客!
誰だよこんな時に暗殺者雇ったやつ!?
ただでさえ忙しいってのに!
たぶん雇い主は第二王子の婚約者の野心溢れる父親あたりだろうと思ったが、そこを洗い出すのは俺の仕事じゃなかった。何しろ俺は、瀕死だったので。
王太子を庇って死ぬ、とか死に方としちゃ悪くないが予想とは少し違ったな……
傷は致命傷だった。
今まで散々ヒトを殺してきた経験で、すぐにわかった。手当は無駄だってな。
これが最期の仕事と割り切って、暗殺者を道ずれにしたところで意識は途切れた。
最期に耳に残ったのは、俺の名を呼ぶ悲痛な誰かの泣き声だった……。
後は任せた、親友。
俺の信頼する副官様なら、きっちり王太子を安全なところまで送り届けてくれるだろうよ。
だから俺も、安心して死ねるってもので………………
……俺、死んだんだよな?
自問自答するが、自信はない。
いや自問自答できてる時点で、明らかにおかしい。
俺は、生きているのか……?
身体の感覚はないのに、意識だけがやたらと研ぎ澄まされていた。
「いや、ちゃんと死にましたよ。アナタ」
『……誰だ?』
聞いたことのない声だった。
だけど確かに聞こえたそれが、俺に死を告げる。
その事実よりも声の主が不審すぎて警戒心が全神経を声の主に集中させた。
「応答できるだけの意識が残ってるだけでも驚嘆に値するんですが……私は天使ですよ。天使。名を名乗るのであれば西風館 顕造と申します。お見知りおきを?」
『天使……? 宗教は間に合って……いや、自らそう名乗る相手には精神病院か?』
「アナタ本当に意識がしっかりしてますね!?」
そこが謎だ。
天使(自称)は俺のことを死んだという。
だったら、俺のこの意識はなんなのか。
今まで数えるのも馬鹿らしいほど殺してきた俺だ。
死んだら地獄に行くだろうと思っていた。
だが地獄に落ちたというにも、そんな感じはしない。
何の苦痛も、恐怖も、圧も感じない。
これで地獄に落ちたとは考えられなかった。
それとも地獄とは、何にも感じない空間に放り出されることをいうのか。
……それはそれで、精神的苦痛が凄まじそうだ。
「いや、いやいや違いますよ!? アナタは地獄に落ちた訳ではありません。そもそも人間さん達が考えるようなわかりやすい天国も地獄もあの世にはないんですが」
『じゃあ何があるんだ』
「それはアナタが実際にあの世に行った時のお楽しみです。一言では言い表しがたいですし、ぜひともご自身の目で確かめていただかないと」
『……俺は死んだといわなかったか?』
「死にましたよ。死にましたが……とても残念なお知らせがあります」
声だけしか聞こえないが、天使とやらはやたらと沈んだ声で本当に残念そうに告げた。
俺に、思いもしなかったことを。
「実はアナタ、死にはしたのですが……生前に寄せられた怨念が凄まじすぎて、あの世から入場拒否されてしまいまして」
『あ?』
何度も言うが、俺は生前に殺しまくった男だ。
だから怨念ぐらい、驚くことじゃないんだが……
「アナタが無自覚にも、その鈍感さで、無慈悲に粉砕しまくった乙女の純情な恋心……」
『……はい?』
「無惨にもアナタに恋心を握り潰された、アナタに思いを寄せていた二百六十六人の乙女から寄せられた思慕の念がアナタの魂に頑固に染みついておりまして」
『は……はああ!?』
天使の言葉は、驚きしかなかった。
は? え、はあ!?
え? え? なんつった、こいつ。
俺に思いを寄せて……え?
に、にひゃくろくじゅう……? ええ?
心当たりが、まったく、なかった。
誰だ。誰が俺に恋してたっていうんだ。
こういっちゃなんだが、俺はモテなかったはずだぞ!?
っていうか二百人も女の知り合いはいない! はずだ!!
