第十一節 希望と絶望 1-3
草木すら眠りにつく丑三つ時。
屈強な警備兵たちも、疲れから来る睡魔の誘惑に次々と落ちる。
馬車にもたれかかり、転寝をしている警備兵の腰に下がる鍵に伸びる手。
カチッ
小さい音が辺りに響く。
マール監獄長が就寝する部屋とは別の部屋に繋がる扉。
奇妙な風貌の囚人が囚われたその部屋の扉が静かに開いた。
暗闇に支配された部屋の中、誰かが動く気配を感じる。
「アン」
静かに呼びかける声。
「……ダニ……エル?」
少しふらつきながら、その声の主はゆっくりと近づいてきた。
部屋の中に入り込む月明かり。
月明かりが照らし出したのは、あの日貨物列車の停留所で離れ離れに以来、幾度も会いたいと願ったその人の姿だった。
「あぁぁ……本当にダニエルなの?」
声を震わせて、一歩また一歩と確かめるように歩み寄る。
目の前に立つ、その人と別れたのはいつの事だったか。
小刻みに震える白く細い指が頬に触れる。
その手を握り締めながら答えた。
「俺だよ」
「会いたかった! 会いたかったよ! あの日からずっと……ずっと」
感極まった……そんな響を含みながら何度も言葉が零れ落ちた。
「俺も会いたかった」
ダニエルの胸の中に顔をうずめながらすすり泣く。
そんなアンを、力強く抱きしめた。
とても細く少し力を入れてしまえば呆気なく砕け散りそうな、そんな華奢で儚いアンの身体を力一杯に抱きしめた。
「さあ、行こう」
そう言ってアンの手を取り馬車から静かに降り、その場を離れようとしたときだった。
「やはり、現れたか」
その声の響に心臓が大きな鼓動を打つ。
信じられない。
体の中に広がる恐怖。
それは、底の知れない失望感と絶望感が大波となってダニエルに襲い掛かる。
時が止まってしまったのかと思うほどの静寂が漂う。
意を決して、ゆっくりと声のする方向に振り返る。
「なぜお前がここに?」
そこにはジョンの姿があった。




