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2章-1 「檻の中」

1章のあらすじ

 世にも稀な毒属性の魔法を使う暗殺者シンシアは、17歳にして自らの毒で処刑された。国王の暗殺命令に従わず、ターゲットのリゲル第4王子のために現王権に叛逆したからである。

 ……死後、魂となった彼女は、王国が魔獣に滅ぼされる惨状を見ることになった。

 しかし、どうしてか時間は10年前に巻き戻る。悲惨な結末を見ていることしかできなかった彼女は、人生のやり直しに望むのだった。

「ほんとうに、時間が巻き戻っているんだ……」


 小さな体、汚いベット、シンシアは飽きるほど見た檻の中でそっとつぶやいた。

 

 シンシアは毒属性という忌み嫌われる性質のため、物心ついた時から檻の中で暮らしていた。

 ブランヴィリア伯爵家の周りは庭代わりに広い森になっており、そこに小屋がある。その小屋は、何人たりとも近づきたがらないシンシア専用の牢屋と化していた。

 

 シンシアは魔法で作った鏡を見ながら考える。

(子供の時は、こんな魔法は使えなかったはずだ。

 もしかしたら、記憶だけでなく魔法の技術も覚えたままなのかな?)

 

 そう考えてシンシアは、試しに魔法で弓矢を作ってみた。まず手のひらに魔力を貯め、紫色の球を作り、大きい方と小さい方の2つに分ける。片方を弓の形、矢の形にして、重ね合わせてベットの足に向かって射る。

「わぁ……っ」

(17歳の時と同じように魔法が操れる…!)

 体が小さくなっているので使い勝手は異なるが、問題なく自在に動かせることに、シンシアは感動を覚えた。


「完全に同じ調子とまではいかないけど、これなら魔法で小屋を脱出できるかもしれない。」

 

 シンシアの心に希望が浮かんだ。

 長い間なんの疑問も持たず暗殺者として働いてきたが、10年後に起きる惨状を知った今のシンシアにとっては暗殺という仕事はもうなんの価値もない。


「脱出して、暗殺者とは無縁の人生を送るんだ。」


(そしてあわよくば、国が魔獣に滅ぼされる未来を、未然に防ぎたい。1人で出来ることなんてたかが知れているけど、何もしないよりはマシだと思うから。)

 

「どうせ、次のご飯の時間まで人は来ないんだから、思う存分、練習できるし。

 とりあえず、屋敷のことはなんとかなりそうで良かった……」


 魔法が使えることに嬉しくなってベットに寝そべっていると、だんだん近づいてくる足音が聞こえた。小屋自体雑多な造りなので、よく響いて聞こえるのだ。

(ゆっくりなのに、ドタバタしているこの足音……あの世話係の人だ。)


「起きているかい?」

 例の、シンシアがかつてやり直し前に殺めた世話係が替えの包帯と着替えを持ってきてくれた。

「あ……いつもありがとうございます。」

「ほら、その服は早くぬいじまいな。洗濯するから。」

 属性のことを気にしない裏表の無い彼女の態度に、シンシアはしみじみとありがたく思った。

 シンシアは訓練以外で水浴びをさせてもらうこともほとんどないので、彼女が着る服も臭うのだが、この世話係は嫌な顔ひとつせず洗ってくれる。

 

「じゃあ、アタシはこれ洗濯してくるよ。」

「待って!ください。」

「なんだい?」

 世話係は、あまり喋らないシンシアに呼び止められたことに驚いた顔をしている。

 

「あの、お名前、教えて欲しいんです。」

 シンシアは勇気を出して名前を聞いた。やり直し前、彼女に良くしてもらったのに命を奪ってしまい、名前すら知らなかったことを後悔していたからだ。

 

「名前?アタシの?」

「……ダメ、ですか?」

「あん、いいや、グレンダだよ。アタシの名前なんて聞いてどうするんだい?」

「グレンダ……グレンダ、さん!わたし、名前をずっと知りたかったんです。」

「何だい、それ?」


 グレンダは珍しく、困ったような笑い方をした。


「理由、理由とかは、無いんですけど…」

「ふふん、アンタも普通の子供なんだね。いっつも無表情だから、感情が無くなっちまったのかと思っていたよ。」

「え、わたしってそんなに無表情、でしたか?」

「今はそうは見えないね。ちゃんと、可愛い笑顔を作れているよ。」


 そう言ってグレンダはシンシアの頬をつんつんと優しくついた。シンシアはなんだか嬉しくなって、自分の頬に両手を当てた。どうやら体の感覚に精神の年齢が引っ張られているらしい。ついつい子供っぽい行動をついとってしまう。


「アタシはもう屋敷の仕事に戻るよ。……アンタ、色々大変な境遇だろうけど、気張んなさいよ。」


「……?はい。」

(…そういえば、どうしてグレンダさんは盗みを働いたのだろう?)

 やり直し前、グレンダが殺された理由は窃盗の罪で、ご主人様の判断で処理されている。

 

(ご主人様は理由も無く人を殺すことは無い。

 基準は善悪ではなく、ご主人様に何かとって不都合があったことだけは確かだけど……)


(とにかく、このままだとわたしはグレンダさんを殺めなくてはならなくなる。)

 初めて人を殺してしまった時の衝撃を、シンシアは一度も忘れることができなかった。やり直し前もその出来事がな夢に何度も何度も出てくるほどに。

 

(それはもう二度と御免だ、グレンダさんにも生きていてほしいし。だけど、わたしがやらなくても、結果的に他の誰かが同じ役回りをするだろう。

 だからグレンダさんが何かをした原因を突き止めて、未然に防がないと………!)


 シンシアは屋敷を出ていく前に、世話係グレンダの命を救うことを決めた。


お読みいただきありがとうございます。

これからは1話が短めになります。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
シンシアにやり直しの機会が与えられて良かった
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