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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第二章 ミーアの困った姉妹たち

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バーバラの前で猫になって見せた

 誘拐事件のあった次の日は、さらに忙しかった。


 朝起きると、ルルがレジーナ侯爵家からの手紙を渡してくれた。

 そこには、泥棒横丁一帯を粛清すると書かれていた。


 友人のミーアを探しに出掛けた、侯爵家令嬢であるリンスに対し、誘拐を企てたとして、国王に直訴したそうだ。捜査に当たる騎士達が一斉にあの一帯を包囲し、住人全員を逮捕する。


 人間の国が動くのと同時に、猫の国でも、あの地域を建物ごと消す準備を始めるので、今後二週間は近寄らないことと締めくくられている。


 素早い動きに、私は驚いた。

 昨日の今日、しかも朝一で手紙が届くとは思わなかった。


 朝食のテーブルでは、心配そうなバーバラと、昨日に続いて不機嫌そうなお父様が私を待っていた。

 バーバラはわかるが、お父様のあれはなんだろうと、不思議でならない。


 三人揃って食事が始まり、私は改めてバーバラにお礼を言った。

 その後に、今朝届いた手紙をお父様に渡し、内容を確認してもらった。


「お父様、バーバラに私の生まれに付いて、話したいと思います。いいでしょうか」


「わかった。食事が終わったら、私の部屋に移ろう」


 バーバラは黙って聞いている。彼女はだいぶ淑女になったわと感慨深かった。


 お父様のお部屋で、茶色の革張りソファに座り、私はグレイのクッションに体を押し付けた。今からの話にバーバラがどう反応するか不安で、落ち着かなかったのだ。


 バーバラはソファの反対側にボフッとジャンプして座り、クッションを体の周りに集めている。


 お父様が一人掛けのソファに座ってこちらに向いた。


「バーバラ。私がリンスと姉妹だと言ったのは覚えているでしょ。私たちは一緒に生まれたの」


「うん、双子でしょ。似ていないけど」


「あのね、私たちは貴族猫といって、人間と猫の両方の姿を持っているの.。つまり人間とは種族が違うのよ」


「そんな事ありえないでしょ。変なミーア」


 笑い出したバーバラに、見ていてねと言ってから、目の前で青い猫になり、そのままトンとバーバラの膝に乗り、頭を擦り付けた。

 バーバラはびっくりして立ち上がりそうになり、慌てて猫の私を抱っこした。


 私がペロッとバーバラの頬を舐めると、くすぐったそうに首を縮め、頭を撫でてくれた。


 その後で、バーバラの腕の中から抜け出し、人間に戻った。青いワンピースを着ていて、それまで着ていたドレスはソファに、着ていたままの形で残っていた。


「そのワンピース、昨日着て帰ったのと同じだよね。何で着替えているのかと思っていたんだ。つまりこうやって監禁場所から逃げたってことだね」


 バーバラが興奮している。私の変身を、気持ち悪がったり、怖がったりはしていない。そのことに一安心した。


「私、猫でもあるの。わかった?」


「うん、わかった。かわいかった」


「何か質問はない?」


 バーバラは、しばらく考えてから、ハッとした様子で顔を引きつらせた。


「もしかして猫みたいに早く年を取ってしまうの? それで早くいなくなってしまう?」


 その言葉に、何故かお父様が涙ぐんだ。


「仮にでも、そんなことは言わないでおくれ。絶対にそんなのは嫌だよ」


 私はお父様の背をトントンしながら、バーバラの方を向いた。


「そんなことは無いわ。人間と殆ど一緒よ。ただ猫にもなれるだけ。お父様はとっくにご存知でしょう。泣かないで」


 バーバラはまた考えている。しばらく考えてから首を捻った。


「ねえ、殆ど人間で、更に猫にもなれるミーアが損することってなにさ」


 なんだかバーバラが怒っているような気がしたが、気のせいだろうと思うことにして、少し考えてみた。

 馬車では人の膝で寝ていられるし、縛られても逃げられるし、人間より強くて魔法も使える。


「無いと思うわ」


「ずるい。ミーアばっかり猫にもなれるなんて。私もなる」


「これこれ、ミーアのそれは生まれつきだよ。私もできればなりたいが、残念ながら純粋な人間だ。貴族猫にはなれないのだよ」


 お父様がバーバラの肩を抱き、しんみりと言った。

 その後、元は王女だったことや、リンスが次期女王だという事を話し、最後にこれは絶対に秘密だと念を押した。


「バーバラを信じているから話したの。それにバーバラは、リンスや私たちの人間離れした能力を見たでしょ。だから不思議がっているかと思ったのだけど、違う?」


 ああ、そういえばとバーバラが独り言を言った。


「リンスったら、あんなに細くて弱っちいのに、すんごく強くて、あたし目をむいたよ」


 バーバラが少し淑女でなくなっている。バーバラは、興奮すると淑女がどこかに行ってしまうのだ。でも今は仕方がないと、私は何も言わないことにした。


「パーシーとビリー、ナタリー先生は貴族猫よ。それからリンスの周りの人達。それから、昨日私を助けてくれたダンも」


 バーバラが思い出しながらお父様に説明した。


「リンスと二人で悪い男を退治した所に、二人で上の方から飛び降りて来たんだ。なんか変だなって思ったけど、猫なら高いところから飛び降りられるもんね」


 また、お父様が変な雰囲気になってきた。私と同様、バーバラもその様子に気が付いたようだ。


「お父様。ミーアにボーイフレンドが出来たからって、すねるのは辞めてください」


 先程までとは打って変わり、バーバラが淑女になっている。

 驚いた私は、お父様とバーバラを交互に見てしまった。お父様はバツが悪そうにビクッとし、バーバラは、腕組みしてその前に立っている。


 そういえば、私たちにボーイフレンドができたら、お父様は寝込みそうだと考えたばかりだった。本当にそれだけでご機嫌斜めだったのだろうか。

 私がマジマジと見ると、お父様が目を逸らした。どうやら当たりのようで、思わず言ってしまった。


「ただのお友達でもそれなの? それも恩人で、まだどこの誰かも知らないのに?」


 バーバラがお父様の肩を指でツンツンと突いて、ごめんなさいは? と言った。

 何となく、すごく淑女っぽく見えて、私は不思議に思った。


「悪かった......かな。お礼をしないといけない......かもしれない。万が一また会うことがあれば、ぜひ我が家にお招きしよう」


「ビリーに貴族猫の登録簿から探してもらうことになっているから、きっとすぐに見つかるわ」


 お父様の顔色が悪くなった。


「そんなにすぐ見つからないだろう。ビリーにも迷惑だよ」


「任せとけって言ってたわよ。それにオッドアイなので探しやすいと思うの」


 お父様は落ち着かなげに目を泳がせているが、二人とも助ける気はない。

 コホンと咳払いをしてからお父様がこちらの方を向いた。


「私は一度ビリーと話さなくてはいけないな」


 何を話すのか分からないけど、お父様がすごく動揺しているのはわかる。パーシーとビリーなら上手に慰めてくれそうなので、ぜひ話をして欲しい。

 それで何とか収まるだろうと思い、私はホッとした。


「そういえば、ビリーから大人の貴族猫教育を受けたか聞かれたの。そろそろ受講日程を決めないといけないわね」


「大人の貴族猫教育」


 お父様はそう呟いて、両手で顔を覆った。


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