女の子の遊びにはまった
「いらっしゃいませ。王女殿下、ミーア嬢。この度は、お二人をお迎え出来て、まことに光栄で御座います」
腰を屈めて挨拶するオーソン伯爵家のレティ夫人に、私は面食らった。こういう堅苦しい挨拶を受けるのは初めてだった。
私自身が子供なのもあり、挨拶はいつももっと軽い感じだった。今回は王女に対する挨拶なので、かなり格式ばっている。
今回、王女も一緒にとお願いしたのは間違いだっただろうか。
リンスはごく自然に挨拶を返している。さすが王女様だわ。慣れている。
今回も侍女二人と、護衛八人を伴ってきている。お出かけに護衛は二人のパターンで定着したが、今日は屋敷の内外に分かれて警護するので、人数を増やしている。屋敷の外の見張り四名、室内に同行するのが四名だ。
ミーアとリンスは、屋敷内の一室に案内された。サンルーム付きで、庭が見渡せる素敵な部屋だった。護衛は廊下のドア前に二名と庭に二名に分かれた。
広いサンルームは暖かく、明るくてキラキラとしている。
夫人は二人に庭の方を眺められる椅子を勧めた。
三人でゆっくりとお茶を飲み、一息ついた所で私は尋ねてみた。
「女の子の遊びって、どんな事をするのですか」
ティーカップをソーサーに置いて、夫人が口元をきれいなハンカチで押さえた。
「例えば、人形遊びはどうでしょうか」
私は人形を持っていないので、首を傾げた。
その様子を見て、リンスが思わずというように言った。
「まさか人形を持っていないの?」
私は驚きながら頷いた。持っていないけど、それがどうかした?
夫人が侍女を呼び、人形を持ってくるよう言い付けた。
侍女が部屋を出て行き、すぐに数人で人形を一体ずつ抱えて戻って来た。
「こういうお人形が今流行っているのを、ミーア嬢はご存知?」
お人形はものすごく綺麗で可愛かった。それぞれお顔の雰囲気が違う。
そして洋服は、ちょうど先日、ブティックで見たばかりの物とよく似た、流行のドレスと帽子を身に着けていた。
靴も靴下も同じく。そして下着も人間のものを、そのまま小さくしたものだった。おまけに小さなバッグまで持っている。他の人形はというと、毛皮のマフに手を入れ、おそろいのふわふわの帽子を被っている。
目を丸くして見つめていたら、リンスが近寄ってきた。
「お人形を持っていない子がいるなんて思わなかったわ。どうしてミーアは持っていないの?」
伯爵夫人も同じ疑問を持っている様子だ。
なぜと言われても、考えた事もないとしか言いようがない。何故か怒られそうな雰囲気だが、一応言ってみた。
「おじいさんの家にも、伯爵家にも人形はなかったわよ」
「おかしいわ」
えー、そうかなあ。
「バーバラも持っていないし、人形の話が出たことも無いわ。ビリーもパーシーも、そんな話はしないわよ」
ビリーったら、と夫人が小さく言ったのを聞き、しまったと思ったが、出た言葉は戻せない。
「この人形、生きているみたい。すごくきれいな子ね」
一体の人形を抱いてしげしげと見つめていたら、そっちに話が移っていった。
「この子はジュモー、こっちがゴーチェで、こっちがブリュよ。ミーア嬢はどれがお好き?」
私が悩んでいると、リンスがブリュを抱き寄せて、私はこの子と言った。
小さい鼻がツンとした、猫のような雰囲気の美少女は、リンスに雰囲気が似ている。
私は、一番幼い印象のゴーチェを選んだ。気が強そうな下膨れ顔が可愛い。抱っこしたら手放すのが嫌になってしまった。
伯爵夫人が、着せ替えっこしましょうと言って、大きなトランクを開けると、その中にはドレスがずらりと掛かっていて、下の方には靴が並んでいる。もう一つのトランクにはカツラと帽子とバッグが勢揃いしていた。
私の選んだゴーチェは、焦げ茶のショートヘアだったが、柔らかい金色のウイッグを被せたら別人に変身した。顔も違って見えるようになった。違う子だ。全然違う。
夢中でドレスを選び、パニエを付けてスカートが膨らむタイプのドレスを着せた。
ふわあ、なんて可愛いの。
リンスのブリュは細身のスーツに着がえていた。かっこいい。こっちもすごく素敵。夫人はジュモーに魔法使いの衣装を着せていた。演劇の役者が着るようなドレスだった。
「これが女の子の遊びなのね。こんなの初めて。帰ったら、お父様にお人形を買って欲しいってお願いします」
ブリュに手袋を嵌めながら、リンスがブツブツと文句を言った。
「この遊びを知らないなんて、ミーアったら、信じられない」
夫人は、気に入った人形の名前をカードに書いてくれた。ゴーチェだ。手作りのため、ゴーチェでも顔は一つ一つ違うので、絶対に自分で顔を見て選ぶこと。一緒に着替えをもう一組選んだ方がいい、とアドバイスが続いた。
「買ったら持っていらっしゃいな。記念に似合うドレスをプレゼントするわよ」
リンスも1枚プレゼントすると言ってくれた。
そして、自分のドレスとお揃いで、人形のドレスも作ってもらうと楽しいのよ、と更に楽しそうな事を教えてくれた。
「ミーア嬢の周囲は男の人ばかりだし、男性はそういうことに気が付かないものね」
「仕方がないわ。私が色々教えてあげる」
世間知らずのリンスを、ずっと私がエスコートしていたが、この件に関しては自分が教えられるからか、すごくふんぞり返っている。
そんなリンスも可愛らしい。夫人ともすっかり打ち解けて、手袋はレースのロングがいいとか、サテンにリボンがいいとか議論を交わしている。
あっという間に時間が経ち、王宮の侍女たちに何回も促されてから、ようやくおいとました。
絶対また来るから、と次回の約束をし、それまでに私のお人形を探すことに決まった。お人形を選びに工房へ行く時に、リンスも一緒に行くと言うので、またまた宰相に直談判することになってしまった。
次回は、自分の人形を持ち寄って遊ぶのだ。ワクワクする。
次の日、また嘆願に現れた私を前にして、宰相は黙り込んだ。
「ミーア嬢の嘆願を受け付ける係を置くことにしましょう。私では判断が難しい事が多いです。女王に相談します」
そう聞いて、ミーアはビリーを推薦したが、宰相が却下した。
お気楽なビリーでは全て通してしまいそうな気がすると言う。私はそこを狙ったのにな。
それで人選を女王にお願いすることにした。
数日後に、私が宰相を訪ねて行くと、宰相はにこにこして迎え入れてくれた。
そして、人形の工房を訪ねる許可と共に、ミーア係は王配のネイトが引き受けることに決まったと、教えてくれた。これまた、めったにないことで、前代未聞だと宰相は言う。
「私、実はものすごく驚きましたが、ものすごくホッとしたのです。王配ならその場で全て決定できますからね。即決ですよ。そして私自身は考え込んだり、価値観をひっくり返されたりしないで済みます」
こうして私は、リンスに絡む色々なことを、ネイトに相談することになった。




