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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第二章 ミーアの困った姉妹たち

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ダンという名前

 警備隊で私お父様は事件の報告をした。そして、犯人の住処を覚えているので、捕まえに行って欲しいとお願いした。


 私が道案内して、警備隊の騎士数人と共に泥棒横丁に行き、監禁されていた家の前に立った。


 騎士が窓から中を覗いたら、誰もいなかった。ドアは開いていたので中に入って見ると、妙にガランとしている。

 テーブルも椅子もソファやクッションもなくなっている。鍋や食器もない。

 犯人たちは、金目の物を持って逃げてしまったようだ。


 あまりにも素早いし、逃げ慣れていて驚いてしまった。

 警備の騎士達は、毎回この調子なので、なかなか犯人を捕まえられないのだと、ぼやいている。


 私が思うに、小さな子供が逃げて、警備員に通報できるのは、誘拐事件全体のほんの一部でしかない。

 殆どはそのまま売られてしまっているだろう。だから、せめて今回くらいは犯人を捕まえたいのに、と悔しくて涙ぐんでしまった。


 立ち尽くす私の足首に何かがするりと触れた。見下ろすと、グレイの猫がそこにいた。オッドアイの彼だ。

 猫はトコトコ外に出ていき、向かい側の2軒隣の家の窓枠に飛び乗った。そこで家の中を見ている。


 後を追った私は、カーテンの隙間から中を覗き込んでみた。

 そこに、あの誘拐犯達がいるのが見えた。二人揃ってもう一人の男と三人で笑っている。部屋の中には家具が積まれて、ごちゃごちゃだった。たぶん慌てて家具を移動させたのだろう。


 私はすぐに騎士達の所に戻り、斜め前の家に犯人たちがいる事を教えた。


 騎士達は家の前に並び、ドアを叩いた。すぐに家の中で、ゴトゴト音がし始めた。犯人たちが動いているようだ。

 すると、グレイの猫が窓枠からスタッと降りて、どこかに向かって走っていってしまった。

 私がもう一度、窓から中を覗いて見ると、犯人たちは裏口から外に出ようとしていた。さっきのゴトゴトいう音は、家具をどかしている音だったのだ。


「騎士様、犯人達が裏口から脱げようとしています。早く裏口に回ってください」


 この家は、両側が道に面しているようだ。裏から逃げられたら見失ってしまう。

 ドアには鍵がかかっていて開かない。家の向こう側に行くにはだいぶ遠回りしないとならない。騎士が三人、急いで走っていった。

 私達は危ないからここで待つように言われ、お父様と二人の騎士と共に、家の前でジリジリしながら待つしかなかった。


 その時、家の向こう側で人が争うような音と、倒れるような音がした。

 騎士たちが到着したにしては早すぎる。

 きっと、オッドアイの彼が犯人をのしているのだと思った。辺りはすぐにシンと静かになった。


 その後、騎士たちの声が聞こえた。


「犯人を捕まえたぞ」


 それから家のドアが中から開けられ、後ろ手に縛られた三人の男が、私達の目の前に転がり出た。騎士達は、その後ろで家の中を調べている。


 三人の内の二人は誘拐犯で、もう一人は見たことのない男だった。

 たぶん、いつもこうやって逃げているのだろう。今日だって、オッドアイ猫がいなかったら、きっと逃げられていた。


 彼は人間の姿で裏口側の道に立っていた。私は家の中に入り、積み上げられた家具を避けて歩き、少年の前に立った。


「ありがとう。犯人が逃げるのを防いでくれて」


「いいよ。この辺りに住んでいる人間は皆胡散臭い雰囲気だし、今回の犯人はどう見たって常習犯だったからね。牢屋に入れてもらわないと」


 女の子三人を家まで送り届けて、すぐにここに戻って、犯人が帰ってくるのを見張っていてくれたのかと思うと、胸がキュンとなった。

 助けに来てくれたリンスとバーバラに感じたものとは、どこか少し違うような気がするが、私にはそれがなんなのかわからなかった。

 ただ胸がドキドキして、体が温かくなったのを感じた。


「俺はダンっていう名だ。よろしく」


「私はミーアよ。よろしく。それと本当にありがとう」


 家を挟んだ向こうの道から、お父様が叫んだ。


「ミーア、何をしているのだ。早くこっちに戻りなさい」


 私が聞いたことのないような、少し怒った声でそう言って、こっちに向かってくる。ちょうどいいから、お父様に紹介して、お礼をしてもらおうと思い、お父様の方に歩き出した。


「ねえ、お父様に紹介するから一緒に来て」


「お父様って、人間だろ? 屋敷にも人間と貴族猫が混ざっていたし、どうなっているのさ、君の家」


 その会話の途中に真っ赤な顔のお父様が横にやってきた。


「ミーア、それは誰だ」


「私を助けてくれた子よ。それに、今まで犯人の家を見張っていて、裏口から逃げようとした犯人を捕まえてくれたのも彼なの」


 なぜだかお父様はぐっと詰まったような声を出した。


「それは、誠にありがとう」


 なんだか言いにくそうに、口から押し出す感じで、お父様はお礼を言った。


「ダンっていう名前よ」


 私が紹介すると、ダンとお父様は黙って見つめ合った。睨み合ったという方が正しいかもしれないが、状況が飲み込めない私は、二人の手を取った。


「一緒に屋敷に戻って、お茶でもいかが?」


 残念ながらダンは誘いを断り、またね、と手を振ってさっと離れて行ってしまったので、私はがっかりして後ろ姿をずっと目で追った。

 お父様が私の手を取り、皆のいる方に引っ張っていき、騎士たちに挨拶して家に帰ると伝えた。


 馬車に乗って家に戻るまでの間、お父様も私も、なぜか無言のままだった。

 お父様も疲れているのかなと思いながら窓の外をぼんやりと眺め、私はダンの姿や言葉を思い返していた。



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