「まあ、ほとんどはアナタと口をきいたこともあるかないかというような顔見知り未満の相手でしたが。何しろ世間で『黒騎士』と恐れられるようなアナタに、それでも恋しちゃうような女性たちだったので……一般的な憧れで済まない、コアな崇拝じみた思いも割と何十人と……恐れ多すぎて遠くから眺めるだけって方も多かったみたいで」
『おい、それ俺に責任あるのか? 知り合い未満の相手から一方的に密かに思われてたって、気づきようないだろ』
「アナタに思いを寄せる方は、個性的で情の深い方ばかりだったようで」
『それより俺としては、戦場で受けた恨みつらみの方が怨念としちゃ有り得る話だと思うんだが……』
「それこそ、戦場でしょう? 混乱の中、何が起きたのか認識も不確かに亡くなる方ばっかりですからね。戦争を恨みこそすれ、誰か特定の人物を恨みながら亡くなる方は逆に少ないんですよ」
『そういうものか……?』
「それで、ですね。あの世っていうのはつまりなんというか……『神様の宝石箱』みたいなものなんですよ。地上で精いっぱいに生きて磨かれた、魂という宝石を収める極上の宝箱です。そこに強固に呪われた宝石がしれっと混ざりこもうとする……のは、管理者側からすると遠慮したいわけで」
『遠慮されて、俺にどうしろと』
「ええ。ですので、まずはその怨念……呪いを浄化してからでないとあの世に迎え入れることはできないということです」
『そうか、呪いなのか……』
「とはいいましても、アナタの肉体はもう滅んでいますので。呪いが完全に浄化されるまでは延々、延々、延々延々延々と繰り返し繰り返し肉体が滅びる度に新たな肉体に体を交換して地上に放流ということになります。それこそ魂だの精神だのがどれだけ摩耗し、擦り切れ、ぼろぼろになろうが死ぬ度に正者の世界に突き返されることに」
『それ、下手な地獄よりきつくね?』
戦場で長いこと過ごしてきた俺だ。
生きてる有難みは良く知っているが、同時に生きているからって良いことばかりじゃないことも知っている。それを休まる時も与えられず延々繰り返せと……やっぱり地獄だろ。
「アナタの魂に染みついた呪いを浄化する方法は、ひとつ。アナタに恨みの怨念くれた女性と同数の乙女を救うこと。あ、肉体じゃなくって魂の方ですよ。いわば代替行為ですね。恨み主の代わりに別の女性への救済を当てて帳消しにするっていう」
『魂を救うって、また偉く抽象的だな。それがやれる自信もないんだが……』
「あ、それから恨みが恋愛ごとに限定されたものですので救済も恋愛縛りになります。つまり、二百六十六人の乙女を恋愛成就させることが叶った時、アナタの呪いも昇華するってもので」
『それがやれる自信は微塵もないんだが……!?』
は? なんつった?
恋愛成就!?
二百六十六人分の女の、縁結びを俺にやれって!?
血染めの手を持つ、呪われた俺(いろんな意味で)に!?
五百年かかっても無理だ。
俺がそう思うのと同時に、意識が遠くなる。
「それじゃ最低限の説明は終わりましたので……健闘を祈ります?」
なんで疑問形なんだよ、天使てめぇこのやろう。
理不尽な恨みをどうにかするまで死なせねえっていう無慈悲な宣告を受け、天使にイラっとして。
そうして次に意識が浮上した時。
俺は、自分が違う肉体で目覚めたことを……
……平たく言えば、生まれ変わったことを知った。
「いやぁん、ロッザちゃん可愛いぃ。ほっぺぷくぷく! ほっぺぷっくぷく!」
「ああ、こらばか。人の娘のほっぺをぷすぷすしないでください、義姉さん!」
「ちょっと姉さん、貴方、少し静かにしてちょうだい。ロッザちゃんが起きちゃうでしょう」
「ふ……っ」
「「「!」」」
「ふ、ふゃあああ……ん」
「ああ、ロッザちゃん泣かないでー!」
「よしよし、起きちゃったねぇ。良い子ね、ロッザ」
……まだ年若い男女が、俺を取り囲んであやしてくる。
状況を悟るのに、未だかつてないほどの時間を有したあと。
俺はようやっと現実を受け止め、新たな自分の生を始めなくちゃならなかった。
ロッザ・ガーランドという、ひとりの女の子としての人生を。
………………新たな体を得て、とは聞いたがな?
性別変わる可能性があるなんざ聞いてなかったぞ、天使てめぇ。
戦場暮らしの三十代オーバーのむさ苦しい独り身男から、いきなりの転身だ。
一般的なご家庭の普通の女の子に生まれ変わったというのは、精神的に中々クルものがあった……。
2.幼少期
ロッザ・ガーランドとして、何をすればいい。
どうやって生きればいいんだろうか。
どんな生き方をすれば、266人の怨念を鎮めることができる?
知らない内に266人のヤンデレ乙女に好かれていたらしい、前世。
それを顧みながら、今生での生き方についてずっと頭を悩ませている。
……そうしている内に、俺、いや私は5歳になっていた。
ちなみに『ヤンデレ』という単語の意味はよく知らん。
そもそも前世で誰に好かれていたのかも知らないんだ。顔も、名前も。
当然ながら相手の性格を知る由もない。
ヤンデレというのは近所のおばちゃんたちの井戸端会議で出てきた単語だが、相手を好きすぎて思い余って暴走し、病的な行動をしてしまう者のことをいうらしい。
多分、振り向いてくれないからって好きな男を呪う女はヤンデレだ。
そんな風に前世には持っていなかった知識も集積しつつ、広い世界と長い人生に思いを馳せた。
そもそもこの辺じゃ結婚って親や村の世話役が仕切るらしい。
恋愛結婚は少数派で、どうしても好きあった相手と結婚したい人は両親が相手を見つけてくる前に動かなければならないらしい。そのタイムリミットは平均して15歳前後だとか。早ぇよ、田舎の結婚。
おばちゃんたちの井戸端会議で旦那との馴初めを聞いた結果、教えてもらったことなんで間違いない。
「ロッザちゃんも好きな男の子と結婚したいんなら、相当早くから頑張らないとねえ」
「そうそう。好きな男がいても、相手をその気にさせるのが難しいのよねぇ。お付き合いまではいけても、なかなか相手が結婚に踏み切ってくれなくって……煮え切らない態度にイライラしている内に、結局は両親が結婚相手決めてきちゃうのよねー」
妙に実感の籠ったお話を隣家の奥さんがしてくれたが、たぶん深くツッコんじゃいけないヤツだ。
まだ誰も恋愛結婚が夢ともなんとも言っていないのに、おばちゃん達に口々に激励される。
だが今生で、これだけはと決めている方針があった。
「わたしは、わたしより他の子のしあわせになったほうが良いー」
誰かに自分の恋路について尋ねられたら、こう言おう。
自分の幸せより、他人の幸せを見る方が好きなの、って。
そういって他人の恋路を応援しまくる。うん、完璧。
……まだ、どうやって他人の恋路を後押しするのか決まってないけど。
しかしこの村では結婚は他人の指図でするものって認識が定着している。
人の少ない田舎だからかもしれない。
自由恋愛、自由結婚の可能性が一番溢れているのは、都会の平民層か?
