元女神様との学園生活(2)
「智也、どうしたの?早く一緒に食べよ?」
「………あ、ああ。」
こうなったら、後は神頼みしかない。俺が焦っているのは、シルフィが俺の部屋で寝ているからなんだ。シルフィが起きてこなければ、それでいい、それで———
『—————きゃああああああああ』
その瞬間、リビングから大きな叫び声が響いた。
一人が出せる声色じゃない。柔らかな声と、刺すような声、どちらの声も聞き覚えがあった。
「———こ、この声はまさかっ!」
急いでリビングに駆け走るも、時すでに遅し。
そこには、互いを見つめ合うシルフィと玲奈の姿があった。
「………よし、サンドイッチでも食べながら少し話そうか。」
◇ ◇ ◇
「………てな訳なんだが、信じてくれるか?玲奈。」
シルフィが俺の家に居座っている理由から、これまでの出来事を、玲奈に全て話した。
「そ、そんなの、信じられるわけないでしょ!!」
———ですよねー。むしろここで、素直に受け入れてたら逆にホラーだったし、少しほっとしたわ。
「まあ、この子が元々女神様っていうのは……百歩譲って理解できるわよ。———でも、なんでよりによってこんな可愛い子が智也の家に住むことになるのよ!」
玲奈は俺に向かって声を荒げる。
どうやら女神様の部分は受け入れてたらしい。………純粋なのか、それともただのバカなのか。
「そう言われても………しょうがねえだろ。シルフィは、帰ろうにしても帰れないんだから。」
「———あぁもう!なんかムカつくッ………!!」
何をそんなに怒ってるんだか。こんな可愛い子が近所に住むって聞いたら、俺ならむしろ泣いて喜ぶけどな。やっぱり可愛いだけじゃだめなのか………
「玲奈さん。その……全部私が悪いんです。なので、智也さんをあんまり虐めないであげて下さい。」
「シルフィちゃん………」
ほんと、元女神様の名は伊達じゃない。
シルフィが口を開いた途端、さっきまでの修羅場が一瞬で和んだ。
「………ううん、シルフィちゃんは悪くないよ。悪いのは全部このバカ智也のせいだから。気にしないでね?」
玲奈は、肩を落とすシルフィに優しく寄り添うように声をかける。
………どうやら和んだのは、シルフィと玲奈の間の空気だけだったらしい。
なんで俺だけ急にハブられてんだ。
「なんで俺が悪いことになってるの?俺、どっちかと言わなくても、被害者なんですけど!」
「バカ智也は黙ってて。シルフィちゃん、あんな奴の言うこと間に受けちゃだめだからね?」
「———なっ!」
前言撤回———女の子は、可愛いならなんでも許されるらしい。間違ってるよ、こんな世界。
「あの………それよりも、お時間の方大丈夫なんですか?」
シルフィは時計を指しながら、心配そうにそう告げた。
「はっ————やっべ!玲奈、こんなことしてる場合じゃねえ。急ぐぞ。」
「分かってるってば! ………なんで今日に限って全部裏目に出るのよー!」
玲奈は俺より一足先に、勢いよく家を飛び出していった。
自分だけでも間に合うようにってか。ひどい奴だ。
「悪いシルフィ、昼は適当に食べてくれ。あと昨日言ったアレ、頼むからな?」
「はい、任せてください!」
俺が慌てて靴を突っ込んでいると、シルフィはぱっと表情を明るくして、しっかりと頷いた。
「———じゃあ、行ってくる。」
「くれぐれもお気をつけて、智也さん。」
シルフィはそう言って、小さく手を振る。
「………ずるいですお二人とも。私だって、学校に通ってみたいのに………」
彼女以外誰もいなくなった家で、シルフィはぽつんとつぶやいた。
もちろん、その声が智也や玲奈に届くはずもない。




