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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第三章 隣国から来た男達

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出場申し込み


 客人が帰って、すっかり寛いだところで、バーバラがパーシーに出場しない訳を聞いた。


「僕はバイオリン奏者だからね。指に傷を付けたくない」


 ああ、そういう理由かと全員が納得した。


「では、仕事に差し支えなかったら、出場していたの?」


「もちろん出るよ。若い男で、基準に当てはまるなら絶対に出るよ。数少ない、全力で暴れられる機会だ」


「本気で王配を狙う人ってどのくらい居るのかな?」


「一割もいないだろう。相当な実力がないと無理だもの。ダンは言い切ったね。あの自信は大したものだ」


 またもや、私はムッとした。あんな奴がリンスの夫になろうとしているなんて、許せない。

 もし選ばれたら、ネイトのように、女王になったリンスと、熱愛カップルになるのだろうか。想像したら、とっても嫌な気分になってしまった。

 

「資格のあるなしって、いつチェックされるの。申し込みの時とかかしら」


 バーバラの問いに、実際に参加する予定のビリーが答えた。


「そうらしいよ。申し込み用紙を持参して、その場で力のチェックと学力チェックがあるみたい」


「学力チェックってどんなもの?」


「前回は数学と地政学の問題が出たって。大広間に通されて、そこで問題を解いて提出するそうだよ。今回はどうかな」


 バーバラが断言した。


「それは、その間の様子も審査されているわね。数学の問題でふるい落として、絞ってからの審査だわ」


 あまりにも断定的なので、パーシーが思わずという様子で、バーバラに聞いた。


「何でそう思うのさ」


「だって絞って三千人でしょ。全部見切れないもの。足切りは必須よ。採点しやすい数学でバッサリ落として、次に変な思想を持っていないかチェック。更に政治に無関心なおバカを省くのよ」


 感心した。バーバラはなんて賢いのだろう。そこにいた全員がそう思った。

 お父様なんて、まあいつも通りだけど、涙ぐんでいる。


「様子もってどういうことなの?」


 私が聞くと、バーバラは、ニンマリと笑った。


「申込時や、試験中の様子もチェックしていると思うわ。品性のチェックね。いばり散らしたり、他人の邪魔をしたりする品の悪い人は、そこで落ちると思う」


「そうしたら、宰相が言ってた通りになるわね。品の無い男も、頭の悪い男も選ばれないって。それなら、出場出来る時点で、すごくいい男ってことじゃない」


 バーバラが声を上げて笑い出した。


「だから絶対に見に行きたいのよ。良い男の集団ケンカ祭り」


 お父様の涙が引っ込んだ。にじり寄って来て、バーバラの袖を引いている。


「バーバラには、できたら人間の男と、結婚して欲しいと思っているんだよ。人間の男もいいものだよ」


 考えておくわ、と笑いながら言うバーバラは、とても美しい。

 お父様の目が、亡き妻を想う時のものに変わっている。バーバラと似ているそうだ。それならば、とても魅力的な女性だったのだろう。



 それから一ヶ月後、ビリーから、出場権を得たと連絡が来た。ここしばらく、勉強と鍛錬で忙しくて、あまり顔を出さなかったので、寂しがっていたお父様が、お祝いをすると言い出した。


 ビリーは満面の笑顔でやって来た。

 既に家や職場で、大いに持ち上げられてきたらしい。


「ビリー、おめでとう。私たち妹も、イケてるお兄様で嬉しいわ」


 ビリーが、らしくない気取ったポーズでほほ笑んだ。

 それを見たら、どうしても吹き出さずにはいられない。パーシーも盛大に吹き出していたし、お父様は大爆笑していた。


「やっぱり二人が来てくれると、家が明るくなっていいね」


「ソロモンの真似をしてみたんだけど、似合わないかな」


 バーバラが目を光らせ、危険を察知した私が割り込んで阻止した。すると珍しくお父様が、みんなを急き立てた。早くビリーの話を聞きたいと言い、さっさと食堂に直行と、命じられてしまった。


