王立学園
エミリアside
「ふんふふーん♪」
「エミリアおはよう。今朝は随分とご機嫌だな」
私がクレアを連れて食堂へいくと既にアル兄様が食卓に座っていた。
「アル兄様!おはようございます。今朝は随分とお早いですね」
「あぁ。今日はキースと一緒に近衛騎士に剣術の稽古をつけてもらう日なんだ。」
「そうなんですね。アル兄様は未来の騎士団の団長様ですもんね。頑張ってください!応援してます!」
私が精一杯応援するとアル兄様はふっと顔を綻ばせた。
「ありがとう。良かったらエミリアも見学に来ないか?王城ならともかく、王宮に行ける機会はそうないぞ?」
「すみませんアル兄様。今日はアリス様のお茶会にお呼ばれしているんです。せっかくですがお断りさせて頂きますわ。」
「そうかアリス嬢のお茶会にいくのか。通りで朝から機嫌がいいわけだ。楽しんでこい。」
「はい!ありがとうございます!」
そうして私とアル兄様は朝食を食べ終わり各々の予定に向けて準備をはじめた。
「そういえば、お父様とお母様は?私が朝食を食べている時には食堂に降りてこなかったようだけれど…」
食堂から自室へと戻っている最中にふと疑問に思ったのでクレアに聞いてみた
「旦那様は今朝早く、お嬢様がご起床なされる前に既に王城へ出発されました。奥様は…まだご就寝中でございます。奥様は元々体が虚弱でございますので激しい運動をされた日は回復にお時間を要するのです。」
「激しい運動?」
「はい。昨日は季節の変わり目に向けて庭園の並木の手入れをご自身でなされていたようです。奥様の従者が何度も止めたそうですが聞く耳を持たれなかったのでしょう。よくあるですから事体調には問題はないようなのでご心配には及びませんよ。」
「あはは…お母様らしい…お母様がご無事で何よりだわ。」
「ところでお嬢様、本日はドミナ公爵家のお茶会へ招待されていますが、お召し物は如何なさいますか?」
「そうね…クレアはどんな服装がいいと思う?」
「私ですか…?うーんお嬢様は基本淡い色のドレスがお似合いになるのでアリスお嬢様の髪色に合わせてピンク色のドレスなどいかがでしょうか?奥様から頂いたドレスの中に何着かその色のものがあったはずです。」
「わかった。じゃあドレスはクレアに任せるね。」
「はい。かしこまりました。」
クレアはそう言って丁寧にお辞儀をすると衣装部屋へと慌ただしく早歩きで向かった。
「ブライト、今日の1日の予定を教えてください。」
「はい。かしこまりました
まずお嬢様は本日の午後2時よりドミナ公爵家の茶会へと向かわれます。
本日の茶会は先日のような公のものではなく
、あくまでお嬢様とアリス公爵令嬢様の親睦を深めると言った意味合いが強いものでございますので、あまり緊張はしなくてもよろしいでしょう。
しかし、公爵家の令嬢としての立ち振る舞いは忘れないよう心がけてください。
ドミナ侯爵邸にはアリス公爵令嬢様以外にもご子息、御令嬢がが合わせて御三方ほどいらっしゃいます。その方々が不快に思われる行動はお控えください。」
「わかっているわ。立ち振る舞いの大切さは以前アリスにしっかりと教わったから」
「なら心配はご無用ですね。安心いたしました。」
「ちょっとブライト貴方私の事舐めてない?
