5.5-2
そうして──
トトは、永い旅路の果て、アメリアに逢った。
現実感のない次元の狭間にトトはいた。
どうしてここにいるんだっけ、とトトは思った。
思い出した。
魔王と戦った末、相打ちになったのだ。
トトを抱きしめてサフィアが泣き叫び、その涙を拭ってあげようとして……そこから先の記憶がない。
でも、サフィアを守れたのなら、いい。
そのために、アメリアの力の宿った銀の鍵を使って巻き戻しの魔法に干渉したのだから……。
(せっかく死んだんなら、アメリアにも逢えればいいのに……)
トトは苦笑した。
そのとき、懐かしい声がした。
「巻き戻しの魔法が、もう少しだけ、残ってたみたい。また逢えたね、トト」
「……アメリア?」
トトは目を瞠った。
聖剣ステラの覚えている『五百年の少女』が、そこにいた。
一緒に旅をしていた頃の合金鎧を纏った姿。
はにかむような笑顔も、昔のまま。
トトはゆったりと笑みを広げた。
とても穏やかな気分だった。
旅をしていた頃の狂おしいほどの愛しさも胸に甦ってきた。
「魔王、倒したよ」
「うん」
「キミが夢見た、平和な世界を、見てきた」
「うん」
アメリアが泣き笑いのように頷いてくれる。
君のこと、ずっと見てきたよと、その笑顔が語っていた。
それだけでもう十分だと、トトは思った。
「あとはサフィアが引き継いでくれる──ボクたちの願いを」
アメリアの両手がトトの頬を包み込み、ついばむように口づけをした。
「私の願い、叶えてくれてありがとう。でも、今度は君の願いを叶える番だよ」
「ボクの?」
「そう、君の」
「……?」
トトは首を傾げた。
その様子に、アメリアは笑った。
輝くような笑顔で。
「ふふっ。トトは欲がないなぁ。これから捜していけばいいよ。君にはもう、こころがあるんだから……」
アメリアはトトの左胸を撫でた。
その確かな鼓動に耳を澄ませて、懐かしい少女の幻は、今度こそ剣の記憶の中に溶けていった。
きっともうしばらく聖剣ステラの中で眠り続けるのだろう。
トトもゆっくりと目を閉じた。
☆☆
神聖スカイアーク城の片隅にある礼拝堂の裏手に、人知れず、小さな奥棟がある。
カーテン越しにゆったりと陽の光が差し込むその部屋に、青年は横たわっていた。
その傍らには、絹のドレスに身を包んだ栗色の髪の少女が、泣き疲れて眠っている。
やがて──
青年はゆっくりと目を開けた。
頭がぼんやりして、しばらく、自分がどこにいるのかわからなかった。
傍らの少女の頬に涙の跡があった。疲れ果てた目の下の隈が痛々しい。
「あ……痛たたた……」
胸に巻かれた包帯から血が滲んでいる。生きているのが奇跡みたいな傷だ。
少女の頬を伝う涙の跡を拭おうとしたら、起こしてしまった。
飛び起きた少女が驚いたように目を瞠る。
見る見るうちに新しい涙が頬を伝った。
「……トトのバカ! 大賢者様が駆けつけてくれなかったら本当に死んでたんだからぁ!」
「……ごめん」
「死んじゃうかと思った。今度こそ本当に死んじゃうかと……なんで笑ってるのよ。トトのバカバカバカ!」
泣きながら怒り出すサフィアに、トトは面食らった。
──そうだった、と微笑した。
この少女は、泣きながら怒ったり心配したりするのだ……。
死なないから大丈夫、とはもう言えなかった。
心臓はトクリ、トクリと規則正しく脈打っている。左胸で。
トトは、なんだか珍しいものを自分の中に飼っている気分になった。
五百年ぶりに取り戻した、かけがえのない宝物だった。
そのとき、こころに湧き立ったさざ波が溢れて、トトのまなじりを伝って落ちた。
「……あれ?」
トトはびっくりしてまなじりを擦った。
後から後から流れてくる。
「あれ? ……あれ? おかしいな。悲しくもないのに涙が出る」
トトは困って少女を見た。
驚いたのはサフィアも同じだったが、やがてにっこりと微笑んだ。
「トトったらもう……泣きたいときは泣けばいいんだよ」
「えーっ、ちょっとサフィア。これ止めてってば。笑ってないで、ねぇ!」
トトはただならぬ事態に弱り果てている。
サフィアは笑った。久しぶりに。
なんだかんだ言って、トトはトトだ。そう思った。
やっと帰ってきたのだ。現代に……。
やがてトトもつられて、二人で泣き笑いの大合唱になる。
驚いた小鳥たちが木々から飛び立って行った。
平和を取り戻した世界の片隅──
二人だけの小さな部屋に、朗らかな笑い声が響いていった。
☆おしまい☆
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次回作『魔法使いと業火の娘』も近々、掲載予定です。
またお会いできるのを心待ちにしています(^^)