「さあ、乾杯だ。イケてる男の称号を手にしたビリーに」


 乾杯と叫んで、四人共それぞれの飲み物をガブッと飲み、早速ビリーに申し込み会場の様子を、話してくれとせがんだ。

 ビリーは勿体を付けて、くせっ毛をかき上げ、ふふふと笑っている。よっぽど面白い事があったらしい。


「申し込み期間は一ヶ月間あって、僕は仕事の空いた昨日、行ってきたんだ。レジーナ邸に若い男が列をなしていた」


「前回は三千人でしょ。どのくらいが予選通過するのかしらね」


 絞り込んで3千人なのだ。今の王宮は大忙しだろう。

 お父様が、会場はどんな感じだった、と聞いた。


「王宮の大広間のドア六ケ所の前に、検査官と装置が置いてあって、力の測定で通った者だけ大広間に入れます」


「合格率はどんなだった?」


 ビリーはわざとらしく、ウ~ンと唸って、思い出すフリをした。


「せいぜい四割ってところかな」


 スープが運ばれてきて、皆が一旦静かにになった。バーバラは優雅にしかも恐ろしく早くスープを食べ終えて、続きを促した。


「判定に文句を付けて、小競り合いが起こったり、その隙に入り込もうとするのがいたりで、大騒ぎだったよ。不合格の人数が多いから」


 ビリーがものすごく自慢げなので、私は先程助けに入ったことを、後悔し始めた。


「試験はどうだったの?」


「やっぱり数学は出たよ。そんなに難しくないのから超難問まで。足切りには丁度いい感じだった。3問目か4問目がラインだと思う」


 そこでまた、かなり弾かれるのだろう。王配になるのは簡単ではないのだ。


「それを試験官に渡して、次の間に通されるのは、半分程度かな。次のテストは、政治と経済に関する問題3問と、平和共存の方法に関しての小論文だ」


 思っていたより本格的で、私を含めて全員が驚いた。給仕をしていたベルとルルも驚いている。失礼ながら、ビリーはあまり頭脳派に見えない。


「その答案を渡して控室でしばらく待つ。部屋を出る特に合格証を受け取るのは、またまた半分だね」


「ビリーってインテリだったのね。改めておめでとう。すごいわ」


 再度、わっと盛り上がって大騒ぎすると、パーシーが自分も申し込むと言い出した。ビリーと差をつけられるのは嫌だと言う。


 出場するだけで、戦うのはパスすれば問題ないと力むので、呆れてしまった。全国というか、全世界でこんな会話が交わされていそうだ。

 友達の自慢話につられて、出場した男と結婚なんて嫌だと思うのだが、当事者のリンスはどう思っているのだろう。


 でも、リンスの目にも耳にも、こんな騒動は入らないのだろう。何も知らないままなのが、やはり一番良いように思える。



 聞きたいことが一杯あったので、別室に移って、更に色々と話を聞いた。

 私の疑問は、どうやってその人数に対応しているのか、だった。計算してみたら三万人近くを受け付けることになる。


「申し込み場所は王宮だけなの?」


「他国の有力貴族の屋敷三カ所でも、受付けているそうだよ。隣国の公爵家が最大規模だね」


 バーバラが不思議そうに聞いた。


「公爵家ということは、貴族猫の男性に、王女が降嫁したってこと? でも子供が出来ないでしょ」


「それでも良いって、数代前のお姫様が強行したらしいよ。それで貴族猫の甥に跡を継がせて、今に至る」


「よく秘密が漏れないわね」


 バーバラが呆れたように言うと、パーシーがバーバラに向けて、指をくるくる回した。


「秘密を漏らさない、誓約魔法をかけているからね。君たちだってそうでしょ。だから大丈夫。それにね、こいつは猫だって言ったところで、僕らは人間でもあるんだ」


 まあね、と渋々バーバラが認めた。お前は猫だと告発しても、人間の体のときは、力が強いだけで、違いはほとんどないのだ。


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