これでも元々子爵令嬢だったんだから基本的なマナーくらい見につけていたわよ?」
「あぁ、いえ、消してそのようなつもりではないのですが、お嬢様が初めてこの屋敷にいらっしゃった時のことを思い出すとなんとも言えなくなりますので。」
「うっ…痛いところ着いてくるわね…あれは仕方なかったのよ。」
私が痛いところを突かれ言葉に詰まっているとブライトは少しだけ笑みを零すといつもの冷静沈着な顔に戻り予定をつらつらと話し出した。
「午前中はお茶会に向けでお嬢様には準備をしてもらいます。
ほとんどはクレアが担当することなので私がお手伝い出来ることはございませんが、全ての支度を11時までに済ませるようにクレアには伝えてあります。詳しいことはクレアに聞いてください。そして12時半までにはご昼食を済ませ、1時には馬車にお乗りになってください。」
「わかったわ。ありがとうブライト」
「いえ。では私は馬車の御者に最終確認をしてまいりますのでくれあが戻ってくるまでご休憩なされてください。」
ブライトはそういうと深深とお辞儀をすると静かにドアをしめ出ていってしまった。
「お嬢様!お嬢様にお似合いになりそうなものを見つけました!早速お試着して見てください!」
ブライトが出ていったのとほぼ同時にクレアが綺麗なパステルピンクのドレスを持って帰ってきた。とても可愛らしくてまるで花畑のようだ。
これからお茶会への慌ただしい準備が始まった。
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「お嬢様、もうそろそろ到着致します。お降りになる準備を。」
「わかりました…。」
ついにアリスがいるドミナ公爵邸に到着した。私が降りようとブライトの手を掴むとブライトが私の顔を見て眉を寄せた。
「お嬢様、大丈夫ですか?お顔が優れないようですが…」
「え?大丈夫よ?これからアリスに会えるのだからとても楽しみだわ!」
「ならよろしいのですが…。では参りましょうか」
「ええ」
私は馬車を降りた後ブライトのエスコートを受けてドミナ公爵邸の門をくぐった。
「エミリア・ラ・ヴァレンシュタイン様ですね。
本日はアリスお嬢様のお茶会へようこそいらっしゃいました。
私はアリス様の執事のクロウスと申します。」
門を潜りドミナ公爵邸の入口につくとアリスの執事というクロウスさんが挨拶をしてくれた。
クロウスさんのブライトと似通った漆黒の髪は黒水晶のように煌めいていて鮮血のような鮮やかな赤い瞳に思わず吸い込まれてしまいそうでどこか不思議な雰囲気を漂わせた青年だった。
「それでは早速お嬢様がお待ちしているお部屋へとご案内します。どうぞこちらへ」
「ありがとうございます。」
クロウスさんに言われるがまま案内されるとアリスが待っているという部屋へと到着した。
「お嬢様、エミリア・ラ・ヴァレンシュタイン様がご到着なされました。お通ししてもよろしいでしょうか」
クロウスさんがそういいドアをノックすると扉の先からアリス様の了承の声が聞こえた。
「どうぞ」
返事を聞いたクロウスさんが丁寧にドアを開けて私たちを通してくれた。
「まあエミィ!お久しぶりね。変わりないようで嬉しいわ!」
「アリスこそ!元気そうで何よりね」
扉の先にいたアリスは私と目が会うと一目散にやってきて私の事をひしと抱きしめてくれた
「ほんとに久しぶり!あえて嬉しいわ!」
「うふふ。アリス少しいたいわ」
「あ…ごめんなさい…立ち話もなんですから席に座りましょうか」
「ええ、そうさせてもらうわ」
案内された席に座るとそこにはとても豪華なアフタヌーンティーセットが用意されていた。
「クロウス、例の紅茶をお願い」
席につきアリスがそういうとクロウスさんがワゴンに乗せて紅茶を運んできてくれた。
クロウスさんが運んできた紅茶がティーカップに注がれるとたちまちにふわっといい香りが広がった。
「素敵な香りの紅茶。それにとても珍しい色ね。緑がかった紅茶なんて私初めて見たわ!」
「それはね隣の大陸のツキノミヤ帝国からお父様が買ってきてくださったの。ウィライティアという紅茶なんですって」
「まあ!そんな遠くからの代物をわざわざ飲ませてくれたの?ありがとう」
「友人のためなのですから。当然ですわ!
ところで…その、腕の傷は大丈夫ですの?」
アリスは一気に顔を曇らせ気を使うように私を見た。
どうやらそれを今まで心配してくれて今日もこのようにお茶会を、開いてくれたのだろう。
「心配してくれてありがとう。私はもう大丈夫よ、
治るのに時間はかかるらしいのだけれど成人前のデビュタントまでには完治すると仰られたわ。」
「そう…なら良かったわ…」
アリスはそういうとホッとし気が緩んだのか
目に涙を浮かばせた
「もう!済んだ話なんだからこんなことで泣かないでちょうだい。あなたは何も悪くないんだから。なにか別の話をしましょう?」
「ありがとう…そうね。私達が来年入学する王立学園の話でもどうかしら?私、先日お父様から話されたの」
「王立学園?」
「あら?エミィはまだレオン・ラ・ヴァレンシュタイン公爵閣下から聞いていらっしゃらないのね。こんな重大な話を私が全て教えるするのはすこし不躾ね…。王立学園については公爵閣下から直接聞いてみるといいわよ。」
