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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第一章 捨てられ猫姫の新生活
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猫の国の会議

 書記がそこまでのやり取りを書き取り、もうひとりがドアから出て、男女混じった八人の大人と、使者の二人を連れて戻った。


 会議の始めに、まずは、自分はこの国の宰相だと名乗り、次に大臣たち、最後に使者の二人の順に名乗っていった。


 宰相は、ノーザン伯爵と私の出会いから、話して欲しいと言う。


 お父様は出会いから今までの事を、要領よく話して聞かせ、私の宝箱を回して見てもらった。見事な彫金細工のブローチと、齧って小さくなった魚の骨を見て、誰もが感嘆の声を上げている。


「これはミーアと暮らしていた彫金師のハリーが、ミーアに贈った宝物で、私が贈ったのはこの小箱だけなんです」


 そう話を締めくくったお父様は、なんとなくしょげている。

 確かに立派な箱だが、他の2つとは比べ物にならない。会議場全体に慰めるような雰囲気が広がった。


 そこで宰相が質問した。


「娘さんを攫われた辛さはお察しします。だが、何故わざわざ人間ではないミーア嬢を養女に選んだのですか?」


「初めて彼女を見た時、また娘ではなかったと失望しました。ミーアは疲れ果てて悲嘆にくれていた私の手を引いて、椅子に座らせ、背中をさすってくれたのです。私はあの時、この子に救われました」


 あの時と同じように、今の私もお父様の背を擦っている。なんとなく灌漑深い。



 宰相たち貴族猫は、お父様の話に納得したらしく、自分達の事情に付いて話しはじめた。


 まずは、女王の出産と、選定の日のしきたりから説明を始める。

 女王の娘二人のどちらかが次期女王に選ばれ、もう片方は普通の猫になる。

 一旦捨て猫の体を取り、改めて保護して、普通の猫になってから旅立たせるしきたりと、今回どういう具合に失敗したか。

 その後の捜査の様子。偶然にもパーラーで見かけ、事情を聞くため使者を送ったこと。貴族猫として認め、登録したことまで話し終わった。


「これで今までの互いの事情はわかりましたかな?」


「わかりました。ありがとうございます」


 私も聞き入っていた。今の話だけでも、私が知らなかったことが沢山ある。


「では、今後のことに移りましょう。ミーア嬢は現在人間界で暮らしています。そのまま人間界で暮らすと考えていいでしょうか」


「はい、そうです」


 二人の言葉が被ってしまい、顔を見合わせて笑いあった。


「結構です。実はミーア嬢の毛の色が選別式の時のように、全くブルーが入っていなかったり、薄いブルーだったなら、猫の国に戻ってもらったことでしょう。だが、現在すでにブルー手前。王女様より濃いのです。ブルーの猫は女王のみという前提が覆されたのです。私、非常に困っております」


 そう言って、宰相は一息ついた。


「だからですね、猫の国に居ると、混乱の元になるのですよ。女王様は、今後の成長を見て結論を下す、とおっしゃっています」


「その結論とは、どんなものでしょうか。まさか......」


 お父様がぎょっとしたように緊張して問いかけた。


 するとその考えがわかったようで、宰相が嫌な顔をして見せる。


「何か物騒な事を考えているようですが、違いますよ。猫の国は人間のように、野蛮ではありません。ミーア嬢を女王として、もう一つの国を作ることもプランの一つとして考えています」


「え! 私が女王になるの?」


「でもミーアは、人間として生活させるつもりでいるのですよ」


「ええ、だから成長の様子を見て、そして相談して、となるわけです」


 二人共、ホッとした。新しい国だの女王だのが飛び出して来るとは、思ってもいなかったので、すごく焦ったのだ。


「では、今後の教育と、猫の国との交流方法に移りましょう」


「まずは貴族猫の一般常識。これは早急に学んでいただかねば。人間のレディ教育より優先度が高いと思います」


 私は頷いた。猫から人間になる時の服の呪文が、ものすごく便利だったので、こういうものが他にあれば、すぐにでも覚えたい。


「レディ教育の前に、そっちの勉強がしたいです。お父様、お願い」


「いいよ、君は覚えるのが早いし、レディ教育の基礎もあるからね。全部をしばらくお休みするかい」


「あのね、ダンスとバレエだけは続けたいです」


「バレエは猫の国でも習えます。人間の王宮バレエ団に所属するバレリーナもいますので、レッスンを受けることも出来ます」


 二人はおお~っと声を出してしまった。

 それはすごい。ぜひお願いしたいと私は叫んだ。


 踊るのは大好きだ。猫の国に通うのが楽しみになった。



 そうやって一科目ずつスケジュールを決め、カリキュラム表と日程表が出来あがる。

 伯爵は、自身がバーナード学院に入学したときの、カリキュラム相談を思い出して懐かしいな、と言って顔をほころばせている。

 その二人の様子を見ていた宰相が、ふうっと息を吐いた。


 「お二人の様子を観察して安心しました。文句の付けようのない親子です。今日実際に見るまで、人間と捨てられ猫姫の組み合わせが、どうにも想像できなかったのです。

 でも、驚くほど自然ですね。素敵な宝物を贈れていない、としょぼくれた様子など、まるで子煩悩な貴族猫の父親のようです。初めての試みだが、やる価値と、希望がたっぷりあると判断しました」


 その言葉に、お父様は嬉しそうにありがとうと答えた。


「最後に、猫の国との交流に付いて取り決めを行います。ノーザン伯爵は、私達が人間に溶け込んで生活していると、推測されているそうですね。使者達から聞きました」


 そして、次のような説明をしてくれた。


「実はその通りです。貴族猫は普段は人間の姿で生活し、人間界に紛れ込んでいます。猫の生活を全くせず、人間として生きる貴族猫もいます。逆に猫の生活を好み、ほとんどを猫として過ごすものもいます。どちらを選ぶも本人次第です。そして猫の国の統治は、この宮殿で行われています。全員が人間としての身分を持ち、仕事を持つ者もいます。人間の貴族の家門も、いくつかは貴族猫の家なのです」





次回、第一章の最終話です。

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