貴族はむしろもっとガチガチに親と家の意思が結婚に反映されるしな。
決めた。
将来は、結婚させられる前に上京しよう。
そもそも田舎にゃ、266人も縁結びできるほどヒト、いないし。
私を除いて、同じ村には子供が6人。
内、4人が男で2人が女。
それが私の置かれた村の現状だった。
どう頑張っても、266組のカップルを作れる気がしない。
だけど上京するって漠然と決めても、肝心の何をするかが決まっていない。
ただ都会行きたいーってだけじゃ親も許してくれないだろうし。
学ぶのか? 働くのか?
さぁて将来、どうしたものか。
とりあえず何をするにしても、体が資本!
どんな道に進むにせよ、まずは体を鍛えるとするか。←前世軍人の思考
……と、思ってだな?
若いうち(5歳)に身体づくりを進めるかと思ったんだが……。
まずは基本の走り込みからだよな! そう思って、村の外周を走り始めたのは良いんだ。
それは良いんだが……
……この体、足おっそ!
5歳っていう年齢を贔屓目に見ても、足が遅い!
前世とは違う体なんだから比べるものじゃないってわかってはいる。
それに前世で体一つを強みにやらかしたアレやコレやを思うと、多分前世の俺の体は特別だったんだろう。特別、身体能力が高かったんだと思う。だから前世と比べちゃいけない。
だけどそれを抜きにしても、足が遅すぎる……!
根っからの本の虫で真正のもやしだった前世時代の王太子殿下(幼少期)より、多分遅いぞ!?
王太子殿下の運動指導してたの、前世の上司だから間違いない! だって手伝いさせられたし!
走ってるの自分で、客観的に見てる訳じゃない。
だから実際に比較が正しいとは限らないが……孤児院時代にもこんな足の遅い子いなかった気がする!
生育環境的には田舎のここで生まれ育った私の方が鍛えられててもおかしくないのに!
「ロッザー、おまえ何してんの?」
「は、走る、れんしゅ……っ」
自分の足の遅さに絶望しながら走っていると、村の数少ない子供たちに声をかけられた。
足を止めずに返事をすると、深く納得したような、同情的な声が返ってくる。
「ああ、お前トロくさいもんな。村でいちばん」
「な、なん、だと……」
……どうやら私の身体能力は、気のせいじゃなく本当に低かったらしい。
私は村で一番トロい子供という不名誉な栄冠を与えられてしまった。
ちょっと自分の肉体面での先行きに不安が圧し掛かる。
走りすぎて気持ち悪くなってきたし、成長期の体に無理をさせるのもよくない。
午後は意識を切り替えて、家にある本を読むことにした。
……ど田舎にある割に、うちって蔵書が充実してるんだよな。ど田舎にある割に。
だけど内容がちょっと偏っている。
どうやらご先祖の集めた本らしいんだが、ご先祖は魔法使いか何かだったのか?
魔力がどうのって本が多すぎて、どれを読めば良いものか悩む。
魔法関係より、一般常識の勉強がしたいんだけど。
「ねぇね、ねぇね」
「ん? どうしたのカイロス」
「ごほん、よんで」
思案しながら毛糸玉で遊んでいると、いつの間にか俺の膝にぽすっと圧し掛かる重み。
今生における我が弟、カイロス(3)が重そうに本を抱えて見上げてくる。
「いいよ」
まだ文字が読めない弟。3歳なら当然だ。
私は前世の杵柄で文字が読める。だけど5歳という年齢を加味して加減しないといけない。
今は絵本程度しか読めないふりをしている。
しかし弟が差し出した本は、子供向けだけど絵本というには難易度の高い……児童文学で。
タイトルには金色の文字で『高潔なる黒騎士、清廉なる白騎士』と書かれていた。
黒騎士に白騎士かー……前世の異名思い出すなぁ。
「……」
「ねえね?」
「カイロス、これちょっとお姉ちゃんにもむずかしいな。母さんに読んでもらお」
「うん!」
読めはする。
読めはするけど5歳児がすらすら読んだらおかしいので、私はカイロスの手を引いて母のところへ向かう。
忙しくしていたら諦めるつもりだったが、丁度いまは手が空いているようだ。
「母さん、ご本よんで」
「あら、騎士様のご本? あなた達にはちょっと早い気もするけど……」
「まぁま、よんでー!」
「ふふ、そうね。良いわ、2人ともこっちにいらっしゃい」
母に招かれ、弟と2人両脇に陣取る。
聞く姿勢が整ったところを見て、母はゆっくりとページを開いた。
「昔々、本当にあったお話。これは王国に勝利と栄光をもたらした騎士様のお話です……」
どこの国かは知らんが、この国は文字の普及率が高い。
こんな田舎の庶民でさえ、本を所有して文字を読むことができる。
前世の国より国力、高いんじゃないか?
