一日目の試合終了
そこにビリーとパーシーもやって来た。まずい、お兄様達の事を、すっかり忘れていた。
二人は嬉しそうに、ニコニコしていて、ビリーは特に舞い上がっている。
「これ見てくれよ。僕の戦う姿がイケてるって、女の子から花をもらったんだ」
おお~、という声が上がり、男たちが周囲を取り囲んだ。もちろんお父様もだ。
どんな娘だった? 好み? 可愛い?
矢継ぎ早に質問が飛び交う。
全く。
バーバラが、意地の悪い顔をして、口を開こうとしたので、ミーアはドレスのスカートを引いて止めた。
「ほおって置きましょう。嬉しそうだわ。それに私たち、全然見ていなかったしね」
バーバラはしぶしぶ、諦めてくれた。
「全員二回戦突破おめでとう。三回戦と四回戦は連続だろ。飲み物を用意して待ってるから、またおいで」
お父様が嬉しそうに、四人に告げた。
三回戦に進むのは、七百五十人。だいぶ一人一人を、じっくり観ることができるようになってきた。
相変わらず対戦相手の選択は選手任せだ。
これだと1回戦で、最強同士が当たってしまわないか、と心配になるが、トーナメントだから仕方ないと、ネイトが言っていた。
強いものが、早く負けるのは残念だな、と考えている内に、次の試合のアナウンスが始まった。
「第三回戦、形態 猫。 魔法禁止。フィールド内の赤いラインから、外に出たら敗退 」
今回はフィールドの半分被度のサイズで、赤い円が書かれている。出場者は、全員円の中に立ち、猫に変身した。
合図と共に、戦いが始まった。
今回はちゃんと四人の居場所を確かめているので、じっくり観戦しようと、オペラグラスを手に、手すりの前に陣取った。
四人は協力して戦うことにしたようだ。連携して、数匹をまとめて外に追いやっている。
「すごい、あの四人、何匹を追い出しているの? 息の合うこと。ねえ、ミーア、彼ら目立っているわよ」
本当に目立つ。チームで戦っているので、勢いが違う。
色の組み合わせも、茶色、黒、グレイ、ライラックで、見ていて気持ちが良い。それに皆、色艶が良くて綺麗だ。
このチームに向け、大声援が巻き起こっている。
終了の合図が鳴り、また半分近くが勝ち残った。総数四百人ほどか。
次の第4回戦は、第2回戦と同じ条件の試合だった。
四人は危なげなく相手を倒し、悠々と引き揚げて行った。特にダンは、組み手が得意のようで、一瞬で相手を投げ飛ばしていた。先ほどの言葉は嘘ではなかったようだ。
少ししてから、四人揃って、伯爵家の観覧席に顔を出した。
「遅かったね。すぐに来るかと思っていたのだけど」
お父様がレモン入りのソーダ水を勧めながら四人に聞いた。
髪の毛が乱れているのを気にかけて、何度も指で掻き上げているパーシーは
「ファンだと言う人たちに、取り囲まれていたのです。色々と渡されましたよ」
見ればそれぞれが、花やらハンカチやらを持っている。
彼らに会いたいと言って、こちらのテラスに来ていたネイトが、笑った。
「早いね。そういうのは、一日目を勝ち残った辺りから、始まるものだけど」
ネイトが名乗ると、四人が驚いた。
ソロモンなど飛び上がった。この様子では、女王がきたら、腰を抜かすかもしれない。私はソロモンの横に立ち、腕をさすって落ち着かせてあげた。
その様子を見て、ダンが眉を寄せ、二人を睨みつけた。
ネイトが、片眉を上げて、こちらを見ている。
バーバラが、すっとネイトの横に立ち、耳元で何かを言うと、ネイトは顔をクシャクシャにして笑い始めた。
何を言ったのか、後で聞き出さなくては。
「君たち、すごく良い動きをしていたね。注目されて当然だよ。この後も頑張って。今はゆっくり休憩してくれ」
顔に笑いを残したまま、ネイトは四人を激励し、出て行った。
それでやっと、ソロモンは、大きく息を付いた。
「ネイトでそれじゃあ、女王が来たら大変よ。心構えをしてね」
「心構えね。うん。女王ってどんな顔しているの?」
「私に似ているわ」
ソロモンがミーアを見つめた。
「それなら、すごく美人だね」
まあ、とつぶやくと、ダンが私とソロモンの間に立ちはだかった。
