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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第二章 ミーアの困った姉妹たち

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初めての友達との初めてのお出かけ

 三回目の王女訪問の前、私は宰相に面会の申し入れをした。


「ミーア嬢。今日は珍しく正式な手順でのご訪問で、何か、その、嫌な予感がするのですが」


 宰相は落ち着かなげだ。

 いつもなら、ものすごく気軽にドアをノックし、宰相様、今いいかしら? という感じで、この部屋を訪れているのだ。

 それは私の特殊な立場と、初めからの流れで、捨てられ猫姫のミーア対応を宰相がしているという関係からくる。


 壁際に机が並び、事務官が三人机に付いている。そのうちの二人が、内容を筆記しているようだ。


 私は軽くお辞儀をした。


「宰相様。今日は王女様の友人として、お願いをしに参りました」


「では、王女様のご友人ミーア嬢。ご要件をどうぞ」


「次回の訪問では、一緒にパーラーに行きたいので、許可をください」


 宰相は、きょとんとした。書記たちも顔を上げて、手を止めている。


「パー、ラー、ですか?」


「はい。パーラーです」


「何故か聞いていいですか?」


「パーラーでイチゴのパフェを食べるんです」


 う、と言った後、何か一生懸命考えている。


「宮殿で作って出すことができますが」


「それは違います。おしゃれして道路沿いのおしゃれな席に座って、道を歩く人や、お店にいる人達を眺めながら食べるんです」


「今まで公式行事以外の外出は、したことがありません。そんなことは前代未聞です」


 私は淡々と聞いた。


「何か不都合があるのですか?あるなら教えてください」


 それは、と言い掛け、宰相が固まった。

 王女がパーラーに行ってはいけない理由?