王太子がそういやよく言ってたなぁ。
教育と福祉にはまだ改良の余地がある。
識字率をもっと高めて有能な人材がもっと芽吹きやすくしたいって。
最期に『俺』の命をくれてやる形になったんだ。
ぜひとも王太子には生き延びて夢を叶えてもらいたい。
「黒騎士は、戦場では負け知らずの強い騎士様でした。彼はお父さんもお母さんもいませんでしたが、自分を育ててくれた国と弟を守ろうと剣を取り……」
「……ん?」
「偉い人は考えました。この強い若者は、鍛えれば立派な騎士様になるだろうと。まずは学校に入ってもらい、勉強すれば英雄にだってなれるだろうと。そしてその考えは大当たりだったのです」
「ん、んん?」
「学校で生涯の友、未来の白騎士と出会い……」
「んー……?」
おかしい。何故だ。
母さんの手元にある本文と、語られる声は同じ内容で間違いなく本にはそう書いてある。
だけど、どうしてだろう。
さっきから話を聞いていると妙な既視感が……っていうか段々むず痒くなってきたんだけど。
「黒騎士は未来の王様を守り切り、王国の未来を守ったのです。そう、今私達が平和に暮らせているのも、黒騎士が強く、立派で、正しい心根を持っていたから。高潔な騎士様の死に、国中が嘆き悲しみました。彼の葬儀では300人の乙女が涙で池を作り、次々と棺桶に花を捧げて溢れかえるようでした。こうして誰からも尊敬された騎士様は天に召されたのです。残された白騎士は黒騎士の魂に誓いました。これからは自分が王と、民と、王国を守り導いていくのだと」
「……………」
ちょっと待て。
おかしい。
何かがおかしい!
何そのお話!? 誰のこと書いてんの!?
誰の事書いてんのか心当たりがない筈なのに、行動の結果には妙に既視感あるんだけども!
「か、母さん」
「どうしたの、ロッザちゃん」
「そのお話って、本当にあったこと?」
「ええ、そうよ。今から200年とか300年とか昔に、本当にいた騎士様なのよ」
母は、いい笑顔だった。
輝く眩しい笑顔に、目がくらみそう。
「このデール・フォダム王国が今も平和なのも、騎士様たちが頑張ったからなのよ。私達がこうして文字を読めるのだって、黒騎士様が守った王子様が、王様になってから王国中にたくさんの学校を作ってくれたからなの」
「……おおう」
「王国で最も名誉ある騎士様が『黒騎士』『白騎士』って呼ばれるようになったのも、ご本の騎士様たちからのことらしいわ」
「……」
デール・フォダム王国。
それは前世の『俺』が所属した国と、全く同じ名前だった。
とある祭りの夜、魔奏詩人というやつを初めて見た。
前世の時にも数が少なすぎて見たことがない。
演奏を奏で、音楽を捧げることで精霊や妖精から力を借りる。
そういう特殊な部類の、召喚士の一種。
それが『俺』の認識だった。
その魔奏詩人が、どうしたことかうちの村にやって来た。
数が少なかったこともそうだけど、前世で全く見なかった理由。
魔奏詩人ってやつらは、旅芸人――吟遊詩人の類だと自認しているらしい。
ほとんど見かけないのは、辺境ばかりを回っているからだ。
それはどうやら今の時代も変わらないらしい。
希少な特殊職業だし、出るとこに出れば重宝されそうなのにな。
3.『少年』の誓い
アレクス・セリエルト。
彼が何よりも誇りに思えるはずだった家名は、彼が1歳になる前に地に落ちた。
遠く遡れば、『初代黒騎士』に連なるという血統も。
誰よりも強靭な祖父の剣技も。
かつては人から尊敬を集めていたものは、全て泥に塗れた。
どうしてそんなことができるのか。
自分さえよければ、他の人がどんな苦しい思いをしても平気でいられるのか。
幼いアレクスには信じられなかった。
人々から祖父が嘲笑を受け、かつての屋敷を離れて町外れの古ぼけた小屋に住み、そして誹謗中傷に耐えながら肩身の狭い暮らしを続ける。
そんな悲しい全てが、誰より強い祖父には相応しくないはずなのに。
人々は嗤う。
自分達より遥かに強いことを知っていてなお、祖父のことを。
『魔法』と呼ばれる技術の前に、背を向けて逃走を図った弱虫だと。
情けない腰抜けで、成す術もなく『魔法』に敗れた弱者なのだと。
かつては国の名誉だと誇らしげに讃えたのと同じ口で、祖父のことを罵り、目を背けた。
だから、そんな祖父の名誉を自分が取り戻すのだ。
アレクスはいっそう奮起して、祖父に願ったのだ。
自分に祖父の剣技の、すべてを教えてほしいのだと。
幼いアレクスがそう願って縋る度に、祖父は寂しそうな、嬉しそうな、だけどどこか苦しそうな顔をした。
結局はアレクスの勢いに押される形で、剣を教えてくれたのだけれど。
剣だけでは、もうやっていけない。
ただの剣士は流行らない。
そんな人々の心ない言葉も気にはならなかった。
