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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第四章 王配の座は誰に

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一日目の試合終了


 そこにビリーとパーシーもやって来た。まずい、お兄様達の事を、すっかり忘れていた。

 二人は嬉しそうに、ニコニコしていて、ビリーは特に舞い上がっている。


「これ見てくれよ。僕の戦う姿がイケてるって、女の子から花をもらったんだ」


 おお~、という声が上がり、男たちが周囲を取り囲んだ。もちろんお父様もだ。

 どんな娘だった? 好み? 可愛い?

 矢継ぎ早に質問が飛び交う。

 全く。

 バーバラが、意地の悪い顔をして、口を開こうとしたので、ミーアはドレスのスカートを引いて止めた。


「ほおって置きましょう。嬉しそうだわ。それに私たち、全然見ていなかったしね」


 バーバラはしぶしぶ、諦めてくれた。


「全員二回戦突破おめでとう。三回戦と四回戦は連続だろ。飲み物を用意して待ってるから、またおいで」


 お父様が嬉しそうに、四人に告げた。

 三回戦に進むのは、七百五十人。だいぶ一人一人を、じっくり観ることができるようになってきた。


 相変わらず対戦相手の選択は選手任せだ。

 これだと1回戦で、最強同士が当たってしまわないか、と心配になるが、トーナメントだから仕方ないと、ネイトが言っていた。


 強いものが、早く負けるのは残念だな、と考えている内に、次の試合のアナウンスが始まった。


「第三回戦、形態 猫。 魔法禁止。フィールド内の赤いラインから、外に出たら敗退 」


 今回はフィールドの半分被度のサイズで、赤い円が書かれている。出場者は、全員円の中に立ち、猫に変身した。


 合図と共に、戦いが始まった。

 今回はちゃんと四人の居場所を確かめているので、じっくり観戦しようと、オペラグラスを手に、手すりの前に陣取った。


 四人は協力して戦うことにしたようだ。連携して、数匹をまとめて外に追いやっている。


「すごい、あの四人、何匹を追い出しているの? 息の合うこと。ねえ、ミーア、彼ら目立っているわよ」


 本当に目立つ。チームで戦っているので、勢いが違う。

 色の組み合わせも、茶色、黒、グレイ、ライラックで、見ていて気持ちが良い。それに皆、色艶が良くて綺麗だ。


 このチームに向け、大声援が巻き起こっている。

 終了の合図が鳴り、また半分近くが勝ち残った。総数四百人ほどか。

 

