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【連載版】神様に願ったのは衣食住  作者: あずきまんま
第2幕:加護の幅を広げる日々と、外の世界への種まき

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第18話:草むらの影と【住】の防御結界

その日はよく晴れて、採集日和だった。


ヒールグラスの群生地に着いた葵と琴音は、いつものように手分けして摘み取りを始めた。


『今日は、あぶないにおい、しないよ』


フィニが鼻先をひくつかせながら、のんびりとそう告げる。


「フィニが、今日は危険な匂いはしないって」


「それなら安心して集中できるわね」


その言葉通り、作業はゆったりとした空気の中で進んでいった。


風にそよぐ草の匂いと、時折聞こえる小鳥のさえずりだけが、あたりを満たしている。


ヒールグラス特有の、ほんのり青臭い匂いを頼りに、群生地を一株ずつ丁寧に確認していく。


「このあたり、状態のいいものが多いわね」


「本当だ、瑞々しくて摘みやすい」


慣れた手つきで作業を進める二人の様子を、フィニが満足げに見守っていた。


すっかり見慣れたはずの採集風景も、今日はどこか穏やかで、いつもよりのんびりとした空気が流れていた。







しばらく夢中で手を動かしていた時だった。


がさり、と近くの茂みが不自然に揺れた。


「……今の、何?」


琴音が身を強張らせて振り返る。


『あ、あれは……』


フィニが何かに気づいた次の瞬間、茂みの中から、ぷるんとした半透明の丸い物体が勢いよく飛び出してきた。


「きゃっ……!」


拳ふたつ分ほどの大きさの、青みがかったゼリー状の魔物――スライムだった。


弾むような動きでこちらへ向かってくるその姿に、琴音が思わず葵の腕にしがみつく。


考えるより先に、葵の口からとっさに言葉が飛び出していた。


「ここを、私たちの家とする……!」


その瞬間、二人を包み込むように、うっすらと輝く透明な膜がふわりと展開された。


勢いよく突進してきたスライムは、その膜にぶつかった途端、まるで弾かれたゴムボールのように、ぽよんと後方へ跳ね返っていく。


「……え?」


呆気に取られる琴音の目の前で、スライムは何度か体勢を立て直しては突撃を繰り返したが、そのたびに同じように弾き返されるだけだった。


「な、なにこれ……」


呆然と呟く琴音の手を、葵はしっかりと握りしめた。


「大丈夫よ。何が来ても、私たちには届かないみたい」


膜に映る光の揺らめきを見つめながら、葵自身もまだ状況を飲み込みきれずにいた。


とっさに出た行動だったが、確かな安堵感が胸の内から広がっていく。







「大丈夫、琴音?」


「う、うん……。今の、何が起きたの?」


「たぶん、【住】の加護だと思うわ。とっさに『家』のことを考えたら、こうなったみたい」


膜越しに見るスライムの姿は、なんだか間の抜けた様子で、何度目かの体当たりのあとに、ぽてんとその場に座り込んでしまった。


『あのスライム、あんまり強くないよ。危険は少ないから、警戒しなかったの』


フィニが申し訳なさそうに耳を垂れさせる。


「フィニが、あんまり強い魔物じゃないから警戒してなかったんだって」


「そう。それなら、大きな心配はいらなさそうね」


膜の向こうで、なおも体当たりを繰り返すスライムの姿は、次第に何かの意地のようにも、ただの遊びのようにも見えてきた。


「なんだか、可愛くなってきちゃった……」


くすりと笑う琴音の声に、葵も思わず頬を緩める。


「本当ね。全然怖くないわ」


しばらく見守っていると、スライムはついに諦めたのか、のっそりとした動きで茂みの奥へと戻っていった。


その後ろ姿を見送りながら、葵はふっと息をついた。


「神様の加護、こんな風に守ってくれるのね……」


改めて実感する安心感に、胸の奥がじんわりと温かくなる。


「戦う力がなくても、ちゃんと守られてるんだね」


琴音の言葉に、葵は静かに頷いた。


「ええ。だから、必要以上に怖がらなくても大丈夫よ」


透明な膜は、危険が去ったのを察したように、ふわりと淡く消えていった。


『あたちも、びっくりした……』


フィニが胸を撫で下ろすように、ほうっと息を吐く。


「フィニもびっくりしたって」


「そうよね、急なことだったもの」


三人は顔を見合わせて、少しだけ緊張の解けた笑みをこぼした。


「さ、続きをやりましょうか」


「うん!」


何事もなかったかのように、二人は再び採集作業へと戻っていった。


その日以降、たとえ小さな物音に驚くことがあっても、葵の心にはどこか揺るぎない安心感が根付いていた。


どんな悪意にも、危険にも、決して脅かされることのない絶対の守り。


それは、この世界で生きていく二人にとって、何よりも心強い支えだった。


お読みいただきありがとうございました!


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