バーバラが噴き出し、二人の間に割り込もうとするダンに、ちょっと落ち着いて、と言った。
「昨日はニコラを好きだと誤解して、今日はソロモンにヤキモチ焼くのね。目が曇っているにも程があるわ」
「つまり、ミーアは気が多いってことなのかな」
むくれたダンが失言し、またまた私は気を膨れ上がらせた。
「ここから直接、フィールドに送ってあげてもいいのよ」
私の目が座っているのを見て、昨夜巻き込まれたソロモンは、さっと逃げた。
流石にダンも、まずいと思ったようだ。ちょっとまごまごした様子で、話しかけてきた。
「ごめん。そうじゃなくて、つまり、今謝る言葉が出てこないから、夜に会ってくれないかな」
わっと声が上がった。
「この流れから、夜のデートの誘いに持ち込むとは、さすが女、……ダンだ」
ビリーが一番に叫んだ。
途中で詰まった言葉は、きっとで、女たらしだろう。
バーバラも被せ気味に言った。
「デートね。デートの誘いね。ミーア受けるの?」
ニコラとソロモンは、やっぱりそうだよなと、こそこそ言い合っている。
お父様はパーシーに何やら言われ、私とダンとパーシーを交互に見るばかりだ。
どうもこの戦いの間に、四人の間に友情が芽生えたらしい。パーシーとビリーはダンの味方になったようだ。
ダンが一歩前に出た。そして、先ほどと違い、覚悟を決めたような、しっかりとした声で話し掛けて来た。
「今夜、バレエ公演の後で、会って欲しい。話したい事があるんだ。本当は明日の夜にと思っていたのだけど、友人からの頼みで、断れないイベントがある。明日以降も絶対に勝ち残るから、今夜のうちに話したい」
懇願するような目で見つめられ、頬が一気に熱くなった。
こんな恥ずかしいセリフを、皆の前で言うなんて。
恥ずかしくて困ってもいるのに、嬉しいが少し混ざっていたりして、自分の心がよくわからない。
混乱した挙句に出した結論は、やっぱりダンは女たらし、だった。
ダンを睨んで、もう一つの気になる話について聞いた。
「明日の夜の予定って、バーナード学院の守備じゃないでしょうね」
「え、何で知っているの?」
ダンは驚いているが、パーシーとビリーは、しまった、という顔をした。
「もしかして、僕らが話したせいで、興味を持ってしまった?」
ビリーが凍り付いたような表情のまま、聞いた。
「私も参加するのよ」
ビリーとパーシーが、少し離れてた所に行って、こそこそ話し始めた。
まずいぞ。司令官に伝えなくては。実力者が女学院の味方に付いたって。これは今年こそ、危ないかも。
聞こえているわよ、と腹立たしく思った。暴力的な力を使う気はないのだ。
割り振られたのは、目くらまし役だし、見当違いもいいところだ。
「あの、話がズレたけど、今夜会えるかな」
「駄目よ。女学院のメンバーの誓いがあるわ。親兄弟にも秘密という約束なの。明日の夜以降でないと駄目」
ダンはうなだれ、明日の夜に、話す間があるかわからないのに、とボソボソ言っている。
何の話か知らないけど、この先イベントが盛りだくさんで、私はとても忙しいのだ。
今夜のバレエの準備もしないといけないし、明日の襲撃準備も……。
考えている私の肩に、手が置かれた。
「私に内緒で、楽しそうな事しているようね。ねえ、ミーア」
バーバラには内緒にしていたのに、こんなところで、暴露されてしまうなんて。
そうっと振り向くと、バーバラが微笑んでいた。年齢より大人びた、淑女そのものの微笑み。つまり、かなり怒っている。背筋がゾクッとして、毛が逆立ちそうになった。
「ミーア、やっぱり駄目かな」
いいところにダンが話しかけてくれた。今だけ、ダンがとても好きになった。
私がダンの方に逃げようとすると、さっとバーバラがダンを遮った。
「私が話しているの。割り込まないでくださらない」
ビシッと言うバーバラには、威厳が漂っている。とんでもなく強い女性に、育ってしまったような気がする。この数年で言えば、育てたのは私でもあって、それはうれしい事なのだけど......強すぎない?




