36 キャンディスの男気
わちゃわちゃとくだらない話をしていると、グリムが話を戻す。
「―とりあえずこれで問題解決だな。意外とあっさり片付いちまった。創造神もやる時はやるもんだな。…で、これから何するんだ?もう林を抜けたら人目に付くぞ。」
ジーク達の目の前には王都が見えていた。
「とりあえず分神を飛ばすぞぃ!!ええか?リンクは繋げてあるから何時でも言うんじゃぞ。遠慮はいらん!分からん事は聞いてくれ。…あ!一つ言い忘れておった…。ワシ創造神の業務が溜まってるから暫く消えるぞぃ。後宜しくのぉ。」
「また勝手な…。」
「ワシのいない間でも、目を閉じて念じれば、リアルタイムで分神が見ているものが見え、記憶も辿れるからのぉ!試してみておくれ!」
「そんな方法あるなら別にジイさんに言わなくてもいいじゃん。」
「ワシを通した方が見やすいんじゃよ。」
「分かったわ。とりあえず試してみましょう。話はまた後で。」
キャンディスがそう言うと、他の皆も頷いた。そして創造神は分神達をそれぞれの場所へと飛ばした―。
そして創造神は業務へと戻って行った……かと思ったら直ぐに戻ってきた。
「そうじゃそうじゃ!忘れるところじゃった…!」
何かを思い出した創造神は、懐から一枚の紙を出しレベッカに渡す。
「―これ何?」
受け取った紙には“クエスト”と書かれていた。
「え!コレもしかしてクエストの依頼⁉」
「そうじゃ。これがお前さんら新生ギルドの“初クエスト”じゃ!前に話したが、デューエルの相手の強さが未知数じゃ。デューエルまでおよそ二年…。今以上に強くなることを期待しておるぞぃ!」
そう言って今度こそ創造神は消えた。
「やった!記念すべき一発目のクエストだ♪」
レベッカは嬉しそうにはしゃいでいる。
「おい!どんな依頼内容だ?」
気になるジークが「見せろ見せろ!」とレベッカを急かす。
「そうか。お前等この為に新しくギルド造ったんだっけな!俺らも新生ギルドのメンバーってわけだ。」
「期間限定だけど付き合ってやるか。そもそも人間に戻してもらわねぇといけないからな。まぁ相手の強さもたかが知れてるだろきっと。」
「デューエル終われば願い叶えてもらえるしね♪」
「ジーク。そういえばギルド名は何というんだ?」
シドのこの一言に、ジークとレベッカが固まった。
「…んっと…そッ、それより早く依頼を見せろよレベッカ…!!」
「え、ええ!そうね…!そうしましょ…!」
話を変えるべくレベッカはクエストを読み上げた。
「えっと…初クエストは…これ!“モンスター討伐”だって!」
「おっしゃ!猫の体でどこまでやれるか楽しみだぜ!」
「私この体めちゃくちゃ不安なんだけど…。何のモンスター討伐なの?」
「え~と、何々…。<フレア王国の都心で飲食のお店をやっています。最近店の近くに野良犬か野良猫か、はたまた野良モンスターなのか分かりませんが、倉庫の食材を盗まれて困っています。犯人を捕まえて下さい。モンスターなら討伐して下さい。宜しくお願い致します。>…だって!」
内容を読み終えたレベッカが皆を見ると、誰一人としてやる気が出ていなかった。
「―なぁ。それクエストレベル何?」
「レベル…?ああ!これね。…クエストレベル“E”だって!」
それを聞いてより一層皆の士気が下がった。
「おいおい…。デューエルにむけて強くなるのが一つの目的だろ?なんでレベルEなんて一番下のやつなんだよ。」
高難度のクエストを日々受けているランクS魔導士にとっては、拍子抜けもいいところだ。
一人冷静なシドが、的確な事を言った。
「新しくギルドを開設したばかりだからだろ。実績とギルドポイントを積まなければ、魔道機関もレベルの高いクエストなんて回さないからな。当然と言えば当然だ。」
「マジで⁉一発でレベルSとかこないの?のんびりやってる暇ないぞ。どうすりゃいいんだよシド。」
「俺に言われても知らん。決まりだからな。」
「全員でポイント荒稼ぎすりゃいいんだろ?簡単じゃねぇか。」
「いきなりそんな事したら目立つだろ。俺達の目標はあくまで二年後のデューエル。それまでに正体がバレたりしたら混乱が起こりかねん。」
「じゃあどうすんだよ。レベルSくるまで地道にコツコツか?やってらんねぇぜ。」
「シドのいう事が正しいわ。なるべく目立たずに…でも最短でギルドポイント稼ぎましょう。創造神も言っていたけど、相手の力が未知数なのは確かだし、私もそれなりに強いとは思っていたけど……上には上がいる…。」
キャンディスがジークを見て言った。
「負けた上に人生終わりなんて冗談じゃないわ。強くなれるなら強くなるに越したことはない。グダグダ言ってないでまず目の前の事片づけるわよ!」
気持ちがいいほどサバサバしたキャンディスに、皆モヤモヤが少し晴れたような表情だ。
「さすが俺のキャンディス姉さん♪いちいち惚れちまうぜ~。」
「私を落とすのはマスタークエストより難しいわよ♪」