「わかったわ。ありがとう!」
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「…というわけでアル兄様!王立学園についてなにか知っていませんか?」
アリスとのお茶会を終えた私はドミナ公爵邸から直接お兄様が稽古をつけて貰っているというパレスティア王宮へとやってきた。
「どういうわけでエミリアがわざわざ稽古場まで来て俺に聞くことになるんだ。お父様は政務中にしても屋敷にはお母様がいらっしゃるだろう。というかよくここまでブライトと2人で来れたな…」
「お母様はまだ回復なされていないようなので…
王宮の通行証はブライトが話してくれたのですんなり貰うことが出来ました!」
「はぁ…ったく。その行動力誰かさんにそっくりだな」
アル兄様は何故呆れているのだろうか。
アル兄様がやれやれと言っているとその向こうから見慣れた人影が見えてきた。
「やあエミリア嬢。会えて嬉しいよ。なぜこんな所に君が?」
「あっ…キース様!ご機嫌麗しゅうございます!あの少し
アル兄様に用があったので参上致しました。」
「アルに用事?アルなんかより僕の方がエミリア嬢の役に立てると思うよ?」
キース様はそう言ってアル兄様の方をちらりと見るとふっと不敵な笑みをアル兄様に向けた。
するとアル兄様は眉間にシワを寄せるとキース様を睨み返した。
「チッ…キース、お前が知ってることくらい俺だって知っている…
と、言いたいところだが、残念ながら俺もエミリア同様王立学園の情報は無いに等しい。お父様からの説明は俺とエミリア、同時に行うだろうからな。今回はキースに教えて貰え。」
アル兄様の言葉を聞くとキース様はまた不敵に笑った
「エミリア嬢は王立学園について聞きたの?」
「はい…実は…」
私はキース様にアリスの邸宅でのお茶会で王立学園が話題に上がったことをお話した。
「なるほど…つまり僕は王立学園のことを説明してあげればいいんだね。エミリア嬢?」
「はい!よろしいでしょうか…?」
「もちろんさ。ではまずは大まかなところから説明しようか
王立学園、正式には王立パレスティア学園、現王妃が学園長として管理する貴族専用の学校だ。
クラスはSAクラス、Aクラス、Bクラスにわけられる。
SAクラスは王族に続くごく1部の上位貴族のクラス
Aクラスはその他の貴族、Bクラスにはそれらの従者が通う。
学ぶ内容は庶民の学校とそう変わらないが、大きく違うところといえば魔法授業を行うという点かな。魔法は貴族の特権だからね」
「魔法…とはなんですか?」
「ん?エミリアお前、魔法を知らないのか。魔法はこの世界に存在するエネルギーを使い人智を超えた力を操ることだ。俺たち子供はまだ魔法は使うことも出来ないし見ることも出来ない。確か学園に入学した時にする儀式で力をさずけられるんだろ?」
「うん。正確には力を解放させられるんだ。僕たち貴族は一人一人にどんな魔法を扱うことができるのかが生まれた時から定められているんだ。けど幼い子供がその力に触れるのは時には脅威にもなるから、生まれた瞬間に自然に体内で封印されるんだ。その封印を解くのが魔力解放の儀だ。
学園に入学した直後にその儀式がある。魔法は上手く扱うことが出来れば己を守る盾、そして敵をしりぞける矛として僕達を助けれくれるものだよ。」
「そうなのか…お前、よくそんなに詳しく知ってるな」
「お母様が教えてくださったんだ。未来の王たるもの早めに知って損は無いってね」
「そうなんですね…教えてくださって本当にありがとうございます!」
「エミリア嬢の力になれたのなら嬉しいよ。またなにかあったらアルなんかより僕に頼ってね」
「お前なぁ…」
またキース様とアル兄様が睨み合いを始めると遠くから眺めていたブライトが急ぎ足でこちらへやってきた。
「アレン様、お嬢様、もうそろそろ夕の刻になります。
もうそろそろお帰りにならなければ御夕食に間に合いません。」
「そうか…もうそんな時間かキース、悪いが今日は帰らせてもらう」
「あぁ、それは残念だなエミリア嬢、また会えることを楽しみにしているよ」
キース様はそういうと私の手の甲に軽いキスをした。
私は社交辞令とはいえ急にされたことに驚き脳内は完全にオーバーヒートした。
「なっ…お前なぁ…」
私が混乱して突っ立っている間にアル兄様が私を引き寄せキース様と離すとキース様のことをまるで罪人でも見るかのような目でみくだした。
「エミリアに気安く触れるなと言っただろう?」
「相変わらずアルはエミリア嬢のことになると手厳しいな」
キース様は私とアル兄様を見比べるとそう言ってクスクスと笑った。
「2人ともまたね」
「は、はい…本日は大変ありがとうございました。」
「エミリア、キースにはもう挨拶するな」
「そういう訳には行きませんよ?!」
本当に君たちは中がいいな。さあお付のものが待っているようだし早く行け。
「そうする。キース、またな。」
「あぁ」
キース様はそういい手を挙げるととても綺麗な笑顔で私たちを見送ってくれた。
(屋敷に帰ったらお父様に学園のこと、もっと詳しく聞かないと!)