第40話 これからも
「いっぱい遊びましたね」
「楽しかったね〜」
ショッピングモールからの帰り道。
空がオレンジ色になっている。
気がつけば、もう夕方だった。
朝はソファでダラダラしていたのに。
何時間くらい外にいたんだろう。
フードコートで水を飲んで少し休んで。
そのあとゲームセンターへ行った。
服も見た。
二人が気になった店にも入ったし、俺が足を止めた店にも付き合ってもらった。
歩いて、笑って、また歩いて。
スマートフォンで時間を見たときには思っていたよりずっと遅くなっていた。
「そうだね」
俺は二人の言葉に頷く。
右には美優ちゃん。
左には海ちゃん。
どちらとも手を繋いでいた。
モールを出るとき、美優ちゃんが俺の右手に触れた。
『帰りは手を握ってもいいですか』
聞かれて俺が頷くと。
海ちゃんが、もう片方の手を取った。
『じゃあ、うちも』
それから、ずっとこのままだ。
歩くたびに繋いだ手が少し揺れる。
しっかり手を繋いだのは初めてだった。
「謙也君、疲れた?」
海ちゃんが俺を見る。
「少しかな」
「そんなのすぐ復活しますよ」
「それポジティブすぎ」
「そうかな?」
美優ちゃんが不思議そうに首を傾げる。
「でも、あのゲームは悔しかったな〜」
海ちゃんが少し悔しそうに言った。
「謙也君、初めてって言ってたのに」
「本当に初めてだったよ」
「最後、うちより点数高かったじゃん」
「海ちゃんが途中で失速したからじゃない?」
「だって美優が!」
「私、何もしてないよ」
「してたよ。謙也君が一個入れるたびに拍手してた」
ゲームセンターでやったボールを投げて点数を競うゲーム。
俺が投げる横で、美優ちゃんがずっと応援してくれた。
隣の台では海ちゃんも投げていたんだけど。
『謙也さん、すごいです!』
そんな声が聞こえるたび海ちゃんがこっちを見ていた。
結果、俺が勝った。
「海ちゃんも前見て投げてればよかったのに」
「謙也君だって、美優の方見てたでしょ」
「……見たけど」
「ほら」
「拍手されたら見るよ」
美優ちゃんが隣で小さく笑う。
「次は海も応援するね」
「うん。お願い」
「でも謙也さんも応援します」
「それ、また同じじゃん」
二人のやり取りを聞いて俺は笑った。
次。
もう次に遊ぶときの話をしている。
俺も、またあそこに行ったら同じゲームをやってみたいと思った。
「服、買わなくてよかったの?」
美優ちゃんが聞いた。
「うん。今日は見るだけで」
「試着したやつ、似合ってたのに〜」
海ちゃんも俺を見る。
「二人とも、全部そう言ってたよね」
「似合ってたからです」
「うん」
返事が早い。
試着室から出るたびに二人が顔を上げた。
鏡を見るより先に褒められて。
何着目かには出る前から少し照れてしまった。
「俺には、どれが一番よかったのか分からなくなったよ」
「じゃあ、また見に行こ」
「次は私達も選んでもらいたいです」
「俺が?」
「はい」
美優ちゃんがうなずく。
海ちゃんも身を少し寄せてきた。
「うちのもね」
「俺、そんなに服とか分からないけど」
「好きだなって思ったのでいいよ」
そう言われて二人の服を見る。
今朝、玄関で見たときから、いいなとは思っていた。
ただ、それを口に出すタイミングが分からなかった。
何度か言おうとして。
そのたびに別の話になって。
気づけば夕方だ。
「……今日の服も、二人とも似合ってると思う」
小さく言った。
二人の足が、少しだけゆっくりになる。
「謙也さん」
「うん?」
「もう一回、お願いします」
「聞こえてたよね?」
「うちも聞きたい」
海ちゃんまで俺の顔を覗き込んでくる。
またか。
俺は前を向いた。
「二人とも、似合ってるよ」
さっきより、少しだけはっきり言った。
右手を、ぎゅっと握られる。
左手も。
「ありがとうございます」
「嬉しい〜」
そんなに喜んでもらえるなら朝に言えばよかった。
でも言ってよかったとも思った。
二人とも、まだ笑っている。
その顔を見ていると俺まで嬉しくなってしまう。
「また行きましょうね」
美優ちゃんが言った。
俺は右に顔を向ける。
「今日みたいに、三人で」
「これからも楽しい時間を過ごそうね」
海ちゃんの声に今度は左を見る。
二人が俺の返事を待っていた。
「うん。また行こう」
答えると美優ちゃんが繋いだ手を少し揺らす。
海ちゃんも同じようにする。
「約束ですよ?」
「うん」
「じゃあ次はうちがゲーム勝つから」
「もう勝負の話?」
「謙也君も、さっき悔しくなさそうだったし」
「勝ったからね」
「あ、言った」
海ちゃんが目を丸くした。
美優ちゃんが吹き出す。
俺も笑った。
そんな返しが考えるより先に出てきた。
海ちゃんは繋いだ手を離さず俺の顔を見る。
「今の謙也君、ちょっとずるい」
「海ちゃんに言われるとは思わなかった」
「また言った」
二人の笑い声が帰り道に響いた。
俺は前に顔を戻す。
右手も、左手も温かい。
「あのさ」
「はい?」
「何?」
左右から返事が来る。
「次に行くときは俺から誘ってもいい?」
美優ちゃんが俺を見る。
海ちゃんも。
一瞬、二人とも何も言わなかった。
それから、同じくらい強く手を握ってきた。
「ぜひ!」
「待ってる!」
声が重なる。
俺は少し照れて、うなずいた。
何も予定がなかった土曜日。
今は、次の休みが少し楽しみになっていた。
これからも何度も経験する二人との時間を想像しながら。
あとがき
ここまでお読みくださりありがとうございました。
ここまで書き続けられ、完結させられたのも、読者様が日々読んで評価をしてくださったおかげです。
感謝の気持ちでいっぱいです。
本当にありがとうございました




