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16.部屋

そのまま光司さんの部屋で会う事になった。

待ち合わせの場所が外ではないのは彼が人には聞かれたくない話をするからだろう。

ある程度見映えする格好に慌てて着替えて、光司さんのマンションに飛んでいく事になった。


チャイムを押すと彼が出迎えてくれた。

部屋着なのだろう、いつもよりずっとラフな格好だ。

それでもジーンズとシンプルなカットソーが良く似合っている。

なんだか新鮮で思わず目線で追いかけてしまった。


光司さんは飲み物として、麦茶を出してくれた。

ソファーに座っている私のすぐ隣に彼は座った。

意識しすぎかもしれないが、妙に距離が近い気がする。


「恭子に絡まれたって本当か?」

「恭子?」

「惚けるな。俺の幼馴染だよ。」

ああ、最後まで私に名前を名乗らなかった彼女か。

そう思い当たるのと同時に光司さんは下の名前で呼ぶのかと胸が痛くなった。


「あいつから電話が掛ってきてな。俺の婚約者に意見してやったと言われた。」

「あの、私は何も…。」

「分かっている。大方、思い込みの強いあいつが暴走したんだろ。」

彼はそこで一旦、言葉を切った。

それから思い切ったように口を開いた。


「最近よそよそしかったのはその所為か?前からあいつに何か言われてた?

それとも何か嫌がらせでも、」

「違うんです!」

私は咄嗟に声を張り上げた。

そんな勘違いをされては堪らなかった。


顔を上げると光司さんと目があった。

どう説明すればいい?

どうすれば誤解されずに済む?

頭が上手く回らなくて、何を言っていいか分からなかった。


「それじゃあ、好きな男でもできたか?」

そう問い詰められて、一瞬息を吸うのをやめた。

同時に恋人でもないのに何でこんな詰る様な聞かれ方をされなくちゃいけないんだと腹が立った。


「やっぱりか。どんな奴だ?」

「何でそんな事を話さなくちゃいけないんですか?」

我ながら酷い声だ。

それでも光司さんを睨みつける様にしてそう言った。


「あんた今までずっと独りで頑張っていた口だろ。」

急に話題を変えたのかと思った。

けど違った。


「俺も似た様な感じでずっとやってきたから、放っておけねーんだよ。

甘えるのが下手だからこそ、優しくされた奴が現れたらあっさり惚れちまいそうで危なっかしい。」

「妹みたいなものと言うことですか。」

何で自分からこんな事を切り出さなくちゃいけないんだろう。

それでも光司さんの目には、それこそ彼の幼馴染の様な嫉妬は欠片も見当たらなかった。


「妹ね…。」

彼は考える様にして、顎に手をやった。

そうして、思考をまとめる様にしながら話し始めた。


「あんたしっかりしているから本音で話しやすいんだよな。

可愛いし、線が細いから守ってやんなくちゃと思っているけど、時々年下なのに姉っぽいし。」

光司さんは淡々とした声で話した。

少し恥ずかしいのだろう、耳が赤くなっている。


「身内みたいなものだと?」

「そう。」

光司さんはあっさりと肯定した。

それは間違いなく、彼の好意の形だ。

そして私はそれを踏みにじる覚悟をした。

彼の幼馴染の様に燻った気持ちを他の誰かにぶつけるのはごめんだ。


指先が冷たくなる。

自分が緊張しているのが分かる。


「光司さん、私には好きな人がいます。」

「俺の知っている奴?」

「ええ、貴方が誰より良く知っている人です。」


私はそこで一呼吸置く。

彼は勘づいたのか目を大きく見開いた。


「私が好きなのは光司さん、貴方です。」


空気が止まったかのような一瞬の後、光司さんはすぐに自分を立て直した。


「あんた、勘違いしているんだよ。今ままで男と親しくなった事はあんまないんだろう?

そこにたまたま俺が、」

「私の気持ちを決めつけないで下さい。私なりにたくさん悩んだ気持ちです。

受け取ってくれなくていいんです。せめて否定はしないでください。」


彼は唖然としたような顔でこちらを見ている。

どう考えても、告白された男の人の顔じゃないなと思うと何だか笑えてきた。


「分かっているんです。こんな気持ち、貴方の迷惑にしかならないって事。」

「そんなことない。」

「そんなことあります。」

私は言下に否定をした。

こんなことは何回も何回も考えた事だ。

それで何回眠れない夜を過ごしたか覚えてすらいない。


「婚約者の振りをしている女性が光司さんの事を好きだなんて言うなんて面倒ですよね。

これでは本末転倒です。私はこのまま結婚して欲しいとか強請っている訳じゃありません。

将来は自由になりたいって話してくれましたよね。あれ、嬉しかったです。

光司さんの内側には入れた様な気がして。」


彼は複雑そうな顔でこちらを見ている。

それでも話をするのは止められなかった。


「貴方が家から離れられるまで、傍に置いて欲しいんです。今まで通り、良い友人として。

それ以上は望んでいません。光司さんが私の事を女性として見ていないのはよく分かっています。」

そこで、私は話をするのをやめる。

勢いで話さないと、こんなことはとてもじゃないが言いだせなかった。


「俺とキスとかそれ以上をしたい訳?」

光司さんは静かな眼差しで私を見てきた。

だから、羞恥心は感じなかった。

黙って静かに頷いた。


「勘違いとかじゃなく?」

「ええ。」

彼が私の頬に手を寄せる。

それに素直に従って、光司さんと目と目が合う。

頭は妙に冷静なのに、鼓動が跳ねているのを感じてどうしていいか分からなかった。

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