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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第二章 ミーアの困った姉妹たち

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女王の決断

◇◇◇

 

 パーラーに出掛けた日、王宮に戻ってから、侍女たちは昼間の体験を、何度も感慨深く思い返していた。


 この夜、王女はなかなか寝てくれなかった。興奮して、時々猫になったりする。そして猫になって踊っているなと思ったら、そのまま寝てしまった。

 猫の姿で眠る王女も、こんなに興奮して楽し気な王女も侍女達には初めてだった。


 ベッドの真ん中に丸くなって寝る王女を、ひざ掛けでくるんで差し上げてから、二人でゆっくりとお茶を飲んだ。


「緊張したけど、楽しかったわね」


「そうね。何にも問題なかったわね。なんで、今まで駄目なのだったかしら?」


「解らない。考えたことが無かっただけかしらね」


 王女のドレスは、今まで王宮御用達の者をこちらに呼んで、自分たちが選んだものであつらえていた。王女が自分で選んだことなど一度もないし、着せたドレスに何か言うことも一切なかった。


 大体、この部屋にいるだけで、誰かに見せることがないため、気にしたことも無いのだろう。


「今日、街で、すごく褒められていましたね」


「王女様、可愛いですもの。当たり前だわ。次はもっともっと、可愛くしてお出かけしなくてはね」


 いつの間にか侍女たちも、お出かけを楽しみに思うようになっていた。



◇◇◇



 女王は宰相からの手紙に目を通していた。

 またミーア。

 最近ミーアの名が頻繁に耳に入る。


 今度は貴族猫の家に遊びに行く許可についてだ。

 さて、どうしたものだろう。

 女性だけに限定すれば、問題はないとは言え、王女をここまで自由に行動させたことは、いまだかつてない。自分自身もなかった。宮殿の中だけで暮らし、宮殿に来る者だけと接する生活をしていた。


 そして、それについて考えたことはない。


 先日のパーラーは概ね好評だったようで、侍女たちも護衛たちも良い報告を上げてきている。実際にやってみて、全く不都合が無かったことで、次回のブティックについても了解したが、特定の貴族の家との交流はどうなのだろう。


 今までの女王は、まさに女王として、たった一人で全貴族猫の上に君臨している。

 誰とも特別な関係を持たないので、誰にも特別な感情を持たないし、全部の貴族猫に平等に接することが出来る。

 王女の時から、一部の貴族猫たちとのみ、特別な関係を持った場合、それはどう影響していくのだろう。

 人間界を見ると、それは当たり前に行われているようだ。自分に近しいものを重用し、便宜を図り、そのくせなぜか裏切られたりすることもあるようだ。

 私達、貴族猫には理解できない構造だが、人間界では理解されているようで、それをやめようとする様子もない。だから何回もそれによる争い事が繰り返され、時に血が流れ、国が乱れ、民が迷惑をこうむる。全く懲りない種族だ。


 だが、我々は貴族猫だ。考え方も生活も、哲学も人間とは違う。これは、どうしたものだろうか。


 宰相からの手紙を手に考え込んでいたら、夫が横に立ち、肩を抱いて来た。


「何を、難しい顔をして考え込んでいるの? 珍しいね」


「ミーアが、貴族猫の家に王女と一緒に遊びに行きたいそうなの。それを了承するか、却下するか悩んでいるのよ」


 ネイトは微笑んだ。ミーアも彼の子だ。しかもたった二人の子の内の一人だ。少し興味があるのだろう。


「おもしろい子だね。ちょっと興味が沸いて来たよ」


「嫌だけど、あなたの子供だものね。本能で、あの子を恋愛の対象からは外しているでしょうから、興味は許してあげる」


「君以外は、恋愛の対象外だよ。で、どうする気なの。王女の交流を許すの?」


 女王はもう一度考えた。自分が王女から女王になった時、自分の周囲にいる者は、王宮に勤める者達だけだった。それで問題は無かったし、その者達に特別に何かの特権を与えることも無かった。そう考えれば、一部の者達と交流をしたからと言って、何か困ることが起きるとは思えなかった。


 王女が女王になることは変わらないし、王女の伴侶は大会の勝敗で決まるので、そこにそれまでの付き合いは反映されない。王配になった者は、その瞬間から家族との縁が切れてしまうので、その後の付き合いはとてもあっさりしている。


 ふうっと息を吐き、女王は決定した。

 この変革を進めてみよう。いつも、いつまでも同じ事の繰り返しがいいとは限らない。やってみて問題が起これば修正すればいいのだ。


 手紙に了承の印を押し、その横に、監視役を付けて様子を報告すること、問題が起こりそうなら、すぐに知らせることと大きく書いた。

 それを控えている侍女に渡してから、夫に向きあった。


「認めることにしたわ。やってみましょう。ミーアの提案はおもしろいわ」


「たぶん、ミーアは君に似ているんだよ。従来と違う事にひるまないその性格がね」


 ネイトは楽しそうに笑った。



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