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【連載版】神様に願ったのは衣食住  作者: あずきまんま
第2幕:加護の幅を広げる日々と、外の世界への種まき

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第19話:親子のコンビネーションと、風のソヨカゼ

いつも通りの朝、葵と琴音はヒールグラスの群生地へと向かった。


「今日もよろしくね、琴音」


「うん!」


木漏れ日亭を出て歩く道すがら、他愛もない会話を交わしながら、二人は採集地への道を進んでいった。


朝露に濡れた草の匂いと、遠くから聞こえる鳥の声が、いつも通りの穏やかな一日の始まりを感じさせる。


夜ごとの練習のことは、まだ葵には黙ったままだった。







採集地に着くと、二人は手分けしてヒールグラスを摘み始めた。


根元を傷めないよう、周りの土をそっと緩めてから、一本ずつ引き抜いていく。


しばらく作業を続けるうち、葵はふと手元の株に目を落として、小さくため息をついた。


「今日のは、根元に土がしっかりついてるものが多いわね……」


見れば、どの株も、細かい根の隙間に土が入り込んでいる。


籠いっぱいになったヒールグラスを前に、葵は丁寧に一株ずつ土を払い始めた。


「私も手伝うよ」


琴音も隣にしゃがみ込み、慎重な手つきで土を払い始める。


けれど、根元の細かい隙間に入り込んだ土は、指先だけではなかなか取りきれなかった。


「うーん、ここの土、しつこいなあ……」


指先で何度もこすってみても、隙間の土はなかなか落ちてくれない。


『あたちも、ふーふーする……!』


見かねたフィニが、頬をぱんぱんに膨らませて息を吹きかけてみせる。


けれど小さな体から出る風は弱々しく、土を払うどころか、葉についた朝露をわずかに揺らす程度だった。


「フィニ、ありがとう。でも、あんまり変わらないみたい」


『うぅ……力不足……』


しょんぼりと肩を落とすフィニの様子に、琴音と葵は思わず顔を見合わせて笑った。







笑いながらも土と格闘するうち、琴音の頭の中に、ふとある考えがよぎった。


(そういえば……)


夜な夜な重ねてきた練習で、ようやく手のひらに生まれるようになった、あの小さな風。


まだ人前で試したことはなかったけれど、これなら――


「お母さん、ちょっと待ってて。試したいことがあるの」


「試したいこと?」


不思議そうに見守る葵の前で、琴音は摘み取ったヒールグラスを一本手に取り、そっと目を閉じた。


深く息を吸い、これまで幾晩も重ねてきた感覚を呼び起こす。


「――ソヨカゼ」


小さく紡がれたその言葉と共に、琴音の手のひらから、柔らかな風がふわりと生まれた。


ヒールグラスの根元を優しく撫でるように吹き抜けたそよ風は、こびりついていた土だけを、ぱらぱらと払い落としていく。


葉や茎には、傷ひとつつかなかった。


「わあ……!」


思わず声を上げたのは、琴音自身だった。


これまでの練習では、風は起こせても、こんなふうに何かの役に立てたことは一度もなかったのだ。


「琴音……! 今の……!」


葵は目を丸くして、土の落ちたヒールグラスと琴音の顔を、交互に見比べた。


「えへへ……。実は最近、こっそり練習してたの」


「すごいわ、琴音! こんなに綺麗に土だけ落とせるなんて……! 本当に大助かりよ!」


心からの賞賛に、琴音の頬がぱっと赤く染まる。


「ふふん、これでお母さんをサポートできたでしょ!」


得意げに胸を張る琴音の姿に、葵は思わず笑みをこぼした。







「じゃあ、早速お願いしてもいい?」


葵が土のついたヒールグラスの束を差し出すと、琴音は張り切って手のひらをかざした。


「うん、任せて! ――ソヨカゼ」


ふわりと風が舞い、土だけが綺麗に払い落とされていく。


「すごい、本当にあっという間ね」


「もう一束、いいよ」


葵が次の束を渡すたび、琴音は同じ動作を繰り返した。


三度目になる頃には、風の強さの加減もすっかり掴めてきたようで、以前よりも滑らかに、無駄なく土を落とせるようになっていた。


「琴音、こっちもお願い」


「はーい!」


差し出された束に手をかざすたび、風の加減も少しずつ思い通りになっていくのが分かる。


『すごいすごい……! 琴音、どんどん上手になってる……!』


フィニが興奮した様子で二人の周りを飛び回る。


「フィニも、褒めてくれてる」


「みんなで頑張った成果ね」


葵が株を選び、琴音がソヨカゼで土を払う。


その作業を何度か繰り返すうち、二人の間には自然と息の合ったリズムが生まれていった。


籠いっぱいのヒールグラスは、いつもよりずっと早く、すっかり綺麗な状態に整った。


「こんなに早く終わるなんて、思わなかったわ」


満足げに籠を見つめる葵の隣で、琴音も誇らしげに頷く。


「私も、やっと少しだけ、お母さんの役に立てた気がする」


「少しだけ、じゃないわ。もう十分すぎるくらい、頼りにしてるもの」


真っ直ぐな言葉に、琴音は照れくさそうにはにかんだ。


夕暮れ前の柔らかな光の中、綺麗になったヒールグラスの籠を挟んで、二人は顔を見合わせて笑い合った。


出会った頃には想像もできなかった、親子二人だけの、確かな連携の形がそこにあった。


「これからも、こうやって一緒に頑張ろうね」


「ええ、もちろんよ」


風にそよぐ草原を眺めながら、二人は満ち足りた気持ちで帰り支度を始めた。







ギルドに納品に向かうと、受付の眼鏡の職員が籠を覗き込んで、感心したように目を見張った。


「今日のヒールグラスは、いつにも増して状態がいいですね。土も綺麗に落ちていて、これなら加工の手間もかかりません」


「実は、琴音が新しい方法を見つけてくれたんです」


葵が誇らしげに答えると、隣で琴音が照れくさそうに頬をかいた。


「へえ、頼もしいですね。これからも期待しています」


職員の言葉に、琴音は小さく胸を張った。


ギルドを出た帰り道、夕暮れの空を見上げながら、琴音はぽつりと呟いた。


「今日は、いい一日だったね」


「ええ、本当に」


隣を歩く葵の笑顔に、琴音もつられて笑みをこぼした。


お読みいただきありがとうございました!


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