 次の第4回戦は、第2回戦と同じ条件の試合だった。


 四人は危なげなく相手を倒し、悠々と引き揚げて行った。特にダンは、組み手が得意のようで、一瞬で相手を投げ飛ばしていた。先ほどの言葉は嘘ではなかったようだ。


 少ししてから、四人揃って、伯爵家の観覧席に顔を出した。


「遅かったね。すぐに来るかと思っていたのだけど」


 お父様がレモン入りのソーダ水を勧めながら四人に聞いた。

 髪の毛が乱れているのを気にかけて、何度も指で掻き上げているパーシーは


「ファンだと言う人たちに、取り囲まれていたのです。色々と渡されましたよ」


 見ればそれぞれが、花やらハンカチやらを持っている。

 彼らに会いたいと言って、こちらのテラスに来ていたネイトが、笑った。


「早いね。そういうのは、一日目を勝ち残った辺りから、始まるものだけど」


 ネイトが名乗ると、四人が驚いた。

 ソロモンなど飛び上がった。この様子では、女王がきたら、腰を抜かすかもしれない。私はソロモンの横に立ち、腕をさすって落ち着かせてあげた。

 その様子を見て、ダンが眉を寄せ、二人を睨みつけた。


 ネイトが、片眉を上げて、こちらを見ている。

 バーバラが、すっとネイトの横に立ち、耳元で何かを言うと、ネイトは顔をクシャクシャにして笑い始めた。

 何を言ったのか、後で聞き出さなくては。


「君たち、すごく良い動きをしていたね。注目されて当然だよ。この後も頑張って。今はゆっくり休憩してくれ」


 顔に笑いを残したまま、ネイトは四人を激励し、出て行った。

 それでやっと、ソロモンは、大きく息を付いた。


「ネイトでそれじゃあ、女王が来たら大変よ。心構えをしてね」


「心構えね。うん。女王ってどんな顔しているの?」


「私に似ているわ」


 ソロモンがミーアを見つめた。


「それなら、すごく美人だね」


 まあ、とつぶやくと、ダンが私とソロモンの間に立ちはだかった。

 バーバラが噴き出し、二人の間に割り込もうとするダンに、ちょっと落ち着いて、と言った。


「昨日はニコラを好きだと誤解して、今日はソロモンにヤキモチ焼くのね。目が曇っているにも程があるわ」


「つまり、ミーアは気が多いってことなのかな」


 むくれたダンが失言し、またまた私は気を膨れ上がらせた。


「ここから直接、フィールドに送ってあげてもいいのよ」


 私の目が座っているのを見て、昨夜巻き込まれたソロモンは、さっと逃げた。

 流石にダンも、まずいと思ったようだ。ちょっとまごまごした様子で、話しかけてきた。


「ごめん。そうじゃなくて、つまり、今謝る言葉が出てこないから、夜に会ってくれないかな」


 わっと声が上がった。


「この流れから、夜のデートの誘いに持ち込むとは、さすが女、……ダンだ」


 ビリーが一番に叫んだ。

 途中で詰まった言葉は、きっとで、女たらしだろう。

 バーバラも被せ気味に言った。


「デートね。デートの誘いね。ミーア受けるの?」


 ニコラとソロモンは、やっぱりそうだよなと、こそこそ言い合っている。

 お父様はパーシーに何やら言われ、私とダンとパーシーを交互に見るばかりだ。

 どうもこの戦いの間に、四人の間に友情が芽生えたらしい。パーシーとビリーはダンの味方になったようだ。


 ダンが一歩前に出た。そして、先ほどと違い、覚悟を決めたような、しっかりとした声で話し掛けて来た。


「今夜、バレエ公演の後で、会って欲しい。話したい事があるんだ。本当は明日の夜にと思っていたのだけど、友人からの頼みで、断れないイベントがある。明日以降も絶対に勝ち残るから、今夜のうちに話したい」


 懇願するような目で見つめられ、頬が一気に熱くなった。

 こんな恥ずかしいセリフを、皆の前で言うなんて。


 恥ずかしくて困ってもいるのに、嬉しいが少し混ざっていたりして、自分の心がよくわからない。

 混乱した挙句に出した結論は、やっぱりダンは女たらし、だった。

 ダンを睨んで、もう一つの気になる話について聞いた。


「明日の夜の予定って、バーナード学院の守備じゃないでしょうね」


「え、何で知っているの?」


 ダンは驚いているが、パーシーとビリーは、しまった、という顔をした。


「もしかして、僕らが話したせいで、興味を持ってしまった?」


 ビリーが凍り付いたような表情のまま、聞いた。


「私も参加するのよ」


 ビリーとパーシーが、少し離れてた所に行って、こそこそ話し始めた。

 まずいぞ。司令官に伝えなくては。実力者が女学院の味方に付いたって。これは今年こそ、危ないかも。


 聞こえているわよ、と腹立たしく思った。暴力的な力を使う気はないのだ。

 割り振られたのは、目くらまし役だし、見当違いもいいところだ。


「あの、話がズレたけど、今夜会えるかな」


「駄目よ。女学院のメンバーの誓いがあるわ。親兄弟にも秘密という約束なの。明日の夜以降でないと駄目」


 ダンはうなだれ、明日の夜に、話す間があるかわからないのに、とボソボソ言っている。

 何の話か知らないけど、この先イベントが盛りだくさんで、私はとても忙しいのだ。


 今夜のバレエの準備もしないといけないし、明日の襲撃準備も……。

 考えている私の肩に、手が置かれた。


「私に内緒で、楽しそうな事しているようね。ねえ、ミーア」


 バーバラには内緒にしていたのに、こんなところで、暴露されてしまうなんて。


 そうっと振り向くと、バーバラが微笑んでいた。年齢より大人びた、淑女そのものの微笑み。つまり、かなり怒っている。背筋がゾクッとして、毛が逆立ちそうになった。


「ミーア、やっぱり駄目かな」


 いいところにダンが話しかけてくれた。今だけ、ダンがとても好きになった。

 私がダンの方に逃げようとすると、さっとバーバラがダンを遮った。


「私が話しているの。割り込まないでくださらない」


 ビシッと言うバーバラには、威厳が漂っている。とんでもなく強い女性に、育ってしまったような気がする。この数年で言えば、育てたのは私でもあって、それはうれしい事なのだけど......強すぎない?


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