ただ稽古の合間に、祖父が遠慮がちに口にする。
「なあ、やはり儂の剣など――アレクスや、お前も魔法を習った方が……」
「じいちゃん、頼む。じいちゃんの口から、そんなことは聞きたくない」
かつて剣士の国と呼ばれたのも、もう過去のこと。
この国は、剣にはもう目も向けてはくれない。
その目は既に、魔法にばかり向いていた。
人々が魔法を学ぶための制度が整えられ、素地のある者を取り立てる風潮が生まれて。
やがては正式に国で抱え込むための、魔法使いを育てる大きな学園が建てられた。
純粋に剣のみを極めようとする者は減り、流行らないからと剣術道場がいくつも閉鎖した。
でも、だからこそ。
そんな風潮だからこそ、アレクスは剣にこだわり、そこに意味を見出したかった。
だって剣は、祖父の魂だった。
既に祖父の心は折れていたけれど、アレクスはそれを知っていた。
だからもう一度、祖父に気力を取り戻してほしくって。
そういった念も加わり、アレクスはどんどん剣に傾倒していった。
祖父が元気なうちに、国でいちばん強くなる。
剣士も魔法使いも関係なく、それらひっくるめた中でいちばん強くなる。
剣の腕一本で強くなって……じいちゃんの剣がどんなに素晴らしいか、みんなに知らしめてやる。
そうしたらきっと、じいちゃんも自分のことを卑下しなくて良いだろ……?
祖父は、アレクスにとってたった1人の家族だった。
他の家族は知らない。
いるのかどうかも知らなかった。
ただ物心ついた時には、祖父と2人で町外れの小屋に住んでいたから。
だけどアレクスには、他にも『家族』がいたのだと。
それを知ったのは、祖父が倒れ……逡巡の末に伝えられた、最期の言葉によって。
教えられた存在を、『家族』だなんて死んでも呼びたくはなかったが。
かつて、祖父には1人娘がいた。
カリーナ・セリエルト……アレクスの母だ。
まだ祖父が騎士団の長として、国の中心で華々しく活躍していた頃。
王に国一番と称えられ、重用されていた頃だ。
カリーナは他国から流れてきた魔法使いと恋に落ちた。
その頃、王国はあまり魔法に目を向けてはいなかった。
魔法使いが存在しない訳ではなかったが、剣の腕に重きを置いていたこともあり、あまり魔法使いに目を向けてはいなかったのだ。
そんな状況を変えたいと、魔法使いはカリーナに言い募ったという。
きっと魔法使いは、最初から知っていた。
カリーナの父が誰であるのか。
国で最も剣の腕を認められた、当時の『黒騎士』であったことを。
祖父は、何があったのか詳しくは語ってくれなかった。
だけど、断片的な話からでも察せられることはある。
当時の話は、町の人から『人々の知る事実』を何度も聞かされていた。
だからわかってしまった。
祖父は嵌められたのだと。
祖父は言った。
剣なんかろくに使えないくせに、現在『黒騎士』の呼び名を拝領している魔法使いのことを。
その男こそ、アレクスの父なのだと。
アレクスは知っていた。
その男が、祖父の凋落の原因でもあることを。
公式の場で、酷い試合をしたのだと聞いている。
誇張して語られる祖父の情けない姿。
圧倒的な強さを見せつけた魔法使いの、卓越した技能。
成す術もなく実力差を見せつけられ、祖父は逃亡を図りすらしたのだと。
そんな話、アレクスは信じたことなかった。
彼の知る祖父は、そんな情けない男ではない。
もしそれが事実なら、そこには必ず何か隠された理由がある。
それはアレクスの思い込みではないはずだ。
そしてアレクスは、もうひとつ知っていた。
自分の母親のことを。
祖父を打ち負かした魔法使いが『父』なのだという。
その『父』と関係を持っていただろう『母』。
しかし2人が恋愛関係にあったなんて話は、今まで祖父以外の誰からも聞いたことがなかった。
あの魔法使いが『父』なのだと、祖父以外の誰も知らなかった。
アレクスの『母』は、アレクスを出産してすぐに亡くなっている。
産後の肥立ちが悪かったのだと、聞かされてはいた。
でも人の口に戸は立てられない。
アレクスの『母』は、赤子のアレクスを置いて身投げしたのだ。
そのことが、すべてを物語っているような気がした。
実際に、何が起きたのか。
祖父は詳しく語ることなく息を引き取った。
今までの状況と苦い物言いから、推し量っただけだ。
真実を追い求めるつもりはない。
『父』に問い詰めたい気持ちはあった。
だが重要なのは、それよりも収まりが付かないアレクスの気持ちだ。
『父』……いや、あの魔法使いをぶちのめす。
完膚なきまでに倒して、本当に強いのは祖父の剣なのだと知らしめる。
アレクスの目標は、祖父の墓標を前に明確に定まっていた。
仇討ちなんかじゃない。
これは自分の為。私怨だ!
