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からくりピエロと大罪の姫  作者: 深月(由希つばさ)
エピローグ

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37/37

5.5-2

 そうして──

 トトは、(なが)旅路(たびじ)の果て、アメリアに()った。

 現実感のない次元の狭間(はざま)にトトはいた。

 どうしてここにいるんだっけ、とトトは思った。

 思い出した。

 魔王と戦った末、相打ちになったのだ。

 トトを抱きしめてサフィアが泣き(さけ)び、その涙を(ぬぐ)ってあげようとして……そこから先の記憶がない。

 でも、サフィアを守れたのなら、いい。

 そのために、アメリアの力の宿った銀の(かぎ)を使って巻き戻しの魔法に干渉(かんしょう)したのだから……。



(せっかく死んだんなら、アメリアにも()えればいいのに……)



 トトは苦笑した。

 そのとき、(なつ)かしい声がした。



「巻き戻しの魔法が、もう少しだけ、残ってたみたい。また()えたね、トト」


「……アメリア?」



 トトは目を(みは)った。

 聖剣ステラの覚えている『五百年の少女』が、そこにいた。

 一緒に旅をしていた頃の合金鎧(ごうきんよろい)(まと)った姿。

 はにかむような笑顔も、昔のまま。

 トトはゆったりと笑みを広げた。

 とても穏やかな気分だった。

 旅をしていた頃のくるおしいほどの(いと)しさも胸に(よみがえ)ってきた。



「魔王、倒したよ」


「うん」


「キミが夢見た、平和な世界を、見てきた」


「うん」



 アメリアが泣き笑いのように(うなず)いてくれる。

 君のこと、ずっと見てきたよと、その笑顔が語っていた。

 それだけでもう十分だと、トトは思った。



「あとはサフィアが引き()いでくれる──ボクたちの願いを」



 アメリアの両手がトトの(ほほ)を包み込み、ついばむように口づけをした。



「私の願い、叶えてくれてありがとう。でも、今度は君の願いを叶える番だよ」


「ボクの?」


「そう、君の」


「……?」



 トトは首を(かし)げた。

 その様子に、アメリアは笑った。

 輝くような笑顔で。



「ふふっ。トトは(よく)がないなぁ。これから捜していけばいいよ。君にはもう、こころがあるんだから……」



 アメリアはトトの左胸を()でた。

 その確かな鼓動(こどう)に耳を()ませて、(なつ)かしい少女の(まぼろし)は、今度こそ剣の記憶の中に溶けていった。

 きっともうしばらく聖剣ステラの中で眠り続けるのだろう。

 トトもゆっくりと目を閉じた。



  ☆☆



 神聖スカイアーク城の片隅(かたすみ)にある礼拝堂の裏手に、人知れず、小さな奥棟(おくとう)がある。

 カーテン越しにゆったりと陽の光が差し込むその部屋に、青年は横たわっていた。

 その(かたわ)らには、(きぬ)のドレスに身を包んだ栗色の髪の少女が、泣き疲れて眠っている。

 やがて──

 青年はゆっくりと目を開けた。

 頭がぼんやりして、しばらく、自分がどこにいるのかわからなかった。

 (かたわ)らの少女の(ほほ)に涙の(あと)があった。疲れ果てた目の下の(くま)痛々(いたいた)しい。



「あ……(いた)たたた……」



 胸に巻かれた包帯(ほうたい)から血が(にじ)んでいる。生きているのが奇跡(きせき)みたいな傷だ。

 少女の(ほほ)を伝う涙の(あと)(ぬぐ)おうとしたら、起こしてしまった。

 飛び起きた少女が驚いたように目を(みは)る。

 見る見るうちに新しい涙が(ほほ)を伝った。



「……トトのバカ! 大賢者様がけつけてくれなかったら本当に死んでたんだからぁ!」


「……ごめん」


「死んじゃうかと思った。今度こそ本当に死んじゃうかと……なんで笑ってるのよ。トトのバカバカバカ!」



 泣きながら怒り出すサフィアに、トトは面食らった。

 ──そうだった、と微笑した。

 この少女は、泣きながら怒ったり心配したりするのだ……。

 死なないから大丈夫、とはもう言えなかった。

 心臓はトクリ、トクリと規則正しく脈打(みゃくう)っている。左胸で。

 トトは、なんだか(めずら)しいものを自分の中に飼っている気分になった。

 五百年ぶりに取り戻した、かけがえのない宝物だった。

 そのとき、こころに()き立ったさざ波が(あふ)れて、トトのまなじりを(つた)って落ちた。



「……あれ?」



 トトはびっくりしてまなじりを(こす)った。

 後から後から流れてくる。



「あれ? ……あれ? おかしいな。悲しくもないのに涙が出る」



 トトは困って少女を見た。

 驚いたのはサフィアも同じだったが、やがてにっこりと微笑んだ。



「トトったらもう……泣きたいときは泣けばいいんだよ」


「えーっ、ちょっとサフィア。これ止めてってば。笑ってないで、ねぇ!」



 トトはただならぬ事態に弱り果てている。

 サフィアは笑った。久しぶりに。

 なんだかんだ言って、トトはトトだ。そう思った。

 やっと帰ってきたのだ。現代(このせかい)に……。

 やがてトトもつられて、二人で泣き笑いの大合唱になる。

 驚いた小鳥たちが木々から飛び立って行った。


 平和を取り戻した世界の片隅(かたすみ)──

 二人だけの小さな部屋に、(ほが)らかな笑い声が響いていった。



☆おしまい☆


ご愛読、本当にありがとうございました!!

よろしければ評価・感想・レビューをいただけると、とても喜びます(*´ω`*)♪♪


次回作『魔法使いと業火の娘』も近々、掲載予定です。

またお会いできるのを心待ちにしています(^^)

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― 新着の感想 ―
[一言] 何とか次回作が載る前に何とか読み終えました。何かもう──圧巻、ですよね。 全体を通して物語に筋が通っていて、その筋に沿って全力で書いているのを読んでいて感じました…。 ストーリーについても…
2020/01/04 21:50 退会済み
管理
[一言] 幸せだなあ。 本当にこれだけ作品世界に浸れたのは久しぶりです。 これだけの物語を読むと自分もまじめに書こうと反省しますね(笑) トトくん、良かった。 いい歳したおじさんが泣きそうになった…
感想一覧
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