次のお出かけ
リンスはこれ以上ないくらいにかわいかった。
イチゴパフェを前に、頬を赤くして目をウルウルさせ、大事そうに上から順番に「イチゴ、次は生クリーム、次はバニラアイス、イチゴのアイス」と言いながら口に運んでいる。
侍女たちも嬉しそうだった。「不思議ね」と言い合いながらチョコレートパフェを食べている。
「王宮のデザートは、これを皿に並べて出しています。アイスも、フルーツも、チョコレートも同じことなのに、こうしてフルート型のトールグラスに盛ってあると、なぜこんなに浮き浮きするんでしょう」
私は、張り切って答えた。
「お皿に並べるより、たくさん入るからよ。それに、こんなに近くで話をしながら一緒に食べることはないでしょう」
貴族は大きい長テーブルで、ゆったりと間を取って座り、給仕してもらいながら食事をする。こんな風に、すぐ近くに座って食事をすることは少ない。
少し頭を寄せ合い、くすくす笑いながらパフェを食べるのは、全然別の楽しさがある。そして、食べながら外を歩く人を眺める。
ミーアは、リンスに聞いた。
「あの女の人、きれいな帽子ね。確か今の流行りの形よ。知っている?」
「いいえ、私は外に出ないから、流行りはわからないわ」
私は力強く言った。
「よし、次はブティックよ。流行りのお洋服を選びっこしましょう。それとも、ビリーの家に女の子の遊びをしに行きましょうか」
「女の子の遊びって何?」
「知らないの。でも誘われているから、一緒に行きましょう」
慌てて侍女が止めに入った。
「ミーア様。人間の家に行くのは駄目です。危険すぎます」
「大丈夫よ。ビリーは貴族猫よ。それで人間の伯爵家の三男で、今は王宮で働いているわ」
だからっていいわけでもないのだが、とりあえず貴族猫だと聞いて、侍女たちはほっとしたようだ。
「じゃ、まずはブティックね。次はブティックに行きましょう。また宰相に聞いておくわ」
「うん。わかった。次はブティックね」とリンスは笑顔になった。
「え、今度はブティックですか?」
「そう、ブティックよ。何か問題がある?」
「ある……? はずなのですが]
そう言った後に、侍女二人は「困ったことに、問題が見あたらないわ」と言い合った。
「ミーア嬢にかかると、今までの当たり前が、突然馬鹿げたものに見えてきてしまって、戸惑います」
侍女二人は、王女の生活の変化を心配して不安そうだったが、横のテーブルの騎士達は、「ブティック、楽しみね」と盛り上がっている。
「二人共美少女でいらっしゃるから、目の保養だわ。次回もぜひ私がお供に」
そう楽しそうに言い、順番の決め方を相談し始めた。
次の日、さっそく私は宰相の元を訪れた。いつも通りの気楽な訪問方法で。
「宰相様、今日は。今いいかしら?」
「ミーア嬢、こんにちは。昨日は何事もなく、パーラーで楽しく過ごせたようですな。よかったです」
「ありがとう。楽しかったわ。それでね、次はブティックに行くことに決まったの。パーラーの数軒横の、私が買い物に行くブティックよ」
は? と言って宰相が、書類をめくる手を留めた。
「次回はブティックに行くので、その連絡と、確認することがあって来たの。
王女は自由にドレスを買えるのかしら?」
「ドレス?」と言いながら、横にいる秘書に王女の経費に関する書類を出すよう指示する。
秘書が書類棚からフォルダーを探し、宰相に渡すと、それを開いてじっくりと眺める。
「王女の衣装費用に関しては、問題はありませんから、何着でも買えますが。なぜブティックなのですか? 今まではお抱えのデザイナーが王宮まで出向いていたはずです」
「他のお店のドレスも見てみたいじゃないの。最新流行も知りたいし。それに王女様に似合うドレスを私が見繕ってあげたいの」
そう言って、私は宰相の顔をじっと見つめた。
宰相は、既に負けを悟ってあきらめ顔だ。
反対する理由が、これにも見当たらないのだろう。伯爵家の令嬢である自分が使っているブティックだ。対応もしっかりしているので、文句が出るような店ではない。
それに、私のドレスはいつも素敵だと言われる。
宰相を見つめていて、要求が通ったと判断した私は、護衛の数を減らす話を持ち出した。
昨日は目立ちすぎたため、十六人を別の場所に待機させた話をし、多くて四人までという要求を突き付けた。これは、即通った。
宰相からは六人と言っていたそうだ。いくら何でも二十人では、何事かと思われるだろう。
そしてもうひとつの要望、ビリーの家に一緒に遊びに行く案に付いて。
「私の連絡係をしてくれていたビリー・オーソンのお母様が、遊びにおいでと言ってくれているの。王女も一緒に遊びに行っては駄目かしら」
「えっ。貴族猫の家にお呼ばれですか」
「そう、女の子の遊びをしに行くの」
王女をあまり外部の者と接触させない一番の理由は、結婚するまでに異性と恋愛関係になると困るからだ。だから、男性との接触を極力減らしたいのは理解できる。
逆に言えば、女性との交流は別に問題がないわけだ。
宰相はじわっと汗をかいている。
私がじーっと見ていると、宰相はどんどん困り顔になっていった。
「わかったわ。少し考えてください。急いで決めないといけないことではないもの。
娘がいないビリーのお母様が、女の子だけで女の子の遊びをしたいんですって。私もお母さんがいないから、そういうの知らないし、王女もそうでしょ。だから一緒に遊びたいなと思ったのよ」
そう聞いて宰相はどこかが痛むようなしかめ面になった。
ううっと辛そうな声を漏らすのを聞いて、私はおいとますることにした。
「じゃあね」
声を掛けて、部屋を出る時に宰相をちらっと横目で見ると、何かを考えていた。そう、もっと考えてみてね、と私は心の中で語りかけた。