だからアレクスは、自分の今後について考えた末に決めた。
そうだ、魔法学校に行こうと。
敵を倒すには、その敵について深く知らなくてはならない。
だから魔法について、ひいては魔法使いについて学びに行こう。
魔法使いの倒s……魔法使いとの戦い方を研究する為に、それは決して遠回りじゃないはずだ。
剣一本で生きていく。
そう誓った少年は、真面目にそう考えて魔法学校を目指した。
4.そうだ!進学しよう!
知らない内に伝説と化していたらしい、前世の『俺』。
いや、自分のことだとは信じたくないけど。
というか本に書かれていることが美化され過ぎていて別人と化しているけど。
そんな現実からそっと目を逸らし、改めて自分の進路を考えた結果。
12歳になった私、ロッザ・ガーランドはいま。
王都にある、魔法学校への門をくぐろうとしていた。
ちなみに私に、魔力はない。
正確には少しはある。
けど本当にほんの少しで、魔法使いになれるほどの魔力はなかった。
そんな私が魔法学校に入学しようとしている。
さーあ茨の道だぞー?
王国でいちばんの魔法学校と名高い名門、ヴェルパルドーラ学院。
王国中から魔法使いを志す少年少女が集う学校だ。
入学資格は入学試験に受かること。
両親を説得して、私は試験を受けた。
入学試験は筆記と魔力測定も含んだ魔法実技。
有能な人材を欲している国の意向もあり、優秀な成績者は学費が免除される特待制度あり。
両親はきっと田舎育ちで基礎的な読み書き計算しか習ったことのない私が受かるとは思っていなかったんだと思う。
うん、だけど私には下地があるんだよな。
前世で、士官学校に叩き込まれた『俺』っていう下地が。
ここ2~300年の歴史と文学やら芸術的な教養は怪しいが、入学試験で文学やの芸術やのが出題範囲になることもなく、歴史さえカバーできれば後はどうとでも?
軍事方面に偏ってはいたが、かつては一応士官教育ってのを受けた身なんで。
筆記試験は、問題なくパスできた。
そうなると問題は実技試験なんだけれども――
学校案内って、ちゃんと読んでおくもんだな。
しっかり明記されていたさ。
魔力は乏しくっても研究職を目指して魔法学校の入学目指す秀才君たちへの救済措置ってヤツが!
なんと魔法実技の成績、独自の研究をまとめたレポートで代替できた。
私は当然ながら、前世の経験を活かしてレポートを書き上げてやったさ!
就いてて良かった管理職! 煩わしいだけだと思って超面倒がってた書類仕事!
報告書を書くのとか他人に押し付けたくて堪らなかったが、まさか来世で役に立つとは。
この抜け道に気付く奴がそもそも少ないし、魔法学校=魔法の実力で測るもの! って先入観からレポート提出を選ぶ入学希望者はかなり少なかったらしいけど。
実際にレポートの提出に行ったら、私の他には5人くらいしかいなかったし。
学校の入学希望者は4桁って聞いてたのに。
まあ提出窓口に来たのは、なんか癖がありそうなのばっかりだったけど。
魔法学校なのにやたら隙のない身のこなしだった少年とか……前世の癖でついつい目が行ったけど、アレはかなり鍛えこんでると見た。
あの体つき、動作、どっからどう見ても『魔法使い』じゃなくって『剣士』だった。
今の流行りらしい、魔法剣士とかいうのを目指してる口かな。
どう見ても研究職って様子じゃなかったし。
……けど、それなら実技試験はまっとうに受ける、よな?
他人の事情は知らないが、毛色の変わったヤツだった。
「ええと、1-B、1-B…………ここか」
入学式の後、クラス表を頼りに教室へとたどり着く。
この学校、1年間は生徒の能力関係なしにごちゃまぜで基礎科目をみっちりやるらしい。
だから私がBクラスなことにも深い意味はない。
教室には既に様々な生徒が入っていたけど……うん、様々だなぁ。
2年生から本人の資質と成績と希望に応じて専門課程に進むらしいが、それまではみんな同じ教室のひよっこだ。仲良くできると良いんだけど……特に、女子。
ああ、あと男子のリーダー格とも仲良くなっておきたいな。
いざ恋愛相談された時、円滑に出会いの場をセッティングできるようにトップは押さえておきたい。
真新しい制服のリボンが曲がってないことを確かめて、私は出席番号に応じた席を探した。
「あ、ここか……」
私の出席番号は後ろから数えた方が早い。
だから端の方だとは思っていたが、窓際の後ろから3番目か。
早速机に鞄を置いて座ろうと……
「……」
「…………」
……後ろの席のヤツと、目が合った。
あ、こいつレポートの提出窓口で見た……
……やばい、挨拶のタイミング、逃した。
何の意味もなく、私と相手は互いの顔を凝視し続けた。
え、なにこれ。
見つめ合ってるの、それともガン付けあってんの?
