第三十一話 事前の慣らし・後編
「基本的にこの場で感じる不快感、というのは重力の差異じゃないですか」
「まぁそうだな」
「なら、その重力自体を斬ってしまおうと」
「発想が飛躍してる気がするんだけど気のせい?」
重力が重いから斬ろう、という判断に至るまでの判断が早すぎる。言っていることは間違いではないし、恐らくそれが最適解のうちの一つであろうことは分かるけれど。
「言いたいことは分からんでもないが……いや分からんな、別に俺幽撃使えねーし。どうなの?」
「どう、と言われましても……綾華、出来る?」
「う、うーん……?」
「原理的には空中移動するときと大体一緒ですよー」
正直空中に壁を作るのはそんなに得意ではないんだよな……というか、そもそも幽撃で障壁を継続して作る、というのが難しい。皇もテオさんも当然のように使いこなしているけれど、本来はかなりの高等技術なので。
「……あ、確かに一瞬だけ動きやすくなる」
「本当ですね……維持するのはかなり大変ですけど」
「大変……なのか」
「ええ。大変です」
「ま、得手不得手ってのは誰しもあるからな。それに、一時的にフルスペックが出せるだけでも充分だろ」
「そうですね。出来る限り通常状態で慣らして……緩急をつける、というのは意味があるかと」
「なんなな?」
「そうだね。そのためにもこの重さに慣れないと」
「案外こういうときって、魔術訓練した方が手っ取り早い可能性もありますけどね」
「魔術訓練?」
テオさんの言葉を思わず聞き返す。確かにこの場は魔力濃度が高い場所ではあるけど、だからといって魔術訓練をするというのは……一体どういう意図なんだろう。
「魔術訓練?……あーまぁ確かに……魔力に慣れれば不快感は減るもんな。不快感が減ったら根本的解決はせずとも動きやすくはなるだろうし」
「ですです」
「綾華と大雅さんならそれで解決しそうですものね」
不快感が減れば実際に影響がなくとも動きが改善される。……とんでもない方向性の信頼じゃないだろうか。確かに不快感が減るだけで俺は動きをほぼ普段通りにまで戻せるとは思うけれど、大雅は立つことすらままならないんだぞ。
「そんなに変わるんですか?」
「影響自体は何も。ただ、重力の重さとは別に感じてる魔力への不快感、抵抗感が減る。現在若干起こってるであろう肉体と精神の剥離が消える」
「え、じゃあ寧ろ是が非でもやるべきなのでは……!?」
「そんなことが起こってたんですか」
そう言えば皇は魔術について詳しくはないけど出来る方だったな。というか大雅の言う通りそんな大きなメリットがあるなら鍛錬しない意味がないと思うんだけど……そもそもここでこんなに影響を受けるのが俺と大雅くらいなのか……?
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