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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第四章 王配の座は誰に

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大会の始まり


 王子のニコラに対して、何でバーバラはこんなに偉そうにしているの?

 慌ててバーバラを窘めようとしたが、ニコラは自分の悩みで周りが見えていないようだ。


「リンスは、僕のせいで女王の座を追われる事になるのだろ? 僕には、そんな事は出来ないよ」


「たぶんリンスは、女王の座に執着が無いと思うわ。聞いてみたら?」


 バーバラに軽く言われ、ニコラが詰まった。私もあれッと思った。確かにリンスに権力欲は無い気がする。貴族猫と権力欲はあまり相性が良くないのだ。

 これが人間だと、そうはいかないのだろう。でも、妹に王位の継承権を譲って、恋人の元に嫁ぐ……人間界でも、普通にある状況かも?


 だから私も、貴族猫教育で知った知識を、ニコラに教えてあげた。


「ニコラはソロモン達の影響で、女王の力を過大に考えていると思うわ。女王と言っても、この国の一貴族よ。あまり目立たないよう、過度な贅沢もしなければ、勢力の拡大もしない。人数が増えたら、外国に移住を促すから、国内の勢力は小さめに保たれているのよ」


 その代わり、貴族猫と平民猫の待遇に力を注いでいる。おかげで皆幸せに暮らせているのだ。


「もし僕がレジーナに婿入して、子供ができなかったら、どうなるのだろう」


 バーバラが笑いながら答えた。


「別の人が女王になって、その子供が次期レジーナ侯爵になるでしょうね。侯爵の仕事と、女王の仕事が分担できて、楽かもよ」


 そう言われてみればそうだ。重責も分担可能と思うと、気分が楽になってきた。


「バーバラ、あなたって天才だわ」


 私は感激して、バーバラに抱きついた。それでもニコラの心配は、尽きなかったようだ。


「でも、そうしたらリンスは、次期女王の臣下に下ることになる。屈辱ではないのかな」


「それも聞いてみたら? 第二王子のニコラは第一王子の兄に従うのに、屈辱を感じるの?」


「まさか。そんなことは……」


 しばらく考えていたが、おずおずと2人に聞いた。


「大して問題ないのだろうか?」


 バーバラは久しぶりに横を向いて、ふ、ふんと言った。


「リンスにさようならって言う? そうしたら明後日には、リンスに婚約者が出来る。後悔しない自信はある?」


 ニコラが頭を抱えた。そしてきっぱりと言った。


「絶対に嫌だ」


「じゃあ決まりね」


 ニコラは、プロポーズすると言って、飛び出して行った。


「これで、後はミーアの相手探しね。この大会で気にいった人を、チェックしなくちゃ」


 バーバラに引っ張られ、テラスの手すりにもたれて、会場を見回すと、だいぶ人が増えている。手にカードや造花を持って振っている人もいた。


 見ているうちに、どんどん人数が増えていく。

 しばらくすると、競技場に出場者だけが残され、その他の者は場外に出て行った。それでも総数三千人にもなると、壮観だった。


 彼らは並ぶわけでもなく、思い思いの場所で好きなことをしている。

 友人に挨拶する者や、ストレッチをする者、会場の女性たちにアピールして回っている者。彼らの様子は、全く自由だ。

 主催者側も特に指示は出していない。


 ニコラが出て行った時と同じように走って戻って来て、プロポーズにOKを貰ったと報告してくれた。

 喜んでおめでとうと言っている所に、ファンファーレが鳴り響いた。

 フィールドの男たちが、一斉にバッと私達の方を向いた。同時に会場中の全員の視線も、こちらに集まった。

 私達四人は、思わず後に2歩ほど下がってしまった。それほど視線の圧はすごかったのだ。


「ニコラったら、何をたじろいでいるの? 王子様なら、こんなのも慣れているでしょ」


 バーバラが、ニコラをからかったが、ニコラは、そのまま後の椅子に座り込んだ。


「こんなに、求心力と敬意が強いわけではないさ。貴族たちも国民も、形式通りに礼をするだけで、気持ちは伴わないのが普通だよ。やはり、この王家は別格だ」


 この視線は女王に注がれているのだろう。それにたじろがない女王は、いったいどんな人生を送ってきたのだろう。時々意見を交わす権力者、程度の認識だったが、私は改めて興味を引かれた。