どっちとも言えない、奇妙な沈黙。
前世の『俺』を思わせる、黒い髪に黒い目。
よく日に焼けた健康的な肌に、粗野一歩手前の目つき。
どことなく『俺』に似てるな……いや、髪と目の色だけじゃなく。
何か顔の造詣が同系統……
「……なんだよ?」
「ハッ……いえ、初めまして! ロッザ・ガーランドです、よろしく!」
「ん? あ、ああ。よろしく。アレクス・セリエルトだ」
私と同じく固まっていたが、先に動いたのは少年……アレクスの方だった。
とりあえず自己紹介をしたが、無難に、円滑にコミュニケーション取れてるのか。これ。
「なあ。お前さ、入学試験でレポート提出に来てたヤツだろ」
「アレクスもそうだよね」
「いきなり呼び捨てかよ」
「あ、ごめん。私、田舎出身だから……田舎じゃ誰だって呼び捨てだよ。日常会話や呼びかけで家名とか使ってる場面見たことないよ」
「そういうもんか……? それじゃあ俺もロッザって呼んだ方が良いか?」
「そうだね。そっちの方が私としては違和感ないよ」
「ふぅん。わかった、よろしくなロッザ」
「よろしく、アレクス」
なんか見た目の雰囲気野犬っぽい感じだったけど、思ったより友好的だった。
良かった、近くの席に座ってる奴が見た目のまんま狂犬じゃなくって。
悪いヤツじゃなさそうだし、上手くやっていけそうだ。
胸をなでおろし、改めて席に座る。
そのタイミングで、教室に教師が現れた。
「これからは皆さん、1年を共に乗り越える仲間です。それでは自己紹介をしてもらいましょう」
教師が、短くない挨拶のあとで促してくる。
教室には30人の生徒がいる。
私の出席番号は28番……大分、暇だなぁ。
……いや、暇とか言うな。人の顔と名前を覚えるんだ!
「ロザニア・ベックラーヴですわ。風魔法を得意としています。2年生からは回復魔術科を目指すつもりですの」
おお、気の強そうな赤毛ちゃんだな。気位高そう。
どこからどう見ても貴族だな。あまり関わり合いになりたくないタイプの。
「ライオネル・アバト・リーオンヒルムだ。魔法剣士を目指している。よろしく頼む」
ほうほう魔法剣士ね。いま1番人気の花形職じゃん。
硬派気取ってるけど、割とミーハーなのかね。
「イグニス・グラニットです。将来的には……」
「サミーネ・オル・ベリト……」
「イジェクト・スージィ……」
「ポポル・アリオンタム……」
ふむふむほうほう、なるほど。
うん、名前しか覚えられないな。
いちいち今後の展望を語られても、覚えきれんし覚える意義が感じられない。
今は顔と名前が判別できるようになることだけに専念するか。
やがて紹介の順番は私にまで回ってきて、若干面倒に思いながらも立ち上がる。
「ロッザ・ガーランドです。田舎から出てきたばかりで皆さんを驚かせるような振る舞いをしてしまうかもしれませんが、あまり気にしないでください。今後1年間、同じ教室で頑張りましょうね! あ、得意魔法はありません」
できるだけ、好印象。
笑顔はただだ。振りまけるだけ振りまけ!
そんな打算でフレンドリーな挨拶を心掛けたんだが、何故か「得意魔法はない」という最後に付け加えた備考に皆さんが反応してくださった。
うん? なんで若干ざわっとするの。
戸惑いながらも席に着くと、私の背後に座っていた少年が立ち上がった。
「アレクス・セリエルトだ。剣士として、魔法使いの倒s……魔法使いとの戦い方を学ぶためにこの学校に来た。得意魔法はない。むしろ魔法は使えない」
教室内が、私の時以上にざわっとした。
うん、セリエルト君? 友好さの欠片もない挨拶だね?
これはクラス内が荒れるかもなぁ、と。
そんなことを案じていた私の気持ちは次……最後のクラスメイトによるあいさつで吹っ飛んだ。
「はじめましてー☆ 西風館 顕造でっす☆ みんなと仲良くなりたいな! 得意魔法は火と風でヒーローの背後がド派手に吹っ飛んじゃう系ー」
その声に、背筋がざわっとした。
なんでてめぇが此処にいる。
とりあえず、この学校に入って1番にやることは決まった。
てめぇ、無傷で無事に帰れるとは思うなよ?
入学初日には取り立てて授業らしいものはない。
自己紹介の後は、すぐに解散になった。
私はにこやかな作り笑いで後ろの後ろに座った……女子制服の肩をがっちりと掴んだ。
「ふ、ふふふふふ……なにやってんだ、にゃーらいだー?」
「あれ、私の名前そんな風に聞こえるんですか!? 西風館の顕造ですよ。ぜひぜひナラって呼んでください」
「そんなことはどうでも良い。それより、ここにこうしていることに関する事情、説明してもらおっか」
「あ、あああああっアナタのサポートの為ですよぅ! 266人の乙女に一方的に恨まれるなんて前代未聞の呪われ方したヒト、この世界じゃアナタくらいのものです! 今後の苦労は必至だろうから、少しお手伝いして来いって上司に言われて人間社会に潜り込みましたぁ!」
「お前……サポートって、お前が?」
うわ、いらね。
「心の声がなんか聞こえましたよー!?」
「っつうかお前、男じゃなかったのかよ。てっきり野郎だと思ってたが……スカート穿いてるよなぁ」
「あ、それはロッザさんが女性だからですね。お助けする立場としては同性の方が良かろうと思って」
「よかろうと思って、女装で潜りこみやがったか!」
「ち、違います! 私は天使ですよ!? 天使に性別はないんですー!」
半泣きでよくわからない主張を訴えてくる、女装天使。
せっかくの学校生活にこれもくっついてくるのか……。
なんだか、先行きに不安を感じた。
そもそもなんで魔法学校に入ろうと思ったのか?
