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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第一章 捨てられ猫姫の新生活
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猫の国からのお誘い


 ついに憧れのパーラーだ。

 私は一番で飛び込もうとしたが、お父様にそれはレディの振る舞いではないよ、とたしなめられた。

 お父様の後ろに付いて大人しくお店に入り、お店の人の案内で、窓辺の明るいテーブルを囲んで座る。


「ここは通りからよく見える、特等席なんですよ。きっとお嬢様が可愛いから、ここに案内してくれたのです」


 ルルはそう言って得意そうにしている。

 確かにガラス張りのコーナー席で、窓際に綺麗なお花がたくさん飾ってあり、ごく薄い繊細なレースのカーテンが垂らされている。

 外から見たら、花に囲まれてお茶を飲む私達が、薄いレース越しに見えるという趣向だ。


 お父様も嬉しそうに口元が緩んでいる。


「さあ、好きなだけ頼んでいいよ」


「お腹を壊すから一つだけです」


 すぐにルルが遮った。乳母とか侍女って、どうしてこう同じ事を言うのだろう。むくれながら一番色々と盛っている、プリンアラモードを選ぶ。


 ルルがむむっという顔をしたが、ツーンとして無視した。


「お父様と半分こに分けようか」


 そう言って、お父様はクレープシュゼットを、アイスクリーム付きで頼んだ。


 目の前でボワっと炎に包まれる姿に驚き、そこから立ち上るオレンジの匂いに、鼻がピクピクしてしまう。

 給仕係が二枚の皿に一枚ずつクレープを乗せ、オレンジソースとアイスクリームを乗せ、粉砂糖を振って出してくれた。

 溶けたアイスクリームがクレープに絡んで、すごく美味しい。だからお父様と二人で、いかにアイスクリームを残さないかを競い合った。


「ナイフとフォークの使い方が上手ですね。大人みたいです」


「猫は器用なの。それに王女は特別だって言ってたわ。他の貴族より能力が高いの。一番優秀な男の人がお父さんになるから、どんどん優秀になっていくんだって」


 そこにプリンアラモードが来た。こんもりとフルーツやらアイスやらが盛られている。


 もう有頂天だった。


 だから通りの向こう側の店から、数人の貴族猫が私を見ているのに、全く気が付かなかった。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 王宮内の会議室には重鎮たちが集まり、難しい顔を突き合わせていた。


 街のパーラーで、捨てられ猫姫らしき少女が、人間の貴族令嬢姿でプリンアラモードを食べているのを見た。そういう報告があったのは昨日のことだった。


 そして今日、情報網を通じて集められた報告は、驚くべきものだった。

 捨てられ猫姫は人間として暮らしていて、なぜか二ヶ月前から、ノーザン伯爵家の養女になっている。

 しかも邸内では時々、猫になって歩きまわっているという。両方の姿に、侍女は当たり前のように接していたそうだ。


 そして名前はミーアという。

 行動や話し方からして、しっかりと魂が体に繋ぎ留められた、人間になっていた。

 つまり彼女は貴族猫だ。貴族猫人名録に追加しなくてはいけない。

 だが、家門は? どの家にも属していない彼女を、養女に迎えるにしても、どの家に?


 それ以上に分からないのは、ノーザン伯爵家だ。

 どうして人間ではないと知りながら、養女に迎えているのだ。これをどう考えたらいいのだろう。


 困ったことだとか、いやはやとか、ニャーとか言う、何ら意味をなさない発言の後に、宰相が結論を述べた。


「ミーア嬢に聞いてみよう。それから改めて今後のことを決めよう」


 猫は実際的に物を考えるのだ。

 そして早速、迎えの者をノーザン邸に送った。



◇ ◇ ◇ ◇



 眠っている私の頬がふにふにと押された。

 なあに? と、その何かを掴んだら、ぎゃっと声がした。


 目をこすって起き上がると、黒い猫の足をがっしりと掴んでいた。

 

「ミーア嬢。離していただけませんか。猫の国からの使者です。声を掛けても起きてくださらなかったので、失礼しました」


 そう言ったのはベッドの横に立っている、茶色いスーツ姿の男だった。


「猫の国って、私を捨てた王宮のこと?」


「そうとも言います。猫の国のことを何も知らないのでしたね」


 私は黒猫から手を離した。黒猫はベッドの上から床にスタっと着地し、人間に変身してやれやれと言った。黒いスーツ姿だ。


「その服はどうなっているの? 猫から人間になった時、いつも面倒くさいのに、それは楽そうね」


「これは魔法で毛を洋服に見えるようにするものです。これを使えないと、本当に不便ですね」


 わあ、そんないい魔法があるならぜひ知りたい。もうドレスを着る必要もなくなる。


「教えてくれない? 私、いつもそれでいいわ。ドレスを着るのは面倒だもの」


「六歳からの貴族猫教育を受けなければいけませんね。貴族猫の一般常識です」


「ねえ、貴族猫って何?」


「人間になれる猫のことです。ミーア嬢も貴族猫なのですよ。特殊な状況なので確認が必要だけど、貴族猫なのは確かです。手続きのために、王宮に出向いて欲しいのですが、どうでしょうか」


 茶色の使者はにこにこしながら、そう提案した。


「お父様が何て言うか聞いてみるわ。私は行きたい。だって変身後に服があるのは便利だもの。それを教わりに行きたいって、頼むことにする」


「ミーア嬢、猫の国の事は、人間には秘密なのです。人間のお父様には内緒で来ることはできませんか」


「心配を掛けるし、怒られそうなのだけど」

 

「変身後の洋服の魔法を教えてあげますよ」


 私が断れない誘惑の言葉が出た。


「じゃあ内緒で行こうかな。場所は?」


「お迎えに来ますね。明日の夜、同じ位の時間に」



 次の日、私はワクワクしていた。

 自分と同じ種族に会うのは久しぶりだった。選別の日までは、主に乳母と教師ばかりで、昨日の男の人達のような、若い大人には会った事があまりない。


 今夜はどんな人達に会えるのだろう。




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