 その隣に立つネイトにもだ。王子のニコラでさえ、たじろいだ視線に、どうやって慣れたのか。


「ネイトの役割を継ぐなら、彼から学ばなくてはね。レジーナ侯爵家での修行は、とても大切なことね」


 私は、ニコラの腕に手を添えて、立つように促しながら、そう話し掛けた。私自身も、彼らを知人から師匠に格上げした。女王になる可能性が出てきた今、私の意識も、変わってきているようだ。


 短めなスピーチで、女王の開会宣言が終わった。

 いつもと違うのは、ある一部分だけだった。


「この大会の勝者には、王女への求婚を許可する」


 今までは『婚約を認める』だったそうだ。ニコラがリンスにプロポーズした後で、この変更案を聞いたのだそうだ。


 一瞬会場がざわついたが、すぐにわっと歓声が上がった。主に女性の声だ。かなり好意的に受け取ってもらえたようで、ホッとした。男性達は、やれやれという様子。


「優勝者が王女の婚約者に選ばれなかった場合、別の褒賞が与えられる。褒賞に関しては、優勝者と相談することになる。皆、精一杯力を発揮するよう」


 女王がそう続けると、ドッと場が沸いた。


 それに引き続き、選手紹介が行われた。名前の順にフィールドの観客席近くを歩いて一周する。手を振って、愛想を振りまくものも、淡々と歩く者もいる。ビリーが目に入ったので、私とバーバラは叫んだ。


「お兄様〜、頑張れ〜」


 その声に気がついたようで、ビリーが大きく手を振ってくれた。私達は興奮して騒ぎ、ニコラとお父様に引かれてしまった。


「だって、普段の三割増で格好いいわ」


 そういう二人に、男二人は不満そうだ。男たちの評価が厳しくて盛上がらないので、私は侍女にお酒を頼んだ。酔わせよう。文句は聞きたくないのだ。


 その次に目に入ったのはダンだった。スタスタと愛想もなく歩いている。だが、歓声が非常に高い。


「ミーア見てよ。ダンって格好いいわ。申し訳ないけど、ビリーより素敵ね」


 私は答えなかった。

 後の席からニコラが出て来て、ダンを応援した。ビール片手に大きく手を振っている。ダンがこちらを見た。目が合ったと思うのだが、無視して通り過ぎて行ってしまった。


「なあに、あれ。感じ悪いわね」


 私がムッとして言うと、バーバラがニコラに話し掛けた。


「ニコラは、この招待の事、何て言って来たの?」


「伯爵の席に招待されたって言ってある。部屋にメッセージが届けられた時、女王からと聞いて、何事かと驚いたよ」


「ねえ、あのお馬鹿さん二人は、ミーアがニコラを好きだって、まだ勘違いしているのかしら」


 さあ、と言ってニコラが首をひねった。


「もしそうなら、ミーアがニコラと一緒にいたくて呼んだ、とか思っていない?」


 それはまずいなあ、とニコラが焦り始めた。私もその誤解は少々腹立たしい。

 それでニコラに、控室に行って誤解を解いてもらうことになった。この招待は、ニコラが危険な目に遭わないよう、伯爵が女王に頼んだ事にしてもらう。今日の話は絶対に秘密だからね、と釘を刺した。


 ニコラが出かけた後、パーシーが出て来た。いつもと違って、細身の体がとても精悍に見える。


「お兄様〜。素敵よ〜」


 バーバラが、金切り声をあげた。パーシーも中々の人気だ。応援につられて無理しないといいのだけど、と私は心配になってしまった。会場全体が次第にヒートアップしてきている。この雰囲気にのまれずにいるのは、難しそうだ。


 ソロモンが出てくると、ひときわ甲高い声が上がった。美しく優雅なソロモンは、他の出場者とまるで雰囲気が違う。そのせいで非常に目立つのだ。


「ソロモン、真面目にやるのよ」


 ミーアの叫んだ声は、他の歓声の中に埋もれたと思ったのに、ちゃんと聞こえたようだ。ソロモンは爆笑したあと、優雅なお辞儀を私に返した。


「可愛いのよね、彼って」


「ソロモンが好きなのね。友達というか、母親みたい。ねえ、もし彼が優勝したら、求婚を受ける?」


「それは無理よ。彼の恋を応援したいもの」


「ダンは?」


「絶対に嫌」


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