それはまあ、あれだ。
大いに私の人生の目標……266人の縁結びに直結する。
学校って、恋愛話溢れてそうじゃん?
そう思ったことは否めない。
でも田舎の一平民が学校にわざわざ行くとなると、何か特殊技能を修めるんでもないと無理なんだ。
普通は一般常識と最低限の知識を教わるだけで終わるからね、田舎の学校。
大体、10歳くらいまでで終了するからね。
思春期の男女が密室に閉じ込められるような学園生活に混ざろうと思ったら、都会に進学するしかなかったんだ。
そこで私は、魔法学校に進学することになった。
いや他の学校への進学も考えたんだけどな? 難しかったんだ。
将来、学校を出たら冒険者ギルドの職員になろうって思ったから。
ん? 冒険者ギルドに入るのに、なんで魔法学校に入学するのかって?
今の内から有望な未来の魔法使いとの伝手とコネを作っておく為というのがひとつ。
魔法使いは数が少なくって貴重だ。
冒険者の中には自己流で魔法を使う奴も時々いるが、ちゃんとした学校で魔法を修めた正式な魔法使いは多くが国に抱え込まれることになる。
そんな魔法使いとの伝手を持ってるってだけで人材としては重宝されるだろう。
加えて魔法学校在籍中に、いくつか冒険者ギルドでも有用な資格を取るつもりでいる。
魔力がさほどなくっても取得可能な、魔道具技師系のやつとかね。
その資格取るなら素直に技術者になればって?
駄目だ。純粋な技術屋とかそれこそ出会いの場少なそうじゃん。
私が目指すのは男女の出会いの場を無理なく自然にセッティングできる立場なんだから。
縁結びの神様になろうって決めた時から、色々考えた。
どうやら無自覚鈍感系だった前世の知識と経験はあてにならない。
だけど前世の『俺』は周囲にたくさん人がいたし、中には既婚者も沢山いた。
部下が結婚する度に、祝いの飲み会で財布を出してたんだ。
その記憶を呼び覚ましてみた。
結婚祝いの、飲み会だ。
当然ながら酒の肴のメインテーマは結婚に至った経緯やら出会いやらだ。
前世の『俺』は軍人だったから、部下も当然軍人だ。
つまり、国家公務員(脳筋)。
人材のタイプは偏っていたが、結婚相手としては有望だったんじゃないか?
結婚できないと嘆く奴も時々いたが。
まあ、一般的に考えて有望な花婿候補だっただろう、部下共。
その結婚相手と出会いの統計を記憶している限りでやってみたんだ。
一番多かったのは、親や上司の紹介だったけどな。
そこは介入できない部分なんで、他の例を挙げてみると、多いのは仕事の一環で巡回中に知り合った女性や怪我で病院送りになった時に看護してくれた看護師さん、馴染みの店で働いていた女性との結婚。つまりは街での出会いだ。都会ならではの出会いの多さだな。個人で獲得した出会いだから、ここも介入の余地はない。
だけど次に多かったのが、冒険者ギルド経由での出会いだったんだ。
冒険者ギルドってのはまあ、要するに腕っぷし自慢の何でも屋な側面がある。
その関係で軍とも協調を取ることがあるし、特殊な作戦の時には助っ人として参加してもらうこともある。そういった時にはギルドとの調整もあるし、その経緯でギルド職員や女冒険者と縁が芽生える……あるいはそこから女性を紹介されるってパターンがあったらしい。
女冒険者もいつまでも体力的な問題で続けられるとは限らないし、実は出会いに貪欲らしい。
……そういえば『俺』も、知り合った女冒険者に飲みに誘われることがよくあったな。出会いが欲しかったのかな、あれ。そうと知っていれば飲み会の面子も若い独身に限定してやったのに。
ちなみに意外に少ないのが王城で働く女性(女官や侍女)との結婚だ。
王都で働く軍人なんだから、お城の女性と出会う機会も多いと思うよな。
けど軍人は大概隔離された練兵所で訓練したりという毎日。王城の本館にいる時はほぼ仕事中だ。
あと女性たちはその職務上、礼儀と清潔さにうるさい。
王城では働く女性は文官との出会いもあるし、軍人に固執もしない。
結果、ガサツな軍人は良く女官に叱られて苦手意識を持つことになる。
『俺』もよく女官に追いかけられたな……なんかやたらと「駄目だと思います!」って言ってくる娘がいたが、アレ結局何が駄目だったのか具体的な説明はなかったんだよなぁ。
なお、登場人物は全員、無自覚鈍感☆恋愛感情の機微が死滅している系。
デリカシーのない(精神的には)男友達四人組。
縁結びと呼ぶには微妙な人間関係への介入を測り、なんだかんだで摩訶不思議な化学反応を起こして明後日の方向に突っ走る☆みたいな学園生活モノです。




