元女神様との学園生活(1)
朝の眩しい斜陽が窓から差し込み、部屋の空気をゆっくりと温めていく。
小鳥のさえずりが一日の幕開けを告げ、高校二年生川崎智也と、元女神シルフィ(無職)の、慌ただしい月曜日が始まろうとしていた———
「———おはよう、シルフィ。って、よだれ垂れてるし………」
隣に目を向けると、シルフィが頬に少しよだれを垂らしながら、気持ちよさそうに眠っていた。その寝顔はあまりにも可憐で、まるで天使が昼寝しているみたいだった。
(………朝ごはん作り終えるまで、起こさないでおくか。)
時刻は六時半———こんな早朝に起こすのは可哀想なので、頬のよだれだけそっと拭い、そのまま眠らせておくことにした。そうして、朝ごはんを作るためにキッチンへと向かった。
シルフィが来る前は、朝ごはんなんてご飯にふりかけをかけて、それで終わってた。だが今はそうもいかない。なにしろ———シルフィがいる。俺のもてなしが原因でまた、『エネルギー不足です………(バタン)』なんてされては、たまったもんじゃない。
そんなわけで、朝ごはんを豪華にしないといけないのだが………
「………なにをつくればいいんだ。」
いかんせん献立が思いつかない。
母の偉大さというものは、日常のあちこちで実感するものだが、まさかこんなところにもあったとは。
そうして献立に頭を悩ませていると、ピンポーンとインターホンが鳴った。現代っ子なので、もちろん新聞はとってないし、宅配にしては時間帯がブラックすぎる。
記憶の隅々まで探ってみても、心当たりはない。
またしても、ピンポーンと家中に響き渡る。それも数回———いや、数十回。
「———はいはーい!今行きますからー!」
よし、一発ぶん殴ろう。俺は、拳にグッと力を籠めて玄関へと向かった。
ドアノブに手をかけ、勢いよく開ける。
「どちらさまで———」
「———ちょっと智也、出てくるの遅すぎ!」
ドアを開けた瞬間、肩まで伸びた小麦色の髪を揺らす美少女が目に飛び込んできた。
翡翠のように澄んだ瞳と、年相応にふくらんだ胸元が印象的だ。
………俺は、この美少女を知っていた。
星乃宮玲奈———幼稚園時代からの幼馴染だ。
「玲奈………!?———きゅ、急にどうしたんだ?」
「………た、たまには朝ごはんでも作ってあげようかなーって思って。」
玲奈は指先をいじりながら、どこか気恥ずかしそうに視線をそらす。
「………なんだ、そんなことか。」
「———そ、そんなことって何よ!こんなに可愛い美少女が、朝ごはんを作ってあげるって言ってるんだから、もっと喜びなさいよねっ!」
………自分で言っちゃうんだ、それ。まあ実際、自他共に認める美少女なんだけど。
学校でも玲奈に告白する生徒は少なくない。だが当の本人は、そういう話には興味がないらしい。
「喜べってそんな無茶な………だって、つい先週も作りに来なかったか?」
「——————っ!そ、そうだけど………」
「作りに来てくれるのはすごい嬉しいけど、他の生徒に見られたらまずいだろ。ほら、前みたいに周りから色々言われるのは、玲奈も嫌だろ?」
実は、俺と玲奈は、毎晩一緒に寝ていた時があった。俺が遅刻しないためという理由でだ。それを他の生徒に知られたことがあって………あのときは本当に大変だった。
「私は、別に———」
玲奈は何か言おうとして、そっと口を閉じた。
「………まあ、今回だけ特別だぞ。ほら、上がって———」
………いや待てよ。今俺の部屋には、シルフィが俺のベッドで寝ている。もしそんなところを玲奈に見られたりしたら………
「………あーそういえば、冷蔵庫の中なんにもないんだったわ。だから、来てもらったとこ悪いけど、今日は朝ごはん大丈夫、かな………」
「………ふふっ、そうだと思って—————安心して智也、サンドイッチ作ってきたからっ!」
玲奈は、スクールバックから、置き勉でもしないと入らない量のサンドイッチを取り出した。
てか、幼馴染の冷蔵庫事情知ってるの怖すぎるんですけど。
「………マジか。」
俺はつい、心の声を漏らしてしまった。