 考えながら、宰相が挙げていく。

「危険があるから?」


「パーラーで危険を感じたことはありません。もし心配なら護衛を付けたらいいでしょ」


「うう、他には、パフェに毒が入っているかも?」


「毒が入る理由がわからないけど、私が毒見します」


「王女を見た悪い人間が攫おうとするかも」


「貴族猫界の護衛はそんなに弱いのですか?」


「まさか。人間の3倍は強いです。絶対に負けるはずありません」


 私はニッコリ微笑んだ。


「それなら大丈夫ですね。次回はパーラーにお出かけします。問題になりそうなことが見つかったら言ってください」


 宰相は書記に向き直り、何か反論を思いつかないか聞いた。

 三人共首を振っている。


「今まで外部の飲食店に行ったことはあります。公式行事の流れでレストランやホテルに入るなど。だが全て女王達と一緒で、王女のみで行動したこと自体がないのです。

 それは何故かと聞かれると、今までなかったからとしか言えないのですが......」


 宰相は断る理由を考えるのを諦めた様子で、女王に送る書簡を書きましょうと答えた。 


 私はもう一度、きれいにお辞儀をして、さっと部屋を出ていった。

 やった、一緒にパーラーに行ける。


 家に帰るとすぐ、お父様にパーラーの予約を頼んだ。いつもの席で、侍女二人の他に、護衛が二人くらい付いてくるかもしれないと言っておいた。

 お父様は、窓辺の席と、もう一つテーブルを予約してくれた。


 後日、それは了承を得たと、宰相から連絡が入った。宰相は、胃が痛くなりそうです、と手紙に愚痴を書いていた。



 お出かけの日、私が馬車でレジーナ侯爵邸に着くと、女性騎士が門付近に二十名ほどうろついていた。いやな予感を覚えたが、無視することにした。


 考えたくない。


 王女に取り次いでもらうよう頼むと、すぐに王女と侍女二人がエントランスに降りて来た。

 王女はスカートを3枚も重ねたような、素晴らしく可愛らしいドレスを着て、帽子を被っている。巷で流行っているお人形さんのようだ。


 ただ、両横に立つ侍女達の顔が怖い。引きつっていて、戦いに出向く戦士のようだ。ドレスも短めでゴツいブーツを履いている。この様子だと、武器なんかも持っていそうだ。


「こんにちは。いいお天気でよかったですね。今日を楽しみにしていました」


 王女は珍しくソワソワしている。手に持った可愛いバッグの持ち手をニギニギして、足踏みなんかしている。我が姉ながら、可愛すぎる。


 四人で馬車に乗り込むと、その後ろに騎馬の騎士達が、2列で付き従ってきた。


「あのお、護衛の方用のテーブルは四人掛けを一つしか予約していないのです。この人数は入りません」


 私が説明すると、侍女の一人がキッパリと言った。


「店に入れないものは、外で警備に当たります。だから大丈夫です」


 なんだか、言ってもだめな気がした。そのうち慣れたら減るだろう。

 私は早々に諦めた。


 街中に入ると、この一行はさすがに目立ってしまった。人目に立ちすぎるのはどうでしょうか、と私が言うと、侍女も考える顔になった。

 一旦馬車を止め、八名だけ馬車に従い、後は距離を開けて付いてくるよう指示した。ここで私はすかさず、大きな声で主張した。


「四名だけです。後は離れて付いて来てください。四名だけでも十分に目立ちます。なるべく目立たないほうがいいと思います」


 私の忠告が通った。騎士を四名も従えてパーラーに来る客なんて、見たことがないのだ。まして八名なんて。その後ろにまだ十二名いるけど。


 通行人が、何事かと足を止めているなか、二人が侍女に手を取られ、馬車から降りた。周囲からホーッという感嘆の声が漏れる。

 王女のスカートがふわっと空気をはらんで舞い上がる。グラデーションの付いた三枚のスカートは、開く途中のバラの花びらのようだ。レースの靴下と赤い靴と一緒に、細くて白い脚が少しだけ見えた。


 私は侍女達に、とってもセンスがいいわ、と労った。

 二人は、今日初めて微笑んでくれた。


 通行人たちは、美少女の王女に見とれていた。彼女は目立つことこの上ない。

 やじ馬たちは、周囲に女性騎士が四人もいるのに納得して、口々に言った。


「これじゃあ、親御さんも心配するよ。良い家の娘で、しかもこんなに可愛いのだもの」


 私が先にお店に入り、いつもの店員さんに挨拶して、いつもの席に案内してもらう。窓辺の席に二人が座り、その横に侍女が一人ずつ座った。


 護衛の騎士は隣のテーブルに四人で座った。他のお客さんたちは興味深げにこの一行を見ている。

 ここでも、ものすごく目立った。

 超の付く美少女に品が良いが怖い顔付きの侍女、キリッとした美人騎士四人。目立たない訳がない。

 

 そのうち、外にその他十六人が集まって来た。


「できたら離れた所で待機させてもらえないでしょうか。目立ちすぎて危ないわ」


 侍女が折れた。ものすごく目立っている。それが嫌というほど分かったからだ。

 騎士の一人に声を掛け、外の騎士たちを移動させるよう言った。


「騎士のお姉さんの分も注文しておくね。イチゴとチョコとプリンのどれがいい?」


 私が聞くと、すぐにチョコを選んだ。そしてニコニコしながら店の外に出ていった。


「さあ、王女様も選んで。あ、王女様って外で言わないほうがいいのよね。なんて呼べばいいの?」


「プリンセス・ブルーでは駄目?」


「駄目。プリンは? 苦手だったわね。じゃあ、リンス?」


 王女がぴくんとなった。猫の姿だったら耳が前に整列しているだろう。


「気に入った?」


「リンスね。ええ、気に入ったわ」


 ミーアは侍女たちの方を向いて、リンスって呼んでみてと頼んだ。


「リンス様ですか? きれいな名ですね。リンス様、いかがですか?」


 うん、いい感じ。王女によく似合っている。


「じゃあ今日からリンスって呼ぶね。リンス、どれにする?」


 リンスはイチゴ、私はプリン、侍女達はチョコレートのパフェを頼んだ。私はいつも通り、二人に一個当てで、クレープシュゼットも頼んだ。


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